第5話

 日常生活は、彼がいなくても普通に続いた。その事実そのものが、私にとっていちばん愕然とするものだった。

 彼がいなくても。

 私の人生は成立している。

 信じがたいほどの、しかし目の前にある、否定しようのない事実。


 鏡の前。シャワー浴びたあとの私。

 私の顔。

 彼の、写真を。思い出す。こわくはないし、こみあげるものもない。ただただ、彼がもういないという、それだけを確認する脳内の作業。


「私って」


 鏡の、私の顔に。ふれる。鏡面で、指がすべった。指紋。湯気。私の顔。


「私って、こんなに顔かわいかったっけ」


 自分の顔なんて、良いともわるいとも思ったことはなかった。私は、いつも私だった。

 今の、鏡に映る私。鏡の前にいる私。誰なんだろう、これ。

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