第10話 案内係
トリシアの心はホクホクだ。だが、現実問題に向き合わなければ。
「……ウェイバーさんに王都での仕事、増やしてもらえないか聞いてみようかな!」
「……それがいいですね!」
「……うん」
「……それがいい」
トリシアを含めた全員が、節約をするより収入を増やした方が早いと理解した。
「力及ばず……」
「ごめん……」
「いやいやいやいや!」
双子がトリシアに頭を下げようとしたので急いで止めた。どう考えても悪いのはトリシアだ。
「余計なこと頼んでごめんね……!」
「いつもしっかりしてるトリシアさんのこんな一面も素敵だと思いませんか?」
スピンがフォローを入れてくれるが、言い方が少々くすぐったい。
(新しい物件のこともあるし、いい加減落ち着こう……)
仕事を全うできなかった双子の表情を見て心底反省したトリシアだった。
「予算を決めるわ! 今回王都で稼ぐ予定の3分の1までにする!」
「無理のない目標だと思います!」
3分の1と言えどかなりの額になることをスピンはわかっていた。
「コ、コインロッカー用の金庫も含めてよ!」
あっさりスピンに自身に甘い金額設定なのがバレた気がして、急いで情報を追加する。
コインロッカー用の金庫は特設エリアが出来ていた。各工房から出されて選りすぐりの魔道具が一か所に集まっている。大型、小型、鍵の種類も多種多様だ。
「見応えありますね!」
「サイズがいっぱいあるー!」
各工房、力を入れているのか見応えがある。
「金庫に宝石かぁ」
「お金持ち向けですね」
(金庫を金庫に入れないといけないんじゃ?)
と、思われるようなものまで。
「……でも、金庫は隠すものだろう?」
「見せる人がいないのでは……?」
「自己満足というか、ロマンの世界かしらねぇ」
「あえて見せる人もいると思いますよ」
価格の幅も広い。が、やはりどれもそれなりの値段がする。
そして、やはりトリシアが惹かれるのはクラウチ工房のものだった。シンプルで使いやすそうだ。取り扱いも簡単な方がいい。色んな冒険者が使う予定にしている。
(サイズ感も機能もフォルムも使いやすそう!)
長方形の金庫は片開きで、冒険者がよく背負っているサイズのリュックがゆったりと入るくらいの大きさだ。鍵をかけるまではそこまで重さはないが、かけた瞬間にずっしりと重くなり、通常の人間の力では決して持ち運ぶことはできない。数字による暗証番号と手紋により鍵を開けることが出来るようなっていた。
クラウチ工房の金庫の側に初老の男性がいる。腰には商人ギルドの身分証である鍵がぶら下がっていた。だが彼は金庫を買いに来たわけではなく、案内係としているようだ。それをみて彼が代理店の人間なのだとわかった。先ほど
「うわ~! すごい! サイズのオーダーも出来るの!?」
案内板にはサイズと金額が記載されている。ここも他社と違うところだ。他の工房では値段の交渉が当たり前だが、ここは料金が明確になっていた。足元を見られることがない。
(とはいえ、数も買う予定だしさっきあっちでレンジも買ったし……交渉くらいしてみよう)
こちらの視線に気が付いて、案内係の男性がにこやかにトリシア達のもとに来た。
「冒険者の方の荷物にも入るサイズの金庫のご用意もありますよ。鍵をかけてしまうまでは軽いので持ち運びにも便利かと」
手持ちの金品や小さな宝石が入るサイズの箱型の金庫を持たせてくれた。実際軽い。その後、案内係が鍵をかけるとリリやノノでも持ち上げることが出来なくなった。思わず全員が、
「おお~!」
と、声を上げた。案内係はそんなトリシア達を嬉しそうにニコリと見つめていた。
今日は冒険者とわかるような格好をしてきてはいないのに、彼にはあっさりと見抜かれた。だが冒険者とわかっても足蹴にすることなく丁寧に接客をしてくれたことに一同は少し嬉しくなる。
冒険者自体この会場には少ないが、そのほとんどが小型の魔道具ばかり見ている。
「今の予算だと、こいんろっかーの数は考えた方が良さそうですね」
トリシアの小屋に置くコインロッカーに予定しているサイズのものを予定数取り揃えようとすれば、予算をほぼ使い終えてしまいそうだった。
「……まだ他のも買うつもりなんだろう?」
「……シェアハウス……だっけ?」
「そうなのよね~」
トリシアの次の貸し部屋はシェアハウスのような形態を考えていた。
各部屋に風呂とトイレは設置するが、キッチンは共有だ。共有スペースを充実させて、巣とは違い全て1人部屋にする。ベッドとテーブル、そして収納がメインの部屋になるがそれでも冒険者が1人ゆったりゴロリとできる空間を目指す。それにパーティ全員が一緒に借りやすくもなるはずだ。
(建物も決まってないんだけどね~……まさに皮算用……)
だが先ほど購入した
「レンジもその為に買ったし、ここで使ってるようなエアコン欲しいのよね~全館空調、憧れるわ」
トリシアはあれこれ頭を巡らせていたので、案内係がこの会話を聞いて目を見開いていたことに気が付かなかった。
「……お客様、よろしければ個人的にお見せしたい魔道具がございます。よろしければ今お時間いただいても?」
「へ?」
そう言うや否や、案内係は先ほど
「こちらは米を自動で炊き上げる魔道具になります。火加減の調整も必要ありません」
「え!? 炊飯器!?」
(この国でそんな需要ある!?)
案内係は驚きと興奮でドキドキしている。思わず先ほどまでの営業スマイルが消え、本当の笑顔になっていた。
「ああやっぱり」
その瞬間、トリシアと案内係は同じ意味の言葉を頭に浮かべていた。
「どうやらお客様は同郷の方のようです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます