第5話 第2の事件


 超現象捜査室。


 ここは警視庁内部でも,一部のものしか知らない部署だ。地下室の資料室の片隅に,この超現象捜査室はある。こんなところに超現象捜査室があることなど,ほとんどのものは知ることはない。


 超現象捜査室なるものが存在することは,特捜課の職員になり,かつ課長クラスに昇進して始めて知ることができる。今は,室長以外,正規のスタッフはいない。


 超現象捜査室の室長は,すでに警視庁を定年退職し,嘱託として,新しく新設された超現象捜査室の室長に就任した人物だ。閑職と言ってもいい。常勤の部下はない。非常勤の部下が1人いるだけだ。


 この超現象捜査室に,常勤の職員になる予定の女性職員が配属になる予定だ。それは夏江だ。


 その夏江が始めてこの捜査室に顔を出した。夏江を見て室長が声をかけた。


 室長「あら?こんなところに異動願いを出すなんて,酔狂な婦警もいたものね。刑事の激務がいやになって,のんびり暇をもてあそびたくなったの?でも,それなら,事務仕事でもすればいいのに,なんでこんな変なところに来たの?」


 そう言われて,夏江はクスッと微笑んだ。確かに誰もこんな訳の分からなない部署には来たがらない。ちょっとおちゃめに自己紹介することにした。


 夏江「室長ですね?初めまして。夏江です。24歳。Dカップでーす。まだ処女でーす」


 夏江は,自慢のおっぱいを突き出した。


 室長「変わった自己紹介だね。でも,あなたが始めての常勤の職員というわけだ。実際に仕事をするのは,夏江さんになりますよ。頑張ってください」

 夏江「はい。頑張ります。それで,今,仕事は何があるのですか?」

 室長「そうね,,,コーヒーを沸かすことくらいなか?3人分でお願い」

 夏江「え?わたしたち2人しかいないのに,3人分ですか?」

 室長「今日は,非常勤のスタッフがコーヒーを飲みに来る日だからね」

 夏江「?」


 夏江は,質問するのを後にした。コーヒーを沸かしていると,ひとりの少女がやってきた。


 室長「あら?いつもよりも早いわね。茜さん,お元気でしたか?」

 茜「元気でもないです。千雪様がぜんぜん相手にしてくれなくて,,,」


 この話を聞いて,理解するのは室長だけだ。つまり,最近,茜のボスである千雪が,茜を抱かないから,胸を大きくしてもらえないということだ。もっとも,茜の胸は,すでにZカップを越えて,片方だけで15kg,両方で30kgにも達する化け物的おっぱいになっている。おまけに妊娠5ヶ月で,母乳もどんどんと出てしまっていている。


 茜はエロビデオの主演女優としては超有名人だ。茜の出演するビデオ映像は超過激な内容がほとんどだ。本番中だしは当然だが,おっぱいへの串刺し,釘打ちなど,拷問内容を中心に出演している。


 というのも,茜は『あずさ』の交代要員なので,『あずさ』と同じことが要求される。それに,監督も以前の千雪に強烈に精神支配されているの身なので,なんら遠慮無く,茜の体をギタギタに破壊していった。


 男優たちは,あずさの相手をした後,必ずと言っていいほど自殺した。警察が自殺の要因を調べたが,金銭的・愛欲的なトラブルがないことなどから,事件性なしとして処理された。


 『あずさ』から茜に代わってからは,いっさいそのような自殺事件は起きなくなった。ただし,茜を抱いた男優は必ず失踪した。でも,いまだにそれが事件にはなっていない。だって,死体が発見されないからだ。


 室長は,相変わらず茜がぜんぜん元気のない様子なのだが,それにおかまいなく,室長としての仕事をすることにした。それは,千雪の最近の動向を聞くことだ。


 室長「茜さん,あまり気落ちしないでください。そのうちいいことがあると思いますよ。ところで,あなたのボスは元気ですか?」

 茜「はい,とても元気のようです。千雪人形さまは,だんだんと,体を霊力の材料に置き換えていっているようです。何もない状態で体を造るよりも,何倍も楽だと周囲のものから聞いています」

 室長「フフフ。平和でいいね」


 これが室長の,超現象捜査室としての仕事だ。そして,その仕事はこれで終わりだ。


 化け物的強者である千雪の動向を常に把握しておくのは,国家として絶対にすべき大事な仕事だ。 その任務は本来,警視庁でもα隊がすべきことだ。だが最近,α隊の活躍が警視庁でも有名になってしまい,情報隠蔽性に問題がでてきた。特に,千雪を監視する役目については,最高度の極秘性を要する。そこで,新しい組織を創ることにした。それが超現象捜査室だ。


 その組織に,元α隊の隊員である茜を非常勤職員として採用することを名目にして,千雪の動向を把握することにした。つまり,超現象捜査室とは,茜のために新設した組織と言い換えてもいい。


 そんなことを知るのは,大統領,治安特別捜査部α隊隊長,SART隊長,警視庁長官などの他に,政府要人だけだ。もちろんそんなことは,夏江や茜は知る由もない。


 夏江は,ジャコウネコの糞からとれたコーヒー豆を挽いたコーヒーを茜に出した。茜は,そのコーヒーを一口飲んだ。


 茜「あら?このコーヒー,苦みがなくて,すっきりしておいしい。あなた?新人さん?」

 夏江「わたしは,今日からここに配属された夏江と言います。特捜課内部の異動なので辞令はでません」

 茜「わたし,茜といいます。でも,夏江さんはエリートの特捜課なんでしょう?この超現象調査室は,特捜課の下部組織ですけど,仕事なんて何もないわよ。わたしは週に2回,ここに来て,コーヒーを飲むだけですから」


 そう言って,茜はコーヒーを一口飲んでから,言葉を続けた。


 茜「もっとも最近は,撮影現場から直接ここにきていますけどね。今日も,72時間,連続休みなしで,100人の男優に犯されてつづけて,粘液で塗れた体でここに来たのですよ。幸い,結界魔法がうまくなったので,臭気の発散を抑えることができようになったの。

 それに,この15kgもあるおっぱい,乳首を切リ抜かれて,乳首の穴で犯されてしまうのよ。それでも,そこからは血ではなく母乳が出てしまって,,,いったい自分の体は,どうなってしまうのか,もうわかんなくなります」


 こんな内容を聞くと,夏江はさすがにびっくりした。


 夏江「ええーー!!そんなこと,許されるんですか?!」

 茜「千雪様の命令は絶対です。わたしは,連日,口,両方の乳首の穴,ほかの2つの穴の5箇所に,5本のあれを同時に刺し込まれて,あれを放出され続けられる毎日です。食事は,口から放出される粘液だけです。だんだん体がおかしくなってきました。特に,乳首はあそこと同じような機能を持つようになり,かつそこから母乳をさらに大量に出るようになりました。もう,化け物です。AV女優と言っても,おっぱいを釘で打ち付けられて固定されて,その固定されたおっぱいで,乳首の穴にあれを挿入されて,,,」


 室長「あーー,コホン。茜さん,その話は,そこまでにしてください。夏江さんはまだ処女なので」


 ここで,室長は話を止めた。これ以上,話がすすんでしまうと,新人の処女の夏江には,ショックが大きすぎるからだ。


 茜「えーー!わたしも,処女でした,,,」

 室長「えーーと,その,,,」


 室長は,茜に話すタイミングを与えないことにして,話題を変えた。


 室長「夏江さん,ここへの配属を希望した理由を聞いてもいいかな?」

 夏江「はい,もちろんです」


 夏江は,女子寮殺人事件の内容を説明してから,配属理由を述べた。


 夏江「この女子寮殺人事件の犯人は,水香という女性に間違いありません。でも,直接的な証拠がないんです。そこで,信用できる霊媒師の力を借りて,準証拠を掴みたいのです。この部署に来ると,信用できる霊媒師の情報が得られ,かつ,霊的な現象でも,『証拠』として立証できると聞きました。それで,思い切って,この部署に来たんです!」


 その話を聞いて,室長は,クスクスと笑った。


 室長「それは誰の入れ知恵かな?」

 夏江「はい。元上司の多留真巡査長です」

 室長「そうか,,,あのすけべ巡査長か,,,さてはもうすでに体を犯されてしまったのかな?」


 夏江は,何かいやな予感がした。


 夏江「触れたのはおっぱいだけですけど,,,でも,それって,もしかして,多留真巡査長の口からのでまかせですか?」

 

 室長は,笑いを抑えてから言葉を発した。


 室長「まあ,そういうことになるだろうな。だって,わたしがここの室長になってから,霊媒師なんて言葉を聞くのは始めてだ。ましてや信頼できる霊媒師なんかの情報なんてあるわけがない。でも,幸いにもあのスケベ巡査長から,よく処女を守ったと褒めるべきだね」


 室長は,またニヤニヤとしてコーヒーを飲み始めた。


 夏江は,愕然とした。わたしはこれから,どうすればいいのか,,,


 室長「夏江君,まあ,ここに来た以上は,のんびりとすることだね。そのうちいいこともあるでしょう」


 その言葉に茜も同調した。


 茜「はい,わたしもそう思います。夏江さんの転属祝に,近くのケーキ屋さんから,ケーキを配達してもらいましょう。景気良く,夏江さんの転属祝いをしましょう!」


 かくして,意気消沈した夏江とは対照的に,茜はニコニコとしてケーキを注文した。



 翌日,,,


 - 特捜課 ー


 夏江は,特捜課の多留真巡査長に会いに行くことにした。会って一発殴ってやりたかった。多留真は,夏江の体目当てに嘘八百を並べて,夏江の進路を狂わせた人物だ。殴らないと気がすまない!!


 それに,女子寮生殺人事件の進捗状況も把握したかった。夏江が転属したことによって,この事件の直接的な担当から外されたからだ。その後の情報がまったく入ってこなくなってしまった。


 特捜課に来てみると,てんわやんわの状況だった。新しい集団殺人事件が起きたからだ。5名の男たちの殺人事件だ。容疑者は例の水香だ。しかも彼女は,殺された5人から誘拐されて,かつレイプ未遂の被害者でもあった。

                        

 夏江は,忙しく動き回っている多留真を捕まえた。

 

 夏江「いったい何があったの?」

 多留真「ああ,夏江か。今,お前に構っている暇はない。お前のおっぱいも触る時間もない。さっさと自分の部署に戻れ」

 

 夏江は,けんもほろろに相手にもされなかった。


 そこで,夏江と仲の良かった事務職の女性に声をかけた。

 

 夏江「ねえ,何があったの?」

 事務の女性「あら?知らなかったの?例の寮で6人が死亡した事件の容疑者水香が,今度は,レイプに遭って,その加害者の男たち5名を殺したらしいわ。ナイフで首を刺したらしいわよ。今,現場で残っているビデオ映像を解析中よ。それに,殺された人の身元調査でてんてこ舞いだわ」

 夏江「水香?彼女は,今,どこにいるの?」

 事務の女性「夏江さんは,もううちの部署とは違うから,これ以上教えられないわ」


 事務の女性は,そういいつつも,パソコンのモニターを示した。そこには,水香の入院先の病院名と住所が記載されていた。


 夏江「ありがとう。助かったわ」


 夏江は,ニコッと笑って,超現象捜査室からこっそり持ってきた5杯分のジャコウネコのコーヒーの粉を,その事務の女性に渡した。


 夏江は,ラインで多留真に,夜の10時頃に会ってほしいと連絡した。場所は多留真のアパートだ。


 夏江は多留真に会う前に,水香の入院している病院に行った。警察手帳を出すことで,なんら問題なく水香と会うことができた。


 水香「夏江さん? 他の刑事さんから,別の部署に異動になったって聞いたのですけど?」

 夏江「そうよ。通常の捜査では解明できない案件を解決するための部署よ。ちょっと話しをしてもいい?」

 水香「はい,どうぞ。別に隠し事はありませんので」


 水香は,スーパーの帰りに誘拐されて裸にされて,犯されそうになったことを説明した。レイプ未遂犯の連中が死亡した原因については,まったくわからないとだけ説明した。だって,その通りだからだ。


 夏江「いろいろと大変ね。でも,あなたの周囲で,すでに11

人も死んでいるのよ。このまま安穏と生活することはできない状況になると思うわ」

 水香「11人も,,,わたしって,疫病神なんですね,,,」


 その言葉に夏江は,なんの反論もできなかった。実際,その通りだと思った。


 夏江が去ったあと,水香は病室でテレビをつけた。テレビでは,5人の不良が全員死亡した事件を詳しく報道していた。ただし,水香の名前は未成年ということもあり,『M子』という名前で報道されていた。幸いにも,この病院に押しかけてくる記者連中はまだいなかった。警察が,M子の所在を隠蔽しているためだ。



ーーー


 隣町の不良どもに水香を犯して殺すように依頼した源太は,仲間を緊急召集した。


 すぐに5人の仲間が源太の部屋に集まった。


 源太「すでに報道で知っていると思うが,殺人を依頼した不良どもが全員死んだ。死因はナイフで喉を切られたことによる出血多量らしい。水香はどこかの病院で入院中だ」


 この説明に,副リーダー格のセイジが返答した。


 セイジ「つまり,水香が奴らを殺したとみていいということですね?」

 源太「それしか考えられない。ナイフをやつらから奪って,逆襲したのだろう」

 セイジ「殺された連中に,我々が依頼したことはバレないでしょうか?」

 源太「大丈夫だと思う。偽名を使ったし,ビデオ通話に使った携帯もすべて偽名で架空の住所で登録している」

 セイジ「どちらにしても,我々が水香を殺すのが先か,我々が水香に殺されるのが先か,という問題になりますね?」

 源太「そうなるだろうな」


 全員、待ったなしの状況を理解した。


 源太「こうなったら、半端な殺人請負人ではダメだろう。裏世界で有名な殺人請負人に殺人依頼をしたいと思う」

 セイジ「でも,誰に依頼していいのか,まったくわかりませんよ。それに,もうかなりの借金してしまって,金の工面も難しい状況です」

 源太「それでも,ひとり200万円を集めてほしい。合計1200万円を準備したい。その金額があれば,一流の暗殺者を依頼できると思う。借金できるものは,借金し,できないものは,スリでも,オレオレ詐欺でも,何でもしろ」


 その提案に,ほとんどの仲間は賛成も否定もしなかったが,セイジは否定した。


 セイジ「それなら,いっそのこと軽犯罪で捕まって,監獄暮らしをして,水香から身を隠すほうがいいのではないですか?」


 セイジの反論に,源太は怒ることはせず,セイジの好きにさせることにした。


 源太「それもひとつの方法かもしれん。セイジは,そうしたいのか?」

 セイジ「はい,もうこれ以上,借金はできません。どこかで商品でも盗んで,監獄送りになる道を選びます」

 源太「それはそれでいいだろう。他のものは,どうする?」


 他の者は,結局,源太の提案に賛同した。


 源太「よし。今後は,携帯同士での連絡は禁止だ。公衆電話から携帯への連絡はOKだ。では,セイジ以外は,200万円を集めること,かつ,一流の暗殺者を探すこととする。では,1週間後に,この場所で打ち合わせを行う。各自,行動に移せ」


 


 

 

 

 

 

 

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