第15話 将来の夢

 父の制限から解き放たれた俺は、張れて自由の身だ。自分の畑に出かける準備をして家のドアを開けた。やっと自由に仕事ができる。


「アグリ! おかえり!」

「みんな、ただいま!」


 家の前にはいつもの3人が待っていてくれて、解放を喜んでくれた。


「でも心配はもうかけないでよね」

「本当にそうだな」

「魔獣に襲われたって聞いたときはびっくりしたよ」


 制限の下、心配させてしまわないよう父と一緒にみんなの家に行って、状況を説明していたのだ。


「いやー、その節はごめんなさい」


 しばらくいつもの三人とは遊べていなくて俺も少し寂しかった。それにみんなも同じ気持ちのようで、何か埋め合わせをしないとな。


「今日は何するの?」

「大豆を蒔こうと思う」

「大豆?」

「枝豆だね」

「枝豆って大豆なの!?」

「そうだよ、枝豆が枯れたら大豆になる」


 ロットは驚いて「マジか」と声が出た。昔は、意外に知られていなかったっ事に驚いたもんだ。


「じゃあ今日はアグリの手伝いしよーぜ」

「別に良いよ、面白いもんでもないし。3人で遊んでて」

「そういう訳にはいかないね。アグリの復帰祝いなんだから」

「そうね。元はと言えば家の畑だし」


 そんなこと言われてしまっては断れない。友達と畑仕事を一緒にするなんて初めてだ。


「ありがとう」


 しぶしぶ了承してみんなと畑に向かった。



「最初は何するの?」

「これとこれを大豆蒔くところに撒いて、耕す」

「この白い粉は何?」

「貝殻を砕いて作ってみたんだ。成功するか試してみようと思って」


 みんなで肥料を撒き、後ろから鍬で耕した。みんなで一緒にすると笑い声に包まれ、疲れは感じなかった。


「楽しい」


 思わず声に出てしまっていた。1人で行う仕事とは段違いだ。


「何アグリ、改まって」

「聞こえてた?」


 なんだか恥ずかしい。それでも、疲れを感じさせないくらいに楽しかった。


 みんなですると早いもので、すぐに種を蒔く準備が整った。


「次は?」


 リユンが目を輝かせながら言った。

 綺麗な畝を作り種をみんなに手渡す。


「五十粒あるから四人で分けると……えーっと」

「1人、12粒ね、2つ余るけど」

「はやっ!」


 ロットが驚いていた。確かにこの歳で割り算を暗算出来るのは早いだろう。勉強しているのだろうか。それとも才能か? いや、それより俺が出来なかった方が問題ありなのでは?


「ジュリ、割り算勉強したの?」

「割り算? 何それ、知らないわ」

「えっと、じゃあ」


 それから俺はジュリにいくつか簡単な計算問題を出してみた。〇÷〇=〇という問題の出し方は分からなかったが、文章にして計算させてみると、割り算も掛け算も見事に正解した。間違いなく才能だ。ジュリはとてつもなく頭が良いのかもしれない。


「ジュリすごいよ。計算出来るんだ!」


 俺が問題を地面で筆算した跡を消しながら言った。


「そ、そうなの? 普通だと思ってた」

「俺は無理だね」


 ロットが自信ありげに胸を張って言うと、リユンはケラケラ笑った。

 みんなに配った種を二粒ずつ、十数センチほどの間で蒔いていく。それぞれ性格が出ていて面白かった。ロットは種をズボッと土に押し込みガバッと土をかける、いわゆる大雑把だった。リユンは自分の手や腕で間の距離を測り、指の関節を使って同じ深さに種を蒔く几帳面さが。ジュリは一粒一粒声をかけながら愛情いっぱいに蒔いていた。

 みんなで水を掛けて作業は終了した。


「みんな、ありがとう。美味しい枝豆みんなで食べようね」


 水を飲み井戸の周りで休憩する。みんな達成感に満ち溢れ、幸せな気分だ。なんなで仕事をするのも悪くない。


「アグリ、なんで枝豆を蒔こうと思ったの?」


 ジュリがこちらを向きながら言った。


「大豆って、別の国では畑の肉って呼ばれてるんだよ。それだけたんぱく質が取れるし、保存も出来る。それに大豆からいろんな食べ物が出来るんだよ」

「例えば?」

「味噌、豆腐、醤油、納豆とかきな粉。豆乳って飲み物も出来るんだよ」

「全然知らん物ばっかりだ」


 俺が最初に量産したいと思った理由が保存出来て、作れる物の豊富さだ。この世界でどこまで完成できるか分からないが味噌だけは、絶対作りたい。肥料が要らない枝豆はこの世界でもきっと覇権を取るだろう。プロテインも作りたい。


「アグリ、顔がにやけてるわよ」


 そんな将来の事を想像していたら、顔が緩んでいたみたいだ。


「すごいな、アグリは物知りで。将来すごい人になってそう」

「リユンだって将来の夢の為に頑張ってるじゃん?」

「将来の夢?」


 ロットが意味深な事を言って引っかかった。リユンの夢とは何なのだろうか。すると、リユンは少し恥ずかしそうに口を開いた。


「いやー、みんなには決まってから言おうと思ってたんだけどな。実は学校に行こうと思ってて」

「学校?」

「うん、お父さんの知り合いの大工さんの招待で建築家?って名乗ってる人の学校に行けるかもしれないんだ。まだ行くかどうかは決めてないんだけどね」


 建築家……。気になるな。もしかして転生してきたとか?たまたまだろうか。


「すごいよなー」

「ロットはないの? 夢」

「俺は……。家の仕事をでかくするとかかな」

「良い夢じゃん」

「ジュリは?」

「私は、まだ分かんないかな。アグリはどうなのよ」


 俺は……。夢か……。

 実は少し前に考えた事がある。この村の農業や物流に違和感があった事。もっと効率を良くすれば農業のレベルが上がる。何かないかと……。思いついたものは意外にシンプルな考えだった。


「俺の夢は世界の農業を変える事」

「でっかい夢だな」

「もちろん、いきなりは無理だから最初の夢は村の農業を変えたい」

「変えたいって具体的には?」


 俺は三人に、ロズベルトさんと父に聞いたこの村の農業の実情を伝えた。


「それを変えるの?」

「うん。村で作った野菜たちを俺が全部一括で買う。倉庫を建てて在庫を管理。フルトやクラリネ、カタットに店を持って出荷し販売する。村の人は自分の作業に集中できるから良い物を作れるようになる」


 今はまだ夢のまた夢。ただの妄想だ。でも、せっかく恵まれた世界に産み落とされたのだ。全部とは言わない、1つくらいは何か成し遂げてみたい。


「アグリ、そんな事考えてるの? すごいわね」

「でもこれにはみんなの協力も必要なんだ。たくさんの人も雇わないと。リユンが倉庫やお店を建てたり。ロットがいろんなお店に出荷したり、ジュリの計算力と頭の良さで在庫の管理や事務的な事とかね」

「いつの間にか俺たちも巻き込まれてるよ!?」


 参考にしたのは前の世界にあった、ある組織だ。同じような組織をここにも作ればいい。これが実現すれば、何か大きな問題があっても食料の安定的供給が出来るようになる。そんな事を考えて、俺の夢が固まった。


「私は協力するわ。世界を変えるなんて楽しそう」

「俺もやってみたい。俺の父さんいつも疲れてるみたいだから、アグリの考えで楽になるかも。それに俺がいろんな町に回って商品を出荷するなんてきっと楽しいぞ」


「俺は……」


 リユンは少し考えて顔を上げた。


「俺、学校に行くよ! 勉強して、アグリの仕事手伝いたい」


 前の世界では何も成し遂げられなかった俺が、夢を持ってみんなで叶えたいと思った。それはきっと、父や母が愛してくれたから。友が、否定せず話を聞いてくれたから。必ず変えてやる。みんなで叶えてやる。夢がある人生ってなんて楽しいのだろうか。




 待ってろ世界。今、うまいもん食わせてやるからな。

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