第6話 ラブソング

あんな暴挙に出た翌日、俺はこのやり場のない興奮をどう処理しようかと考えていた。

藤原さんに話そうかとも少しは思ったが、もし口を滑らせでもしたら一巻の終わりだ。

小一時間悩んだ結果、一つの答えにたどり着いた。


「そうだ、ラブソングを書こう。」


当時フォークソングにドハマりしていた俺はすぐにギターと紙、鉛筆を用意した。


とは言っても一度も曲など書いたことはない。

それにコンセプトも決まっていない。こんな中坊のガキにラブソングなんて書けるのか。しかも彼女の一人も居たことがないこの俺なんかに。

王道のラブソングにしようか?いや、それなら既存の曲を探せばもっと素晴らしい曲で溢れている。

卑屈なクズ男の曲を書こうか?それもダメだ。自己満足で終わらせず、せめて数人には聴かせてみたい。

暴力的や性的な曲を作るか?そんなもん人に聴かせられない。

散々悩んで導き出した答えは、


「片想いを諦める曲」。


挫折しそうになりながらも、時々盗んだ布を鼻に当てて深呼吸し、拙い技術と乏しいセンスで一生懸命書き上げ、ラジカセでテープに録音した。

その後は疲れてすぐに寝てしまった。

朝、起きてから再生してみる。

出来映えは…。


…まあよくもこれを曲だなんて言えたもんだ。

あまりに酷くて二度と再生したくない。

だが、気持ちがある程度落ち着いたからこれでも良しとしよう。

もしこれをあの娘が聴いたら笑うのか?引かれるのか?

そんな事を考えながら布団に潜り込んだりするから、結局この日はほとんど眠れなかった。

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