第29話 デートと指輪
「あの…これから何処行くの?」
いきなりデートに誘ってしまったが『どうすれば良いんだ?』
前の世界なら映画や遊園地、カラオケ、幾らでも誘う先はあったが、この世界じゃ…解らない。
「そうだな…ミウは何処か行きたい所ある?」
「え~とミウは理人と一緒なら何処でも良いよ?」
これが一番困るんだよな。
仕方がない…解らない物は仕方がない。
「それなら、適当に街を歩いてみようか?悪いな、俺も良く考えたらどこ行って良いか解らないから」
「うん、ミウは盗賊だったから、殆ど街に入れなかったから、楽しみ」
そうか、よく考えたら前の世界で言う、指名手配されていたような物だから、そりゃ長くは居られないよな。
「それじゃ行こうか?」
「…うん、それじゃミウ準備するね」
そう言うとミウは奴隷用のチョーカーを首に嵌めた。
普通の奴隷ならチョーカーをつけるかどうかは自由だ。
だが、ミウは元犯罪者の終身奴隷…しかも盗賊。
この世界の盗賊に人権は無い。
その為、間違って殺されないようにチョーカーをつける必要がある。
「それじゃ行こうか?」
つけ終わるのを確認して俺はミウに手を差し出した。
ミウはおどおどしながら、俺の手をそっと握った。
うん、凄く可愛らしい。
◆◆◆
特に行く場所は決めずに二人でブラブラしていた。
暫く歩くとミウが一瞬足を止めた店があった。
串焼き屋みたいだ。
「ミウ、食べたいなら買ってあげるよ」
「いいの?」
パァっとミウの顔が笑顔になった。
この程度で笑顔になるなら安いもんだ。
「何本食べたい?」
「う~ん、それじゃ3本」
「おばちゃん串焼き5本頂戴」
「あいよ5本ね」
俺は串焼き5本を代金と引き換えで貰い、3本をミウに渡した。
「理人…いいの?」
俺の方が本数が少ないのを気にしているようだった。
「ああっ、俺はまだそんなにお腹空いて無いから良いんだよ!欲しかったらちゃんと買うから気にしないで全部食べて良いからね」
「うん、それじゃ遠慮なく頂きます」
串焼きを頬張るミウは年相応に見えて凄く可愛く見えた。
串焼きを食べながら色々見て歩いていたら、今度は露店でミウの足が止まった。
アクセサリーか。
「へぇ、アクセサリーか…色々あるんだな?」
「おっ!お目が高いね、うちは技術が売りだから…結構作りが良いんだよ! 良かったら妹さんに一つどうだい?」
「そうだな」
「彼女、恋人です!」
顔を赤くしながらミウが訂正するけど…
「あっ、すまないね奴隷だったのか」
「あっ確かに奴隷だけど恋人なのは本当です…そうだ指輪を見せて貰えますか? 出来たらお揃いの物があったら良いんだけど」
「あっペアリングだね…あるよ…ほらこれだ」
ミウの髪と同じ緑の宝石が入っていてなかなか綺麗だ。
「ミウ、良かったらこれ買うから一緒につけてくれる?」
「えっ、ミウに買ってくれるの?」
「うん、これは俺がお揃いでつけたいから買ったものだから、ミウが欲しいのがあるなら別に買ってあげるよ」
「え~と、指輪を買って貰って悪いから良いよ」
「これは俺がミウとお揃いの物を身につけたいから買うんだから気にしなくて良いんだよ」
「あの、お揃いの指輪をつける意味って、何か意味があるのかな?」
「あっ、俺の前に居た世界では恋人同士で同じ指輪をお互いの薬指嵌める風習があるんだよ…だから…」
「うっううっ、グスッ、ミウがそれをつけて良いの?」
「あの…ミウ泣かれると困るから出来たら泣かないでくれると助かる」
「ううっグスッ…うんミウ泣かないよ…理人ありがとう」
「どう致しまして」
「それじゃ、寸法の調整をするから手を出して下さい」
「「はい」」
代金を払い指輪を貰った。
「それじゃ、ミウ左手を出して」
「はい」
俺はミウの左手薬指に指輪を嵌めてあげた。
「これで良しと、今度はミウが俺の左手薬指に嵌めて」
「…うん」
俺は左手をミウに差し出すとミウが薬指に指輪を嵌めてくれた。
「ありがとう」
「お礼を言うのはミウだよ、凄く嬉しい…ミウ誰かからプレゼント貰うの初めて…本当にありがとう、それで恋人同士で指輪をつけるのって何か意味があるのかな?」
「将来結婚しようね…そういう約束かな?」
「結婚…ミウと」
「だって、終身奴隷なんだから死ぬまで一緒に暮らすんだから…同じような物だし…」
「そうか…ミウは理人のお嫁さんに将来なるんだね…うん、凄く嬉しい、グスッ、スン、スン…ううっううっううう…ありがとう」
「あの、ミウお願いだから泣かないで…こんな所で泣かれると気まずい」
「ううっ…理人がいけないんだよ…こんなミウを喜ばせる様な事ばかりするから、うぇうぇうわぁぁぁぁぁーーーん」
「しょうがないな…ほうら」
こうなるかもな…そう思っていたから、今日はハンカチを持って来ていた。
ミウが泣き止む迄俺はハンカチで涙をぬぐってあげた。
◆◆◆
ミウが泣き止んだのでデートを再開した。
「そんなに指輪ばかり見ていたら転んじゃうよ」
「転んでも良いもん」
さっきから嬉しそうにミウは左手薬指の指輪を見ている。
このままじゃ本当に転ぶ気がする。
「転ぶと大変だから、腕を組むか手を繋ぐかしようか?」
「理人は腕を組むのと手を繋ぐのどっちが良い」
「どっちかと言えば組んで貰う方がよいかな」
「そう、それじゃ…これで良い?」
そう言うとミウは俺に手を絡めると体を預ける様にもたれ掛かってきた。
「ううん」
俺が顔が赤くなり返事に困るのも仕方がないと思う。
◆◆◆
「見つけたぞ、あの時のガキ女だ、生きていやがった」
「クソッ、生きていたのか? しぶといガキだ『腹切りのミウ』 今度は逃がさないぞ!」
「この腹の恨み今、返させて貰う」
ミウを見るなり3人の兵士が走ってきた。
ミウは男達を見た瞬間から、俺にしがみ付き震えている。
近くまで来ると…
「なんだ此奴『終身奴隷』になっているぜ!」
「畜生――っもう、殺せないのか」
「くそっ、俺はそのガキ女に腹を刺されたんだ…死んでいなかったのかよ…おい、お前、そのガキ女の奴隷、俺に貸せ」
俺に言っているのか…
「貸す訳無いだろう? もうミウは終身奴隷だ! 盗賊じゃない、用件はそれだけか?それだけなら行かせて貰う」
「待てよ! 俺達はれっきとした兵士だ。以前、そのガキ女の所属していた盗賊を討ちにいったんだ」
「それで?」
「その時、そのガキ女に腹を刺されたんだ…殺したと思っていたら生きていやがった…償いをさせてやらないと気がすまない」
「それなら、終身奴隷になった事でもう、その罪は消えた筈だ、ミウを貸す必要は無いな…少し落ち着いて話しましょう...」
折角のデートなのに気分を台無しにされて、俺は凄くムカついた。
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