第15話 真実

俺は今、境地に立っている。

1分が1時間ほどに感じる人生で一番長い待ち時間だ。

思い返せば返すほど、何故こんな事になっているのか分からなくなる。


…電話だ。ついに来た。

携帯を開いて電話をとる。

「作戦は成功よ。今から戻るから私の家の前で待ってて。」

過去に何度も過ちを犯してきた俺だったが、今回の過ちは比較にならないほど胸が高鳴る。

浮かれたように地に足がつかないまま、藤原さんの家へ走って向かった。


「はい、これ。例のもの。」

紙袋に入っていたのは間違いない。俺が数ヶ月前設置したカメラとバッテリーだ。

たった数ヶ月でもホコリを被って、多少年季が入ったようにすら見える。

「さて、私たちの関係はこれで終わり。もう今まで通り普通に暮らして。これ以上は協力しないからもう悪事は働かないことね。」

そう言って立ち去ろうとする藤原さんの後ろ姿を見てふと気になったことがあった。今まで謝罪の意味を込めて貫いていた敬語も忘れて呼び止める。

「なんでそんなにお金がいるんだよ。」

藤原さんは振り向かず答える。


「私のお母さん、去年事故で半身不随になったの。」


全く聞いたこともない話だった。

「お互いの事は漏らさない約束よね。」

「当たり前だろ。」

「今のまともな医者ね、お母さんの事真面目に治そうとしてくれないの。

だからお金を貯めて、無免許でも腕の立つ闇医院に頼るしかなくって。

さっきのお店の店長が言ってた"薬"っていうのも、海外から高額で入ってくる日本じゃ売れないような効き目の強い痛み止めの事。」


ある意味一番ショッキングな内容だった。

共犯でどっちもどっちかと思ってどこか安堵していたら、ただ俺が度を超した犯罪級のド変態なだけだった。

まあ、事実なんだけど。


「でも、だからって」

俺の言葉を遮って彼女は話す。

「言ったでしょ、これで終わり。もう帰って。」

俺は彼女をこれ以上引き留めること無く帰った。

というか、引き留められなかった。


…ここまでが俺の昔の話。

なかなかえげつないだろ?

それから俺は危ない事はやめて、好きだった作曲に打ち込んだ。

来る日も来る日も作曲。

路上パフォーマンスとして自作の曲を歌うもなかなか売れず。

波瀾万丈の中学時代から10年ほど経ったある日。

スランプに陥った俺はついに、"あの時"録音したテープを引っ張り出して、リメイクして世に出すことにした。


…とある日の事。

いつものように路上で弾き語っても人は止まらない。

諦めかけたけど、最後に"あの曲"だけ歌いたかった。

当時はもう二度と聴きたくなかったこの曲を歌い始めた時、一人の背の高い女性が立ち止まった。

歌い終わる前に俺は気づいた。

"あの娘"だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る