サム 調査

 そして現在、エルナは振り返る。


 ―私は数日前、あるものを目撃した。いつもどおり、依頼の合間に兄のサムに関する情報を収集していた時のこと、女性の悲鳴が聞こえてすぐに駆け付ける、コロニーの壁近くにある旧市街の裏路地、そこは基本的にガラの悪い連中のたまり場になっていて治安が悪い、警察のアンドロイドもパトロールしてはいるが、オンボロで役立たず、多少の抑制効果しかない。最も恐ろしい裏社会の勢力は、そんな旧型のロボットを屠る事など造作もない。事実、行方不明のアンドロイドは……と、これは話が脱線するのでおいておく。


 その時も今後役に立つかもしれないと日付とメモを軽くとり、悲鳴の聞こえた場所に向かった。多少の武術の心得と兄からもらった対アンドロイド用電子棒を持っている。普通にスタンガンとして使う事も多いが、兄いわく〝アンドロイドの急所に当てればもっとも効果を発揮する〟らしい。


 それを持ち、ヒーローのように駆けつけて、女性を助ける手はずだった。だがどうだろう、ヒーローのようにそううまくはいかない。私はおびえながらそっと路地裏を建物の影からのぞいた。

《ちらり》

 そこにいたのは、先ほど叫んでいただろう女性が惨殺されて横たわっている姿と、その上に立つ―まるで死神のような鎌をもった女らしき姿。軽い質感のコートにフードをかぶっていたが一瞬横顔が見えたのだった。

 金色になびく髪とアホ毛、凛々しくも力強い顔立ち、つりあがったまゆに美しく透明感のある肌に青色の瞳、力強さと裏腹に、きゅっとしまった唇。彼女は無表情に遠くを見ていた。


 私はすぐに物陰に隠れた。だが彼女の言葉を……私は見逃さなかった。

「ちっ、見られたか、ヒーローごっこかな?ヒーローは、私なんだけど……」

 気づいた時には、さっきまでの正義感はどこへやら、私はその場から全力で逃げ出し、人通りの多い繁華街へ逃げ、カフェで人込みの中に隠れていた。しばらく外をみていると、あれは見間違いだろうか、さきほどの―死神―が人込みの中からこっちをみて、しばらくたちつくすと、ふと、姿を消したように見えた。

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