第9話 決戦当日
あれから一週間。
ついに明日、俺は大作戦を成功させるんだ。
金曜日の夜はまるで遠足前の小学生のように、緊張と期待で眠れなかった。
そして一晩中パソコンで盗撮動画を見漁って、自分を鼓舞した俺はとうとう作戦を実行に移す。
なるべく黒い服に黒いズボン、もう6月というのに不自然な黒いニット帽を被る。
今思えば昼間に行動するんだからむしろ目立ってたかもな。
靴も靴跡を残さないよう別の靴で行こうと思ったが、どうしてもあの日ベランダによじ登った時に履いていた靴で行きたかった。
そしてカバンには先週買ったカメラとバッテリー、ドライバーセットと父の双眼鏡を入れて。
いざ、出陣。
いつも通り雑居ビルの3階踊り場に行き、双眼鏡であの娘達家族が家を出るのを眺めて待っていた。
午前10:32。あの娘、母親、妹、弟の全員が歩いて駅に向かうのを確認。
10分ほど時間を置いた後、雑居ビルの階段を降りていく。
103号室に移動する際、叔母や祖母、祖父なんかが留守番していたらどうしようなんて不安にも思ったが、もう引き下がる訳にはいかなかった。
荒くなる呼吸を一生懸命に落ち着かせ、爆発しそうな心臓を脈動させ、頭がクラクラしながらなんとかマンションの階段を登る。
たどり着いてしまった。103号室。冷や汗を流しながら震える手でドライバーセットを取り出し、小窓の枠を固定するビスに合うサイズを選んで回し始める。
若干錆び付いたビスのネジ山がザリザリと小さな音をたてて緩んでいく。
慎重に。慎重に。周囲に気を配りつつ黙々とドライバーを捻る。
8つ目のビスを外し終え、
「ガタッ」
と格子が外れた。
窓を開けてゆっくりと窓の縁を跨ぐ…
侵入成功。
トイレの扉を開いて家の中を見回す。
憧れのあの娘が生活している家の中。
水色のカーテン。テーブルの上の白いマグカップ。大画面のテレビ。
ついに、ここにたどり着いたんだなぁと現実を噛みしめる。
ほのかに香る甘い柔軟剤の香り。それと何故だか少し香ばしいような匂い。
「朝食にトーストでも焼いたのかなぁ?」
なんて完全に調子に乗って小声で呟いてもみたりした。
抜き足差し足で風呂場へ直行。
脱衣室に入ると風呂場の前に洗濯機が気になった。
ここであの娘のパンツやブラジャーを洗ってるんだな。
本来の目的を一瞬見失ったが、興奮しながらも隠し場所を選ぶ。
7、8分模索する。
「ここにしよう」
脱衣室の真上にある換気扇のカバーを外し、中にカメラとバッテリーを設置して電源を入れた。
カバーを戻してみて下から目を凝らして見てみる。
「すげぇ。全くわかんねぇ。」
俺は嬉しくなった。
だがそんなにゆっくりしている暇はない。さっさと退散しなければ。
俺は少し名残惜しく思いながら脱衣室を後にし、トイレへ戻った。
入った時と同じように窓の縁を跨いで、格子を取り付けようとしたその時。
「ねぇ…何してんの?」
……心臓が爆発したような感覚がした。
そのコンマ数秒後にはとてつもない冷や汗と吐き気に襲われて気が狂いそうになっていた。
人生を諦めたように後ろを振り返るとそこには、
藤原さんがいた。
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