朝、20分の考え事

尾谷金治

第1話 朝

朝、午前5:21。

俺は今日も寝ていない。

使い古したスプリングマットレスの上で煙草に火をつけて、息を吐きながらふと

「楽しいなぁ……」

突然ニヤニヤしながら呟いてみた。

意味が分からんだろうから説明させてほしい。

今からさっき考えていた頭のおかしい考え事を話そうと思う。


まず最初に、さっき俺はラジオを聴いていた。日課の1日15分のラジオを。

そんでつまらない芸人と渋いボーカリストの会話の中に、バンドの話が出てきた。

今のバンドと聞くと、俺としてはどいつもこいつも似たような歌を、同じ様な細い声のボーカルの男が歌う珍妙な集団だと思ってる。


何故そんな事を言うのか。

それは俺がバンドマンだからだ。

何年も前、ギターを弾いていた俺の事を大好きだった女の子に褒めてもらってからずっとバンド一筋。

今じゃもうどっかの誰かの彼女だか嫁だかになってると思うけど。


そんなあの娘の事を想って未だにラブソングを書いている。

ただイカれた俺の想いを全部曲に吐き出せる訳じゃない。

例えば大好きだったあの娘の家のベランダによじ登って、パンツやブラジャーで茶漬けを作りたいとか。

でもあの娘以外の女の子に誘惑されたらすぐ喰っちまうんだろうなぁとか。

俺の姉が妊娠した時、腹の膨らみを見てなんだか興奮して、帰ってから畳をかきむしったとか。

俺は常日頃そんな事ばっか考えている。


あの娘に未練がある訳じゃないけど、嫌いになった訳でもない。

なんなら今すぐあの娘の彼氏だか旦那だかが交通事故に巻き込まれればいいのに。

って毎晩呪ってたりする。

ストーカーだった俺はよく知ってる。

あの娘の身長、体重、血液型。生理周期、ブラジャーのサイズ、腋の匂い。

あの娘のパートナーがあの娘と出会う前に俺が調べ尽くした情報はあの男には解らんさ。


クソ旦那。彼氏かもしれんが。だってお前、あの娘にはじめて生理が来た日、知らねぇだろ?

何年何月何日にどういう髪型してどういう服着てどこに行ってたか言えねぇだろ。


俺の方が愛してるに決まってた。それなのに、なのに…

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