第2話 見つけた
2009年4月26日。
新しいクラスにやっと馴染んできたかどうかのあの日、妙に気になる女の子が1人。
俺はあの娘を知った。
初めて見た時は背が高くて表情豊かな女の子だなぁ。くらいにしか思わなかった。
特に可愛くもなければ、他と違うような特別さもない。
強いて言うなら多少スタイルが良いくらい。
その日はまだ俺は好きだとか愛してるだとか分からなかったが、それでも何かしら運命的な"何か"には気づいていた。
それから3日後、あの娘と初めて話した。
偶然、勉強の分からない部分を訊いてきただけだが。
思ってたより馬鹿で、思ってたより素直で、思ってたより情熱的な子だった。
…俺はベロの奥の方から唾液がじわじわと滲み出る感覚と共に強烈な多幸感に浸った。
この時、俺と俺の人生はぶっ壊れた。
寝る前もどうか夢にあの娘が会いに来てくれないか。朝、起きたら横に居たりしないか。
何かの間違いで二人きりになって、はち切れんばかりの俺のこの熱い熱い気持ちをあの娘の中にぶちまけてやれないか。
毎日毎晩そんな事を考えていた。
ある日の塾の帰り道。俺は微妙に綺麗でもない夕焼け空をボーッと眺めながら、あの娘とのデートを妄想しながら歩いていた。
汚れた電信柱のある角を曲がってコンビニの前辺りに来た時、何かしらの気配を感じて俺は急に足が動かなくなった。
あの子がいる。
夕飯の買い出しだろうか、一人でスーパーの袋を持って歩いている。
幸いにもこっちに気づいてはない様子だった。
普通はここでちょっぴりハッピーな気分になってそのまま帰宅するかもしれないが、
俺は違う。
「跡をつけよう。」
確かに多少の罪悪感は抱いたものの、そんなちんけな感情はすぐさまモラルと共に崩れ落ち、数秒後には俺の足は勝手にあの娘を追いかけていた。
だが決して追い付いて話しかけようなんて考えにはならなかった。
話しかけて一緒に帰路につくのもまあそれはそれで楽しいかもしれないが、そんな事をしたら俺の家の前まで来た時に別れざるを得なくなる。
だがこっそりと跡をつけ回る事であの娘の住んでいる家が分かれば、俺はいつでも何時でもあの娘のすぐ近くまで行ける。
自分の心臓の脈動が周囲の人間に聴こえないか不安になりながら、あの娘を追いかけた。
そして約15分後、たどり着いた。××町1丁目のマンション。部屋番号は103。
俺の家からそう遠くない上に、不審な行動をとっても周りから見つかりづらい最高の家だった。
あの娘が階段を登り始めて少しして、俺も追うように静かに階段を登った。
そして俺は極限まで耳を澄ませた。
玄関を開け、母らしき声が聴こえ、鍵が閉まる音を確認したあと、103号室の玄関と壁の隙間に鼻をつけて大きく深呼吸した。
あの娘が日々起きて、飯を食い、着替え、風呂に入り、また床について眠っているその空気を、香りを、あの娘が吐き出したかもしれない二酸化炭素を肺の底まで吸い込んだ。
脳の中心にあたる部分が真っ白にショートする感覚を覚えた。
「ぁあ。」
体がガチガチに強張りながら、既に暗くなり始めている空の下を酔っ払った様にふらふらと歩いて帰った。
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