改修計画
第1話 会員証
秘密を打ち明けた翌日、トリシアはついにスピンから例の素敵な物件を購入した。もちろん貸し部屋への改修はスピンにお願いする。
契約は商業ギルドでおこなわれた。エディンビアでは物件購入の場合は必ず商業ギルドで契約する。その後、このギルドを通して領へ納税するのだ。
「正式に貸し部屋経営を始めた場合、税金が変わってきます。部屋数によっては現在の5から8倍程度になりますのでご承知おきください」
「……はい」
(うーん。生まれ変わっても税金からは逃げられないとは……)
商業ギルドへの加入も勧められた。加入すれば税は多少安くなるらしい。だが商業ギルドへの加入金を聞いて驚いた。
「登録料が大銀貨8枚で、年間大銀貨5枚!? 皆そんなに稼いでるの!?」
今でこそ常駐ヒーラーとして安定した稼ぎがあるトリシアだったが、いつまでこの安定が続くかはわからない。
最近では安定しないダンジョンをどうにかしようと、エディンビア領主は兵団の訓練を進めていたり、やり手の傭兵団を雇ったと言う話も聞いている。
「商人ギルドに加盟すると横の繋がりもできますし、祭りの時に広場で出店出来るのは商人ギルドに登録してる店だけですしね」
「でも出店する時はまた場所代も払うんでしょ?」
冒険者ギルドとの違いに戸惑っているトリシアにスピンは苦笑していた。
「冒険者ギルドは年間大銀貨1枚よ!? まぁ初期登録で大銀貨2枚取られるけど……」
この初期費用を払うのに冒険者は四苦八苦する者も多い。冒険者を目指す者にルークのような懐に余裕がある人間はほとんどいないのだ。
「人数が違うからな。冒険者ギルドは個人だけど、商人ギルドは店舗ごとだろ」
「うっ……まあそうか……」
冒険者ギルドに入るためには最初、1人大銀貨2枚支払う必要がある。
ギルドに入らなければ階級はつけてもらえないし、ギルドを通した依頼もこなせない。だから必死になって皆貯めるのだ。トリシアとイーグルもそうだった。
トリシアは首にかけてあるタグを揺らした。これが身分証明になるのだ。これが本人のものかどうかは、特殊な魔道具で調べることができる。
小さな銀色のプレートに更に小さな文字で名前と階級が書いてある。少し前は裏面にパーティメンバーの名前もあったが今はまっさらだ。
「タグも違うのね~商人ギルドは大きな鍵なんでしょ?」
「そうですね」
「職人ギルドは?」
「個人で違います……皆自分の特技をアピールしたくて」
スピンのは家の形をしたプレートらしい。
「ブレないですね!」
「あはは! そうなんです。だから今とっても嬉しくて」
1度目の打ち合わせは、エディンビアの中央広場を中心に行われる祭りの前日に決まった。1週間後だ。
トリシアは最近引っ張りだこだった。明日からしばらく西門を出たダンジョンの側で出張ヒーラー業務をおこなう。
「うー! 早く計画たてたい!!!」
「俺の部屋、海がよく見えるとこな」
すかさず話に入り込むルークにスピンは微笑んだ。
「来週までに色々ご提案できるようにしておきますね」
「ありがとうございます! 本当に楽しみ!」
「僕もです!」
そうして興奮冷めやらぬまま冒険者ギルドへと向かう。
「ああ~こんなに働きたいって思った事ないわ!」
「今日は非番なんだろ?」
ルークはしっかりトリシアのスケジュールを把握していた。
「そうよ。明日からに備えて久しぶりに防具を
「あれは俺が心配で勝手にやっただけだ。スピンなら他人に話したりしねぇだろ」
「まあそう言わずに! 気分いいんだから!」
「……じゃあ後で部屋に持ってく」
上機嫌な彼女をみて、ルークも嬉しそうだ。
「さー! 今のうちに稼ぐわよ!!!」
トリシアの理想とする部屋を作るにはお金がいくらあっても足りなかった。だから少しでも予算を上げるためにしばらくは積極的に仕事をとりに行くことにしたのだ。
「ルークも明日ダンジョンでしょ?」
ルークの防具を新品に戻し、マジマジと見つめる。
(これ一体何の素材で出来てんのよ……)
「ん。断ったんだけど行くことにした」
「傭兵と仲良くできるの~?」
「まああそこの団長とは知り合いだからな……」
明日から3日ほどかけて、傭兵団の主力が数人ダンジョン内を探索する。現状を正確に把握して、後日行われる予定の大規模探索の計画を立てるためだ。
その内1人はS級相当の実力者で他のメンバーもA級クラスというから、かなりの気合いが入っているのがわかる。ルークはその中に加わるのだ。
「その団長さんってどんな人なの?」
「食えないおっさんって感じ」
「なんじゃそりゃ」
この探索情報がどこからか漏れ、おこぼれに預かろうと冒険者がダンジョンに殺到することが見込まれた。更に言うと冒険者だけでなく、ギルド未登録のアマチュアもすでにダンジョン近くに群がっているらしい。
一攫千金を夢見て、強い者達が魔物を倒した後をのんびり探索しようと言うわけだ。
「実に効率的な素材の集め方ね」
何となくアネッタが好みそうなやり方だとトリシアは思った。そして急いで頭を振って脳内から彼女を追い出す。
「ま、それだけじゃたいした経験は積めないけどな」
ニヤリと不敵にルークが笑う。
「気をつけてね」
「誰に言ってんだ誰に!」
嬉しそうにトリシアの髪の毛をくしゃくしゃにした。
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