後輩の復帰配信

『セレナーデ2期生の白樺しらかばメイナです。皆さんの前にこうして声をお届けするのもかなり久しぶりになってしまったのですけど……今日はちょっと、お騒がせしてる件についての謝罪をしたいと思い、この場を設けていただきました』


 真っ黒な背景で始まった配信は、メイナの神妙な口調で開始された。

 この時点で、胸が締め付けられる思いになった。

 白樺メイナ。セレナーデ唯一の2期生としてグループを盛り上げてきてくれた仲間だ。

 できれば、こんな姿見たくなかった。

 あと、やはりというかチャット欄はオフになっていた。

 今は声は聞こえないけれど、恐らく他のメンバーも揃っているのだろう。


『この度は関係者様各位、そしてリスナーの皆様に多大なご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。今回起こしてしまったことは私達の不徳のなすところであり、弁解の余地もない、どうしようもなく馬鹿な行いであったと反省しております。他のみんなにも来てもらってるので、ちょっと一言ずつもらいたいと思います』


 そして順番に一言ずつ粛々と、謝罪と今後の目標が語られていった。


『セレナーデに入るのが夢で……ずっとセレナーデを志してきました。事務所から合格通知が届いた時の喜びは今でも忘れません。それだけ私にとってセレナーデは大事な場所で……大好きな場所で活動できるのが嬉しくて、夢中で活動してきました。今回はこんな許されないことをしてしまい沢山の人にご迷惑をかけて、裏切ってしまって本当に申し訳ありません。私は、これからもセレナーデで活動していきたいですし、それが許されるのならこれまでよりもより一層気持ちを引き締めて活動を頑張っていきたいと思っています。今回は本当に申し訳ありませんでした』


 3期生のたちばなエリス。

 エリスは時々言葉に詰まりながらも言い切った。

 彼女は姉御キャラで普段はツンケンとしているが情に厚い一面もあり、グループの雰囲気作りに一役買ってくれた。

 セレナーデがFPS禁止になる前、よくFPS配信に誘ってくれたっけ。

 私が下手くそすぎてずっとキャリーされっぱなっしだったけど。


『もうみんなには配信で言ってるんですけど、私は元々個人勢でセレナーデには途中から参加させてもらいまして……そのことで色々悩んだりしたこともあったんですけど……何よりセレナーデのことが大好きだったのとリスナーのみんなやライバーの皆さんの支えがあってここまで続けてこられました。それなのに恩を仇で返すようなことして本当に申し訳ありません。今後はもっと自分を見つめ直して、裏切ってしまったリスナーの皆さんにまた配信を楽しんでもらえるように頑張りたいと思います』


 魔木まぎキラメ。

 キラメが言っていた通り、彼女は元々個人勢で、移籍組ではあるが立ち位置としては3期生でエリスの少し後輩にあたる。

 セレナーデに移籍する前から常々「セレナーデに入りたい」というようなことを配信上でも言っており、実際にセレナーデのオーディションに応募したこともあったとのこと。

 結局それは実らなかったのだが、エリスがデビューした少し後に運営がキラメをスカウトしたのだ。

 なぜそうなったのか、いちいちライバーにも説明されていないので推測の域を出ないが、私は話題性が欲しかったんじゃないかなと考えている。

 個人勢であり、セレナーデ推しを公言していたキラメがセレナーデからデビューしたら、話題になるもんね。

 実際に、キラメがデビューした時はエリスの時以上にバズっていた。

 彼女はとにかく楽しそうに配信する子だなという印象だった。

 移籍してからは緊張もあったとは思うけれど、積極的にセレナーデライバーと関わっていたし、ゲーム企画も考案してくれたりしてアクティブに箱を盛り上げてくれた。

 特に印象的だったのは、サムネだろうか。

 セレナーデのオタクというキャラクターを上手く活かして、推しに限界化するオタクのような目を引くデザインのものが多く、視聴者も楽しんでいたように思う。

 キラメ曰く1期生は「聖域」らしく、未だにコラボには誘われていないが、いつかコラボしようというようなことは彼女と話していたのだ。


 休止中はセレナーデの配信を全く観ていなかったわけではないけれどなかなかリアタイはできなかったので、なんだか懐かしくて色んなことを思い出してしまう。

 その後も配信は粛々と進み、最終的にはこれからもセレナーデで頑張っていくということで終了となった。

 特に問題なく、無事に終わってよかった。

 これでまた元通り……とはいかなくても、再起に向けた第一歩を踏み出すことはできたのではないか。

 私は今すぐにでもディスコードのセレナーデサーバーに労いの言葉を送りたかったが、みんなも疲弊しているだろうしそれはまたの機会にすることにした。


 私も私で、動かないといけないな。

 ゆきあの説得には失敗した。

 彼女を説得できたら一番いいのだけど、現状難しいということが分かったので一旦手を引くことにする。

 となると、他にできることはなんだろう。

 頭を悩ませていると、ラインの通知が来ていることに気づいた。

 それを見ると、響からだった。

 彼女からのメッセージを見た私は、さらに気を引き締めた。


『私、セレナーデでデビューできたことが人生で一番の自慢なんです。セレナーデに骨を埋めるって決めてるんです。だから誰がなんと言おうとセレナーデは最高のグループです!』

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