第16話 ハッピーエンド
間違いない。あの娘だ。
ずいぶんとお洒落になって、髪型も雰囲気もかなり変わっているけれど、俺の目だけは騙せない。
10年程前に、中学生だった俺が下手なりに一生懸命、初めて君へ作ったこの曲。
今になってまさか、君が聴いてくれるなんて。
しかも、黙って聴いている君は涙を流していた。
行き来する人混みは一向に立ち止まろうとはしないものの、あの娘だけはじっと微動だにせず聴いてくれた。
俺がこの曲を歌い終わって、話しかけようとした時だった。
「おーい、こんなとこに居たのかよ~!」
知らない男が近寄ってくる。
「あっ、ごめん!ちょっと"この人"の歌聴かせてもらってて!」
"この人"、か。
俺は一方的だけど、ずっとずっと前から知ってたよ。
君のことを。
「あ~、なんかすいません…。ほら、お店の予約遅れちゃうから。行くよ!」
男があの娘の手を引く。
「あの、ありがとうございました。感動しました。」
そう言ってあの娘は男と手を繋ぎながら、夜の都会の街へ消えていった。
ああ、あの
"ありがとうございました"
は、完全に知らない奴に言う時の言い方だったなぁ。
あの男、彼氏かなぁ。旦那かなぁ。まあ、俺がそれを知る事なんてないんだけど。
クズそうな奴じゃなくて、俺より何百倍もいい男だったな。責める所が見つからないから余計虚しいわ。
そう呟きながらギターをしまって、俺はトボトボと家へ歩き出した。
家に帰って来てテレビをつけると見覚えのある顔。
"半身不随の高齢女性、娘の努力が報われ歩けるように"
ミサキとそのお母さんが奇跡の回復を遂げた感動親子として特集されていた。
あぁ、そうか。今日が放送か。
俺の汚い金もちょっとは役に立ったかなぁ。
とか思いながら。
おもむろに立ち上がり、押し入れの奥の方に大切に仕舞ってある"あるもの"を取り出した。
そう、あの時のカメラだ。
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