第4話 一瞬の光明

 裸のまま逃げた私は、誰かに見つからないように細い路地へと入る。夜ということもあって暗く、また人もいないので、安堵して肩を下ろし、アスファルトの上にへたり込む。

 そして考える——不可能だと思っていた脱出に成功した今だからこそ、考えないといけない。この何かがおかしい世界から、どうやったら元の世界に戻れるか——

「…………」

 当然、何も浮かんでこない。何が原因でこんな世界に、気づかぬうちに転移していたのかが、見当もつくはずが無い。或いは、元々この世界はこんな世界だったんじゃないか。

 ——いや、流石にそれは無いだろう。あんな設備、クリトリスの肥大化、人を家畜のように扱う人がこの辺りでも最低二人はいる——普通に考えて、ありえない。しかし、ここがどのような世界なのかはある程度見当がついていた。

 ——『いい臭いがするって思って来たけど』。

 ゴスロリの女性が、そういえばそんなことを言っていたと思いだした。自分の腕や体を嗅ぎ——汗臭さと、陰部の臭いが混ざったような臭いがしていることが分かる。時々その臭いがして、あの環境によるものだと思っていたが、どうやら私からする臭いみたいだ。

 肥大化し、陰茎のような役割も持つクリトリス、女性が女性を奴隷とする世界、そしてこの体臭とそれに引き寄せられる女性——ここはきっと、オメガバースのような世界なのだろう。尤も、オメガバースについて十分な知識を持っている訳では無いが。

 勿論それは現実の世界では無く創作上の世界で、つまり私は創作の世界に飛ばされた……? でも、街並みはいつもと同じで……つまり人だけが入れ替わった? あんな、クリトリスが肥大化した人達がどこからか来て……滅茶苦茶に犯されて……奴隷のように……

 そこで、気づいた——自分が、ムラムラしていることに。

「え、嘘——」

 あんなに怖かったのに、女性に滅茶苦茶に犯される自分を想像し、手が自然に恥部へと動いていた。ボーイッシュな女性に犯され、そして何日も放置され——きっとそれで、狂ってしまったのだろう。

 ——でも、今日はまだ犯されて——

 そう思い、はっとする。あれを『いいもの』と思ってしまった自分に戦慄する。もうここまで堕ちてしまったのか、と。

 咄嗟に立ち上がり、私は暗い道をずかずかと進む——その雑念を、打ち消すように。この世界に完全に堕ちずに、元の世界へと戻る、或いは戻す為に。

 ——でも、せめてオナニーくらいは——

 自慰は一日に数回のペースでやっていたし、こんなにムラムラしては却って自分のやるべきことに集中できない。

 周囲を——こんな裸で歩いている時点でアウトなのだけど、それでも——きょろきょろと見回し、誰もいないことを確認してから電柱の陰に隠れるように立つ。そして自分の恥部に右手の人差し指と中指を入れる。温かく、ねっとりとした液体が指を包んだ。膣を優しくかき回すように指を動かす。

 そしてGスポットを連続で押したり、ぎゅーっと押したりを繰り返す。

「ん、ふぅ……んっ」

 次第に激しくなっていく指に、声と荒い息が漏れてしまう。それらを抑えようと左手を顔に当て、しかし右手の指をどんどん激しく動かしてしまう。そして顔に当てていた左手を動かしてクリトリスを掴んでくりくりと弄り——

「わん! わん!」

 その声に驚いてびくっとし、咄嗟にその声の方を見遣る——まるで人のような声であったそれは、本当に人から発せられたものであった。

 先程までいた家を襲撃してきたゴスロリの女性、その飼い犬——もとい飼い人——であった。首輪が付けられ、アナルに犬の尻尾のついたおもちゃが挿入され、犬の耳の付いたカチューシャを付けている女性である。

「い、嫌——」

 咄嗟に陰部から手を離し、全力で逃げる——が、元々体力があまり無かった上に、碌に運動もせず、肉が付いてしまった私のスピードなどたかが知れており、恐らくそういう風に育てられてきたであろう彼女にすぐ追いつかれてしまう。

 手と足を使って犬のように四足で走ってきた彼女は、私を眼前に捉えると跳躍し、背中に乗りかかる。

「うわぁっ!?」

 その重さと勢いに私は倒れ、激痛が全身に走る。擦り傷まみれの体、その痛みを堪えつつ立ち上がり——しかし犬の彼女がそうさせないと言わんばかりに体を私の背中に乗せてきた。私は再び倒れてしまう。

 彼女は一度体を起こした。そんな彼女の方を見遣る——陰茎のようなクリトリスが、さながら勃起のようにぴんと勃っていた。

「や、やめて——」

 抵抗などできないのに、そう懇願し——

 ——このまま、犯して——

 そう心のどこかで願ってしまった。犯されたくないのに、この世界に堕ちたくないのに、犯されたいという矛盾した願いを抱えていることに気づいた。

 彼女は獣の交尾のように、体を私の背中に乗せてクリトリスを私の恥部に挿入し、激しく腰を振る。

「はぁっ! はぁっ!」

「あンッ! あッ! うンッ!」

 彼女の荒い息と私の喘ぎ声が暗い街に響く。こんな街中なのに、激しく性交をし、でも恥ずかしさ以上に膣の奥が何度も突かれる感覚が心地良くて——

 また、そんな思いを抱いてしまった。そんな思いを抱いてしまっては駄目なのに、この世界から早く元の世界へ帰りたいのに。私には学校があって、趣味もあって、ちゃんとした生活もあって——

「待て」

 その声と共に、彼女の腰振りが止まった。

「お座り」

 その声がすると彼女は私の恥部からクリトリスを抜き、さながら犬のおすわりのように、アスファルトの上に座った。

 その隙に逃げようと立ち上がり——

「待て、お座り——そう言ったよね?」

 その言葉と同時に二人の犬の女性が手と足で走ってきて私を捕まえ、アスファルトに伏せさせてきた。

「誰が犯していいって言ったかな? 誰が傷つけていいって言ったかな?」

 その声と共に、私を犯してきた犬の女性は何度も鞭打ちされる。

「きゃんっ!」

 それでも彼女は「痛い」や「ごめんなさい」といった人の言葉を言わず、犬のような声を出し続けた。

「ふぅ……道でも舐めてなさい」

「わ、わん……」

「さて——さっきぶりだね。名前は?」

 そう言って彼女は私の前に立つ。押さえつけられた私は彼女を見上げ——果たして、それは先程のゴスロリを着た女性だった。

「あ、葵由希です……」

「へー、ユキちゃん! ワタシは柑奈! よろしくね!」

 ゴスロリの女性——カンナはにこやかに微笑んで名乗った。

「じゃあ早速で悪いんだけど——」

 そう言って彼女はポケットから何かを取り出し——それがスタンガンだと分かった瞬間、私は押さえつけられている体をじたばたと動かした。

「嫌っ! 嫌ぁっ!」

 泣き叫ぶ私を意に介さず、彼女はスタンガンを突き刺してきた。

「があ゛っ!?」

 全身に激痛が走り、私の体は動かなくなる。そんな私の体を、二人の犬の女性は二足で立ち上がって持った。

「さぁて、ワタシのお家にご招たーい!」

 そう言って彼女は歩き出し、私の体を抱える二人の女性は彼女についていった。

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