第3話 冒険者ギルド
エディンビアは今日も世界中から集まった沢山の人々で賑わっていた。冒険者、貴族の旅行者、傭兵達、そしてそれを相手にする商人達で街は溢れかえっている。
商隊はある大商会の裏口に停まった。
「おお! よかった! 最近行路にアシッドベアの目撃情報が相次いでいてな。心配していたんだ」
「それならルーク様が倒してくださった。毛皮も買い取ったよ」
無事護衛の依頼も終わった。どうやら最終的に依頼主には満足いただける結果になった。
「お二人はこの後どうされるんです?」
「私はしばらくこの街にいる予定です。もしまた何かあれば是非お願いしますね」
「俺もしばらくここを拠点にするつもりだから宜しくな」
「ええ是非!」
依頼主の評価は大事だ。特にトリシアはこの街での実績がない。大商会からの依頼をこなした上に高評価をもらえるのはとてもありがたいことなのだ。
「お前ギルド行くだろ? 俺も行く」
「ルークもしばらくここにいるのね」
「そ。久しぶりにダンジョン潜るわ。お前も行くか?」
「私なんか連れてったら奥まで行けないわよ?」
「まあたまにはそれでもいいだろ」
ニコニコと楽しそうなルークの隣を歩くトリシアにあっちこっちから視線が刺さる。
「あれってS級のルークじゃないか?」
「隣の女はなんだ? パーティ組んだのか?」
ルークはソロの冒険者としてとても有名だった。剣をメインにあらゆる魔術を使いこなす魔法剣士だ。圧倒的な戦闘力を誇り、あらゆる敵を一掃した。顔も良いせいでのでアイドルのような扱いをされている。
(やりづらいったらないわ……)
トリシアとは冒険者になる前からの知り合いだった。ルークは彼女が住んでいた孤児院のある領の領主の息子だ。自分達より後に冒険者になったのにあっという間に抜かされて、なんとも言えない敗北感を味わったものだが、ここまで実力に差が出ると諦めもつくというものだった。
「そんなに恩義を感じなくってもいいのよ。そもそも私を助けようとして……」
「そんなんじゃねぇよ」
少しムッとした顔をした。
冒険者になるずっと前、幼いルークはトリシアを庇って腕を魔物に食べられてしまった。だがそれをトリシアのスキルで
それからルークはあれこれトリシアの世話を焼くようになった。一時期はイーグルが注意したことによって落ち着いたのだが、トリシアがパーティから追い出されたと知った途端、彼女を迎えにきたのだった。
そのおかげで彼女は前にいた街で惨めな気持ちにならなくて済んだ。人気のS級冒険者がヒーラーのC級冒険者をかまい倒していたからだ。
(アネッタのあの悔しそうな顔は実物だったわね)
思い出し笑いをしてしまうほど悔しそうな姿だった。
「わー! 流石に大きいわね!」
エディンビアの冒険者ギルドは地方のそれと違って大きく豪華な出立ちをしていた。
内装も煌びやかで、依頼用の掲示板も仲間募集の掲示板もトリシアが見たことがないほどの量が掲載されていた。
「中も綺麗!」
「気合い入ってるよな」
ギルドの職員の数も多い。窓口もたくさんある。キョロキョロとしていると、ルークが腕を引っ張った。
「拠点登録してから報酬受け取ろうぜ」
2人はまず拠点ギルドの変更登録を行い、その後先ほどの依頼報酬を受け取った。今回は個別依頼だったので報酬額も高い。冒険者パーティの場合は一括で支払われた後、パーティ内で更に分割する。割合はパーティによるが、トリシア達は全員が同額だった。アネッタはそれも不満に思っていたようだった。
「うわぁ流石S級の紹介となると報酬がいいわねぇ!」
「感謝しろよ!」
「するする! 助かったありがとう!」
「軽いなぁ」
トリシアはこれから節約して生きていかないといけない。C級冒険者の肩書があっても、ヒーラーは1人で魔物を倒すことはできないのだ。
「……そんでお前これからどうすんの?」
「とりあえずしばらくはギルド常駐して小銭稼ぎかなぁ~パーティはもう懲り懲りだし」
「……ふーん」
大きな冒険者ギルドでは、ヒーラーが常駐していた。ここに来ればいつでも誰でも治療を受けられるのだ。価格は決まっているし、一割をギルドの仲介料として引かれるが、ヒーラーとしてはとりっぱぐれはないから安心だ。攻撃力に劣るヒーラーは、治療費を踏み倒されることがたまにある。残念ながら舐められやすい役職なのだ。
治療を受ける方からしても、ギルド常駐のヒーラーは一定のレベルが約束されているので利用者は多い。
「そんでその間に例の計画を進めるのよ!」
「あー貸し部屋経営ってやつな?」
トリシアはルークにはこの計画を話していた。エディンビアを勧めてくれたのはルークだったのだ。大都市にしり込みしていた彼女だったが、この街の規模と冒険者数の圧倒的な多さから、トリシアが考えるような静かで落ち着ける部屋を求める人間は多いだろうと言われ考えなおした。
「そう! ローンなんてないしね。あの貯金にはあんまり手を付けたくないし、まだまだ働かないと……」
「ローン……?」
「ああ、いいの忘れて」
彼女はこうやってたまに前世でのみ通じる単語を出してしまうのだった。
「俺の部屋はちゃんととっておけよ!」
「え! 借りてくれるの!? あんた別に高級宿屋泊まり放題でしょ?」
「いいだろ! 俺だってホッと一息つきたいときがあんだよ!」
少し顔を赤らめて目を伏せるルークは、S級冒険者に見えず可愛らしかった。
「まいどありっ!」
「もっと言い方があるだろ~」
トリシアはルークの心遣いが素直に嬉しかった。なんだかんだ、幼馴染で冒険者パーティを組むほど信頼しあっていたイーグルに裏切られ、1人で生きていくことが不安だったのだ。
自分を気にかけてくれる人がいる。それだけでこの新しい街でやっていくのには十分なエネルギーになるのだった。
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