09

 目が、醒めた。

 目が醒めるという事実が、まず、ちょっと、分からなかった。

 しんだのではなかったか。綺麗に顔を裂かれて。ようやく、この顔と別れられると思って。そのまま。目を。

 閉じる。

 開く。

 やっぱり、目は醒めている。生きている。

 なぜ。

 人ならざるものを殺したときの、ぐちゃぐちゃとした感情の塊のようなものは、あまり感じない。自分は、殺せていないのか。大切な場所を守れるなら、刺し違える覚悟だったのに。

 そうだ。ここは。


 周り。


 何もない。空間もない。縦横奥行きが、ない。斜めだけ。斜めだけの空間。ここではないどこか。街の、別な場所。


「おはよう。起きた?」


 声。

 聞き覚えのある。いつも自分に、感謝をくれた。あの声。


「ちょっと待ってね。止血する。顔にさわるよ?」


 手が。顔にふれる。

 すり抜ける感覚。


「そっか。ここは物理的に血止めは無理か」


 彼女だった。

 彼女が、ここにいる。


「どうなっている?」


「今ね。あなたの顔が3枚おろしになってる。視界がななめでしょ?」


 そうか。顔が裂かれたから、斜めしかないのか。理解できないけど、なんとなく、理解した。


「なぜ、ここに」


 彼女。斜めの視界のなかで、彼女が制止するのが、見える。


「私。ぱりぴ陽きゃぎゃるじゃなくなっちゃった」


 彼女が、こちらを向いている。

 彼女が、にこっと、笑う。

 いつもの彼女の笑顔では、なかった。

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