12.来るもの拒まず~Aerial's side
酒がうめぇ。
あたしは今、ギルド併設の酒場でお酒を嗜んでる。あのとき思った通り、ここの酒はレベルが高い。
アークロンの書斎から、金貨を2枚、失敬しておいて正解だったわ。
アークロン──アイツは、机の引き出しの奥に、糊で金貨を隠す
今も違わず、その癖の通りの位置に、金貨が大事そうにひっついていたのだ。
「ま、慰謝料にしては未だ安いもんよ」
残った1枚の金貨を眺めながら、思いを馳せた。
アークロンのこと……ではなく、今後の旅費について、ね。
(宿代、飯代、それに酒代。しばらくは安泰ね)
そんなことをぼんやりと思いながら、盃を傾ける。今回頂いているのは、クルミのお酒。
甘いナッツのような香りと甘みと、奥深い渋みが妙にマッチしてこれまた美味い。
「……」
しかし、美味しかったのは最初の一杯だけだった。
こうも心に引っかかることがあると、せっかくの上質な酒も存分に味わえない。
そう、心配事とは、あの丘の教会のこと。アークロンが遺したっていう、書斎について。
あの書斎に入った瞬間から、ずっと違和感を覚えていた。アークロンがあんなに本を収集して読んでいるとは思えない。
なんたって、銃を隠していた本だ。多分、あの書棚には、なにか秘密がある。
そして、その隠された『秘密』が、あたしの推測通りだとすると──。
「……不味いわね」
「酒が不味いなら出てってくれ」
ポポいっと。
屈強で寡黙なマスターによって、あたしは荷物と一緒に酒場から放り出された。
「……いやいや、ちゃうちゃう!」
確かに、食事中に呟いて良い単語ではなかった。それにしても、弁明も届かず片付けるのはいかがなものか?
あたしは文句の一つでも伝えようとするも、マスターはなんだか忙しなく、表に出ていた看板すら片付け始めた。
「今日は店仕舞いだよ」
「え、早すぎない?」
まだ夜は始まったばかりだ。夕飯の時間は過ぎているが、これから飲み明かそうとする冒険者達が集まる頃合いではないだろうか。
しかし、確かに店内を見回すと、客はあたし一人だった。考え事をしていて全然気が付かなかった。
「ん」
すると、マスターは一枚のポスターを指さした。それは、先日に宿で見たものと同じく、派手なカラーで目立たせたものであった。
「あ」
ランドリン枢機卿の外遊のポスターだった。新しい教会の視察で、明日にはこの街にやってくる。
「今夜から街は厳戒態勢。店の夜業は閉めろとお達しさ」
そういいながら、マスターは看板を店内に入れ、扉を締めた。ドアノブには『閉店』の文字の札が揺れていた。
「……なーるほど、タイミングとしてはベストかも、ね」
あたしは、閉じられた酒場の前であぐらをかき、腕を組み頭を巡らせていた。
ふと思い立ち、あたしは丘の上を見上げた。思ったとおり、サラサたちの教会は木々に囲まれ、街からは望むことはできない。森林が目隠しになってしまっている。
しかし逆に、小高い丘の上にある教会からは、実はこの街は丸見えだった。薪割りついでに眺めてみたら、なんとも素晴らしい絶景スポットである。
悩む。
私は悩みに悩んだ。
わざわざ、この状態から『巻き込まれ』にいくべきか。
一宿一飯の恩義はあれど、それだけの恩義しか無い。
命を賭す必要などない。
「……『来るものは拒まず』、か」
「……?」
そんなことを、ぶつくさと独り言していたところを、通りすがりの騎士団員に見られた。どうやら夜警のようだ。やりを携え、怪しいやつがいないか見回っていた。
そういう意味では、今のあたしは十分怪しい。
丁度いい。
んじゃあ、怪しいついでに、もっと怪しくなりますか。
「ねえねえ、騎士様、ちょっといいかしら?」
「どうした女、売女か? 酔っぱらいか?」
開口一番かなり失礼なやっちゃなこいつ。
ちょっとカチンとしちゃったけど、この怒りは、ここではなく『後で』発散させるために取っておくことにした。
「しがない
「まあいい、今宵は早く宿に戻りなさい、皆、明日のことでピリピリしている」
そう言って、槍で宿街の方を指した。
おっしゃる通り、あたしも臨時収入が有った関係からちょい豪華なお宿を取ろうと思ってたけど。
そういう
「ねえ、ボルドーっていう騎士団員様をご存知? あたし、彼とコンタクト取りたいの」
あたしはその見回りの騎士に、ボルドーのことについて尋ねた。
「ん? 彼なら同じ夜警のシフトだが、なんか『教会に行く』って、飛び出してったな」
あらら。彼、思った以上に行動力あったのね。もっと慎重派かと思ってたわ。
だとすると、ちょっとあたしも、急いだほうがよさそうね。
「ありがとう騎士さま、それはそれとして〜、ちょっと聞いてほしいんだけど」
「何だ? 酔っぱらいの戯言なら聞く耳は……」
夜警で眠そうな彼は、一気に目が覚めることになる。
「いまから丘の上の教会、拳銃を携えて襲撃するから、いろいろヨロシクね〜!!」
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