第30話 クズで良かった。


「あんたら、兵士だろう? ならば国が決めたルールは守るべきだろう? あんたも腹が刺されて腹がたつかも知れないが、俺が見つけた時、ミウは体の半分近くが焼けていて死にかけていた…もう充分だろうが」


「お前、そんな盗賊女をなんで終身奴隷にしたわけ? そこら辺にもっと真面な奴がいただろうが?」


「緑髪の化け物だぜ、キモイだろう?」


「まさか、そんな化け物とお前やっていたりして、キモッ」


聞けば聞くほど腹がたつ。


さてどうしようか…


今迄、俺は仕方がないと思っていた。


兵士は前の世界なら警官みたいな物、そう思っていたからな。


そして、ミウが死に掛かったのも『法律』どおりだから仕方がない。


そう割り切るつもりだった。


だが、これじゃ悪徳警官じゃないか?


『法律』で問題が無いなら、警官と同じと考えるなら諦めるべきだ。


お腹を切られたのは確かに腹が立つだろうが、ミウは死にかけていた。


この国の常識は解らない。


だが、前の世界なら過剰防衛になる筈だ。


仕方がない、ミウが横で震えているし…絡んで来たお前らが悪い。


「ミウの盗賊団を討伐した時にミウと遭遇したのは貴方達3人だけでしょうか?」


「ああっ、俺達3人だけだが? それがどうかしたのか?」


「それじゃ、慰謝料を後日払いますので名前を教えて貰えませんか?」


「俺の名はカバルだ、兵士の詰所にいる…それで幾らくれるんだ?」


「俺はミレスだ…期待しているぜ」


「俺はサルダ―ト、腹を斬られたんだ、二人より少し色を付けてくれよ!」


名前は聞いた。


「確認ですが、ミウに関わった人間は3人だけで間違い無いですか?」


「ああっ、間違いない…盗賊の本隊は討伐し終わり、残党を狩りはバラバラで行ったからな」


「ああっそうだ」


「間違いないな…」


「一応確認しますが、3人と和解が済めば、もう他の兵士や人と揉める事は無いですかね?」


「ああっ、まずない筈だ、そのガキの居た盗賊団は残酷な奴で…基本的に相手は皆殺しにしていたからな」


「他の兵士は手配書を見ていた位で因縁は無い…まぁ俺達を押さえておけば問題ないんじゃねーかな」


「実質、被害にあったのは俺だけだ! 直接、そのガキに関わった奴は居ないからな、平気な筈だ」


この3人だけなら…あれで良いか。


「取り敢えず、俺も金が余り無いので今日は銀貨3枚で勘弁して下さい! 明後日までにはある程度の金を揃えて持って行きますのでどうか、それで許して下さい」


「最初から、そう言えば良いんだよ! なら文句ねーよ」


「金くれるなら良いや…それじゃ明後日までに詰所に持って来いよ」


「チェッ仕方ねーな…俺は腹をやられて死にかけたんだ…弾んで貰うぜ、金貨10枚以下なら許さねーからな」


「解りました」


俺が銀貨3枚渡すと…舐める様にこちらを見て去っていった。


相手がゲスで良かった。


此奴らは前の世界で言うなら悪徳警官だ。


警官の癖に法律に従わないのと同じだ。


正直言えば…最初からミウの事を考えたら居て欲しく無かった。


だが…あくまで『法の中で正しい行い』ならそれを責めるのは酷だろう。


だが、これなら…躊躇しないですむ。


「理人…ゴメン…ヒクッ…ゴメンなさい…うっうっ…」


「ミウは泣いてばかりだな…大丈夫どうにかするから気にしないで良いから…」


「でも…ヒクグスッ…ゴメンなさぁぁぁぁーーい、うわぁぁぁぁん」


「ミウ、本当に泣かないで…」


結局、ミウは泣き止みはしたものの…その後暗く落ち込んでいたので…デートは中止にして宿に帰った。


◆◆◆


ようやく寝てくれた。


あの後、宿に帰ってからもミウは俺に泣きながら謝り続けた。


幾ら『気にしていない』と言ってもダメだった。


そして、さっき泣きつかれたのかようやくベッドで寝てくれた。


ミウが寝付くまで手を握っていたが、そっと俺はその手を放す。


きっと、恐怖と申し訳なさ…その両方を感じたんだろうな…


カバル、ミレス、サルダート…お前らがクズで良かった。


俺はアイテム収納から小さな蝋人形を3つ取り出した。


付属している紙に『カバル』『ミレス』『サルダ―ト』と書き小さく折り…蝋人形の体の部分を溶かして嵌め込んだ。


「これで良し」と…


俺はミウに気がつかれないように外に出て近くの川に行き、三体の蝋人形を流した。









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