第11話 水香の病院生活

  夏江は,水香が入院している病院に着いた。ICU治療室だ。水香は全治2ヶ月ほどの瀕死の重体だった。右太ももの怪我もひどく,仮にICU治療室から一般病棟に移されても,リハビリに半年くらいは必要だ。


 そんな重体な水香でも,特別に医師の許可を取り,夏江は水香に尋問することできた。ただし,水香が答えるのは,「はい」と「いいえ」のみで,「はい」の場合は右手の指が動き,「いいえ」の場合,左手の指が動くというレベルのものだ。質問できる時間は10分間だ。


 夏江「水香さん。あなたを襲撃した人は,わかりますか?」

 水香「いいえ」

 夏江「B学園の用務員や,校長,教頭,さらに生徒の多くが突然死しました。あなたが殺したのですか?」

 水香「いいえ」

 夏江「では,誰が殺したのか,わかりますか?」

 水香「いいえ」

 夏江「グランドから50メートほど離れた場所に,4人の男性が首を刈られて殺されました。この事実は,知っていますか?」

 水香「いいえ」

 夏江「なたは,今,指輪をしていないけど,以前していた指輪はどうしたのですか?誰かに渡したのですか?」

 水香「いいえ」

 夏江「では,なくしたのですか?」

 水香「はい」

 

 夏江は,指輪について,もっと,突っ込んで聞きたかったが,ここまでとした。それよりも,水香が,今,非情に危険な状況にあることを教え諭すほうがいいと思った。


 夏江「この国には,超法規的措置があるのは知ってしますか?」

 夏江「いいえ」

 夏江「以前,何百人もの人たちを自殺に追い込み,かつ,お金を奪った大悪党がいました。でも,証拠がありません。そこで,超法規的措置をとり,最先端の兵器でその人物を殺害する措置を取りました。


 今の水香さんは,その人物と同じような状況になる可能性があります。このまま,自殺者や殺人が続いてしまうと,たとえ水香さんが,レイプされた被害者であっても,金銭的に奪う行為がなくても,超法規的措置が取られる可能性があります。


 その点をよく考えてください。いいですか?水香さん。ここでのやりとは,なんら証拠にはなりません。それに,われわれは,あなたを守りたいのです。超法規的措置が執行されるような事態を避けたいのです。あなたは被害者だ。守られるべき人です。


 最後に質問します。あなたは何か隠していますね?何か隠していて,でも,それをまだ言いたくないのですね?」


 この質問に,水香は,少し躊躇ったものの,右手の指を動かした。


 水香「・・・,はい」


 夏江「今は,その返事だけで結構です。わたしたちは,全力であなたを守りたいと思います。わたしの上司に,極端な結論を出すようなことはしないようにお願いしておきましょう。早くよくなってください」


 夏江は,水香への質問を終えて,病棟を去ろうとした。


 そのとき,ある看護婦が夏江に声をかけた。


 看護婦「あの,,,ちょっといいですか?」

 夏江「はい,どうぞ」

 看護婦「あの,,,捜査の参考にはならないとおもうのですが,ちょっと,不思議なことがあったものですから,お耳にいれようと思いまして」

 夏江「なんでも結構です。おっしゃってください」

 看護婦「はい。あの患者を手術した医師が手術中に言っていたのですが,普通なら,出血多量で死んでいたそうです。動脈が傷ついていて,絶対に血が止まるはずはないない状況だったそうです。でも,血は止まっていました。切断されているはずの血管が不思議な何かよって繋がっていたどうです。その医者は,ともなく,その部分を人工血管に変えました。血管を取り替えたあと,取り外した血管を詳しく観察すると,その不思議な何かは消えてしまっていたそうです。おかしなことがあるもんだと,しきりに不思議がっていました。わたしたちは,冗談で神様が助けてくれたんだと噂しました。あの,,,それだけです」

 夏江「血が止まらないのに,止まっていた?」

 看護婦「はい。手術を担当した医者がブツブツつぶやいていました」

 夏江「そうですか,,,わかりました。ありがとうございます。とても参考になりました」

 看護婦「いいえ,では失礼します」


 病院からの帰り道,夏江は,心の中でつぶやいた。


 夏江『とにかく,水香には,なんらかの超現象を行っている『誰か』の存在がいるわ。それは,指輪に関係しているに違いない。でも,水香は指輪をしていなかった。絶対,何か隠している。水香が元気になったら,しっかりと問い詰めてやるわ』


 その後,例の血管の修復についても考えを巡らした。


 夏江『敗れた動脈の血管は,そのままでは血は止まらないわ。破れた動脈を物理的に圧迫するか,何かで覆って,血流が別のところに流れないようにする必要があるはず。やはり,『何か』が存在して,その『何か』が水香を助けたはず。その『何か』って,なに?』


  夏江は,あれこれ考えながら警視庁に戻った。

 


 ー 水香の入院している病院 ー


 水香は,『水香』という名前で入院していない。マスコミから『水香』を隠すためだ。今は,『和美』という名前で入院している。

 

 銃撃されてから2週間後,水香はICU治療室から一般病棟に移動になった。


 水香は,点滴装置を持ちながら,びっこをひいて歩き始めた。足の筋肉の退化もあり,最初は満足に歩けなかった。


 一般病棟に移って1週間ほどした頃から,リハビリを始めるようになり,歩く練習を始めた。


 この頃になると,食事を取りはじめ,点滴装置も外れた。


 水香は,歩く練習のため,病棟をぐるぐると歩き回った。

 

 このときの水香は,左手に指輪をしていた。メリルの霊体が水香の体を憑依したとき,霊力を使って,腟内から排出させて左手の指にはめた。


 そして,症状の軽い入院患者を選んで,おしゃべりを楽しんだ。そんなことは,水香には絶対に無理なことだった。


 それは,水香の体に憑依したメリルだった。メリルも,正直言うと,そんなことはたくない。でも,そうしないと,精力や寿命エネルギーを奪うことができず,死活問題となってしまう。やむを得なかった。


 メリルの手口は単純だ。


  病棟が個室の場合,ガラガラとドアを開けて,あたかも自分の部屋のように振る舞う。


 メリル「あれ?ここ,わたしの部屋じゃないの?え?ここ何階?」


 さも,フロアの階を間違ったように装う手法だ。


 患者A「ここは,11階だよ。何階に行きたかったの?」

 メリル霊体「12階だとばっかり思ってた。すいません。あの,わたし,和美っていいます。あなたは?」

 患者A「おれ?太郎だよ。足を骨折してしまって,このざまだ」

 メリル霊体「まあ,それは大変ね」

 患者A「あなたは,何の病気なの?」

 メリル霊体「なんか,拳銃で撃たれてしまったみたい。生きているのが不思議だって言われたわ」


 ここまで,来れば,もうしめたものだ。初めて会っても,指輪を患者Aの手に触れさすことは容易なことだ。


 その患者は,その時は,まったく気が付かなかったが,水香が『バイバイ,また,明日来るね』と言って去ったあと,なぜか,どっと疲れてすぐに寝てしまった。あたかも『元気』が奪われるかのようだった。


 2回目,3回目と会話を交わすと,もう恋人気分だ。


 メリル霊体「ねえ,あなた,若いんでしょう?性処理はどうしてるの?」

 患者A「え?いや,,,その,,,おれ,恋人いないし,,,」

 メリル霊体「じゃあ,わたしがなってあげる。いい?」

 患者A「ほんと?」

 メリル霊体「ほんとうよ。でも,エッチは,あなたが退院してからね。それまでは,手でしてあげるわ」


 メリル霊体は,患者Aの逸物をしごいて勃起させた。そして,あたかも勝手知ったる熟練娼婦のように,患者Aの溜まりに溜まった精子をすべて水香の口の中に放出させた。その後は,その口の中の精子を細長い携帯用の空容器の中に吐き出した。後で,膣の中に入れるためだ。


 メリル霊体「どう?気持ちよかった?」

 患者A「さ,最高だっ。和美さん,今度は,おっぱいを触らせてくれないか?」

 メリル霊体「ふふふ。明日にしましょう。でも,わたし,金欠なのよ。入院費用も払えないの。ちょっとでも,お金カンパしてくれる?」

 患者A「5万円くらいなら,すぐになんとかできるよ」

 メリル霊体「うれしい。ありがとう。これだけでも,とても助かるわ」

 

 また,別の患者Bでは,同じく手と口で精子を搾り取ったあと,感極まって,水香に嘆願した。


 患者B「和美さん!!超最高だ。こ,こんなの初めてだ。結婚してくれ。あ,でも,まだ12歳だったね。そうだ!退院したら,まず,同棲しよう。父が金持ちだから,いくらでもお金をあげるよ。愛人でもいい。毎月100万円あげる!!」

 メリル霊体「じゃあ,今,100万円ちょうだい。愛人になってあげるわ」

 患者B「OK!!明日,100万円準備するね」

 メリル霊体「じゃあ,また,明日ね。100万円くれたら,エッチしてあげる」


 こんな感じで,メリル霊体は,病棟の患者20人を相手に,毎日,精子の搾取に励み,かつ,小金も稼いでいった。


 

 ー ある刑務所 ー


 セイジは,軽犯罪程度の事件を起こし,近くの刑務所に収容されていた。いつものように,朝食時に朝のニュースを食堂で食事しながら見ていた。


 アナウンサー『1ヶ月ほど前,B学園の4名の男性が,殺害される事件がありました。捜査を都合上,警察側はこの事実を隠蔽していましたが,われわれニュース記者が,やっとこの事実を突き止めて,報道することができました。なんと,被害者は,鋭利な刃物のようなもので首を切断されたようです。しかもその刃物は,なんと,透明だったというのです。


  被害者は,いずれも男性で,殺害現場の近くに住む,源太,A男,D男,E男の4名です。死亡推定時刻は,,,,』


 このニュースを聞いて,セイジは手にもっている箸を落とした。


 コトン!


 セイジ『何ーー!!源太さんたちが殺された??!! 誰に?!いや,待て,,,殺したのは,,,水香か?いや,そうだ。水香しか考えられない。となると,水香の次のターゲットは俺だ。でも,どうやって,俺を殺す?刑務所に面談を申請するのか?いや,それはない。監視カメラがある。それに犯人が水香だとすぐにバレる。

 水香は,バレない方法で暗殺できるはずだ,,,』


 セイジは,体が震えた。でも,どうすることもできなかった。いや,弁護士を通じて警察に手紙を書くことはできるはずだ。


 セイジは,次回の弁護士との面談のときに,自分が,4名の男性が首を刈り落とされた連中の仲間であること,そして,水香をレイプしたことがあること,そして,水香は,必ずセイジに復讐しに来るはずだと切々と訴えた。


 弁護士は,面倒くさいことは嫌いだったが,セイジが訴えている内容くらいは,警察に伝えることにした。


 そのセイジの訴えは,巡りにめぐって,特捜課の多留真のところに届いた。


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