質疑応答3
設定など誤り、忘れてる部分があったらすみません。
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「アイドル売りが嫌だった」
アイドル売り──。
セレナーデは所謂、アイドル売りのようなことをしていた。
特製ブロマイド、アクリルスタンド、ボイス、直筆サイン入りチェキカードなどのグッズ販売に加えて、公式番組では「バラドル(バラエティアイドル)」を意識した企画も多数行われている。
しかし、昔からそうだったわけではない。
今もなお伝説としてファンの間で語り継がれている、都内の小さなライブ会場を借りてのライブ。
2期生がデビューしてすぐの頃だったのでまだそんなに知名度もなく、会場が半分くらいしか埋まらい状況下でのライブとなった。
もう五年くらい前になるだろうか。当時はお金がなく、ライブの技術も今より格段に低かったけれど、そのライブの模様がとあるアイドル番組にて紹介されたことがきっかけとなって一気に知名度が上がった。
なのでセレナーデをアイドルVtuberと勘違いする人が多く、その需要に応えるようにセレナーデはアイドル路線になっていったのだ。
実際のところ、それまでセレナーデは生粋の配信者集団みたいな感じで、今と比べるとかなりアングラだった。
ライブをしたのも、メンバーの3Dモデル製作にかかった費用を償却することが目的だっただけでアイドルとして羽ばたきたいとかそんな大層な目標があったわけではないし。
その中で、ゆきあが葛藤しているのは感じ取っていた。
一番近くで見てたからね。
もしかしたら、積もりに積もってのことなのかもしれない。
「アイドル売りって言ったって、そんなに特別なことしてる? 配信して、ライブして……コンプライアンスは厳しくなったけどグループが大きくなればそうなっていくもんだし……ライブはどうなの?」
「ライブは楽しいけど失ったものが多すぎて」
「失ったものってなんだよ」
「できないこと増えたじゃん」
「たとえば?」
「FPSとか」
「FPSができないから嫌なの?」
「FPSができないとストリーマーの大会にも参加できないし……コラボもできないし……あとクリーンなイメージを求められるのもストレスだった。本当の私なんて誰も興味ないんだ、みんなの理想を押し付けられてるだけなんだって感じた」
「ちょっと待ってよ。押し付けとは違うでしょ」
「押し付けられたじゃん。昔は誰とも気兼ねなくコラボできて好きなゲームできてたのに指針が変わってからまるで別のグループみたいになった」
「何度も言うけど押し付けられてたわけじゃないでしょ。私らがデビューした頃と比べたら比較にならないくらいグループとして大きくなったわけじゃん。昔のシステムをそのまま踏襲してたら、絶対ここまで来れなかった」
「魂捨ててまで大きくなりたくなかったよ」
今の言葉に、私はカチンときた。
まるで、今まで私たちがしてきたことが間違ってたと言われているようで。
「ゆきあの今までは魂の脱け殻だったってこと?」
「そう思うなら思ってもらっていいよ」
「なにそれ、舐めてんの?」
思わず強く言い返してしまい、ゆきあの肩がぴくついた。
「怒んないでよ。怖い」
「あんまり挑発しないで。今あんまり余裕ないから」
「してないし……」
私は喧嘩をしにきたわけではない。
このままだと話し合いが頭打ちになってしまうので、もう少し冷静になろう。
ゆきあのペースに流されてはいけない。
私は深呼吸して、PCの前に座った。
「私はさ……ゆきあとこれからもセレナーデで頑張っていきたいって思ってるんだけど」
「……」
「覚えてる? 私らがデビューしてすぐの頃さ、二人でセレナーデを大きくするんだって熱く語り合ってたじゃん」
「覚えてない」
「ゆきあが言ってくれたんだよ。当時私はやる気がなくて、いつやめてもいいやみたいな感じで活動してて。ゆきあがご飯に誘ってくれても、何回も断ってたよな」
「やだ……そんなの覚えてたの? 恥ずかしいんだけど」
私は続ける。
「私がセレナーデをやめたいって言った時、ゆきあはすぐに『話そう』って言ってくれて……電話したじゃん。正直私はもう話すことなんか何もないって思ってたけど、ゆきあはさ、きらきらした目で自分の夢を語ってた」
「やめてよそんな話……聞きたくない」
「こっちは止められるんだろうなって思ってたのに、自分の夢を延々語っててなんだこいつって思ったよ。やめる私へのあてつけかとも思った。でも最後に、ゆきあは『夢が叶うまで傍で支えてくれませんか』って言ったよね」
「覚えてない」
「お前が覚えてなくても私は覚えてるんだよ。なんならその時のトーンまでそっくりそのまま再現できるけど」
「やめてって! なんなの、私が情にほだされるとでも思ってるの?」
「私は堂々とゆきあに向き合ってるよ。そもそもさあ、私分からないんだけど、なんで独立なの? 卒業っていう選択肢もあるわけじゃん」
セレナーデから離れて自由に活動したいなら、小金ゆきあである必要はない。
むしろ、小金ゆきあを引き継いだらセレナーデに囚われるのではないか。
何かしらの問題があって名前と姿を引き継いだままグループから独立したVtuberを知っているが、彼女の場合は事務所に問題があったからまだわかる。
でも今回の場合、完全にゆきあのわがままなのだ。だからこそ、なぜそこまで小金ゆきあにこだわるのかが分からなかった。
「まりあは私に卒業してほしいの?」
「なんでそうなる。私はゆきあの真意を知りたいだけなのよ」
「そんな話したって……なんにもならないじゃん。私のことなんかとっとと忘れて勝手に幸せになってよ」
「話を逸らすな。それ悪い癖だよ。卑屈になって、嫌なことから逃げて。そういう生き方をしてきたんだろうけど、私には通用しないから」
「なんで今更仲間面するの? ずっと馬鹿にしてたくせに。こんな状況になってしたりやったりなんでしょ?」
かちん。
「はあ? お前さ……」
一歩踏み出したところで、思い止まる。
ずっと馬鹿にしてたというのは言いがかりだ。
大事な仲間を馬鹿にするわけがないし、言うまでもなく彼女のことは尊敬している。
彼女からこんな言葉が出てきたこと自体初めてなので、少しぴきってしまったが、これはブラフだろう。
つまり、現実から目を背けたいがための措置。
もちろん、目を背けるなんて許さない。しっかりと向き合ってもらう所存だ。
「……まあ、そんな投げやりになんなくてもいいじゃん」
ここで、本当はそんなこと言いたくないんでしょとか言ってしまうと、ゆきあの性格上嫌がると思うのでなあなあで済ませておく。
彼女は心を見透かされるのが苦手なのだ。
それにしても、こうも心を閉ざされていると話し合いは長期戦になりそうだ。
今日は泊まりかな……?
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