第10話 家賃②
「それで家賃は考えてんのか?」
「その~あの~……部屋によって変えようと思うんだけど……」
「そうだな。上の階の方が海がよく見えたし」
ルークは海を本当に気に入っていた。
「……最低、月に大銀貨2枚はいかがでしょう?」
探り探り尋ねる。なぜなら苦言を呈されるだろうとわかっているからだ。
これはトリシアが今宿泊しているギルド内の宿屋と同じ料金だった。通常の冒険者向けの宿屋の1.5倍くらいの料金になる。もちろん、もっと安い宿屋もあるが、そう言う人はそもそも貸し部屋など借りない。
しかも貸し部屋だと借りっぱなしになる。冒険者ならダンジョンに入っている間の宿泊費はかからないのだ。
「……あのなぁ……これだけ
「だって全室入居があればこれだけで毎月最低金貨1枚に大銀貨2枚よ!?」
大銀貨10枚で金貨1枚の計算だ。トリシアは毎月大銀貨1枚もあれば食費はどうにか賄える。贅沢しなければだが。
それにトリシアは今後宿泊費はかからない。これから必要なのは日用品や日々の食費くらいだ。
「全室埋まるとは限らないだろ」
「つ、強気でいかなきゃ……! きっとどの部屋も入居待ちになるわ!」
「いや、この価格設定は弱気な証拠だろ……」
ズバリとルークに見透かされてしまった。
「パーティで借りるっつったらどうすんだ?」
「一部屋最大2人までにするわ。その場合家賃を少し上げるか、そもそも部屋を2人も大丈夫なようにするか迷ってて」
そもそも冒険者でも静かな日常を求めて作った貸し部屋だ。部屋は広くても人数制限はかけるつもりだった。
「あ、でもカップルは利用禁止」
「……。」
(イーグルとアネッタみたいなのが来たら嫌だし)
これにはルークは何も言わなかった。
「……税だって払うんだぞ」
「6室と大家の部屋で年間金貨1枚くらいだろうって」
すでにスピンがすでに金額を商人ギルドに確認してくれていた。1階の利用方法が変われば再度申請が必要だ。
ここでルークが真っ直ぐトリシアの目を見てズバリと指摘する。
「新しい魔道具欲しくなったらどうすんだ? 今だってこれだけあんのに」
そうして願望ノートに目線をやりながら言われると、トリシアはぐうの音も出なかった。
(確かに~!)
そんな彼女を見て、少し呆れながらルークがアドバイスをする。
「……大銀貨3枚くらいにしとけよ……家賃下げるのは簡単だけど上げるのは難しんじゃねーの……」
「……それはそうね」
(危なかった……他人の意見を聞くのって大事だわ~)
今のことに集中し過ぎて、先のことを考えていなかったと反省した。今でも新作の魔道具が出てきているのだ。これからだってきっと出てくる。その時欲しいと思って買えないのは悔しい。
(だいぶ舞い上がってるな~私)
すでにその事は自覚していたつもりだったが、思ったより重症だった。
「老後の資金も貯めなきゃだしね!」
「ぷっ! なんだそりゃ! そんなこと言ってる冒険者初めて見たぞ」
先ほどまでトリシアの今後を心配して深刻そうな顔をしていたルークが笑顔になったのを確認して安心する。
「またお金を貯めて別の貸し部屋作ってもいいし」
「お! すっかり経営者じゃねーか」
わざとらしくルークが持て囃す。
「はっはっは! その内左うちはで暮らしてみせるわ」
「左ウチワ?」
「ああ気にしないで。お金の心配なく気楽に生きるってこと!」
(こんなセリフ、前世でだって使わなかったな)
そんな事を思って1人で笑った。
結局、各部屋の間取りが決まったのはそれから1ヶ月以上後のことだった。
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