事前調査3
小金ゆきあ。彼女はセレナーデ1期生として箱の躍進に貢献してきた、いわば箱の功労者。
セレナーデメンバーの半数が、彼女に憧れてオーディションを受けたという話はあまりにも有名だ。
彼女なくしてセレナーデはないと言ってもいいだろう。
箱のトップは小金ゆきあ。今がどうだろうが、私のその認識は昔から変わっていない。
これからも彼女と、そしてセレナーデの仲間と共にバーチャルの海を泳いでいくのだろう。
そう思っていた。
なのに、今はメンバーのほとんどが謹慎状態。
騒動の中心と思われるゆきあは禁止されている魂での活動を強行。
残されたのは私と、一番後輩の響だけだ。
はっきり言って、セレナーデは風前の灯。
明日にでも会社からグループ解体の話が出てもおかしくないのだ。
この境地を乗り越えるには表の活動だけではなく裏での活動──ここでは便宜上、魂での活動を裏と呼ばせてもらうが──にも干渉しなければならないと考え、私はゆきあの魂「ボーノ」に狙いを定めた。
以前、彼女と通話した際、彼女はグループにこだわる必要はないというようなことを言っていた。
それどころか、新事務所を作るとか言い出して……正直、頭にきた。
私達の大切な場所を無下にされた気がして。
彼女が何を考えているのかは分からない。でも、私はセレナーデを退くつもりはない。
私の行動は、セレナーデが第一にあってのことなのだ。
だから、ゆきあとは真っ向から衝突する形になるな。
これは、意地と意地の張り合いだ。
ボーノもといゆきあは配信内で、何を思ったか「集団いじめを受けている」と告白した。
そんなの全く身に覚えがないが、私は調査のため彼女の話を最後まで聞くことにしたのだった。
「ほんとにね、闇だよ。界隈の闇。闇に飲まれて闇属性として開花しちまいそうだよ」
闇……確かに配信界隈は色々とある。
でも、いいことだって沢山あったじゃないか。
「みんなは私が闇堕ちしても好きでいてくれる? もし私が闇堕ちしたらどんな姿になるんだろうね。お花がいいな。綺麗だけど毒々しいお花。みんなが蜜を吸いにきたら針でぶすっ! って刺すの。そしたらみんなもお花になる。みんなで綺麗なお花畑作ろうね」
頭が痛くなりそうだ。
こっちはこんな感じなのか。
ゆきあも大概お花畑だけれど、こっちはもっとすごいな。
リスナーはどんな反応してるんだろう。
コメント
:何があっても大好きだよ
:もちろん
:俺ボーノを守る雀蜂になる
:みんなと一緒なら怖くないよ
:ぼのをいじめるやつはゆるさない
:この身喜んで差し出そう
……まじか。
配信者とリスナーは似るということか。
「今実はコメントメンシ限定にしてるんだよね。だからアンチコメント書けないね。どんなに頑張ってコメント考えても私には届かないんだよ。残念でしたー! ばーかがあ!」
コメント
:そうだったのかw
:こらこらw
:かまうと付け上がるよ...
:コメントできるー!
:煽りよるww
そういうところは抜かりがないのにどうして事務所の方針には逆らうんだ。
つくづく分からない女だ。
それよりも、集団いじめの件はどうなったんだ。
言うだけ言っておいて、さっきから関係ない話ばかりしているぞ。
チャット欄にもその件を気にするコメントがあるけれど、ゆきあはまるで泳がせているかのように言及しない。
もしや、これもまたゆきあの虚言なのか。
ゆきあは他人から心配してもらうために嘘をつくことがある。
嘘の内容は可愛いものから「なんでそんな嘘をつくの?」と思うものまで様々で、こいつには散々迷惑をかけられてきた。
別にそれを根にもっているわけではない。
ある程度の関係性もあるし、ついていい嘘とそうでない嘘のラインはちゃんとあったから。
でも、集団いじめが嘘だったとしたら、それはそうでない嘘になるだろう。
これがボーノの通常営業なのか、はたまた良し悪しの判断がつかなくなっているのか。
そのうち触れるかもしれないと思って配信を観ていたけれど、結局彼女は最後まで集団いじめの件について言及することはなかった。
『ゆきあ?今時間空いてる?』
その夜、私はゆきあに連絡をとろうとした。
しかし、彼女から返信が来ることはなかった。
まあ、想定内だ。
そしたら、これならどうだろう。
『話してくれないなら他のメンバーに聞きにいくから』
これは賭けだった。
全く響かない可能性はもちろんある。
ただ、ゆきあは人に心配をかけたがるくせに、人に迷惑をかけるのは嫌がるのだ。
だから自分のことでメンバーに話がいくなら、止めようとするはず。
もしこれで音沙汰なしだったら、ガチで凸る。
ゆきあの家に。
そう、これははったりだ。
私だって、メンバーに迷惑はかけたくない。
ゆきあへの接触は事務所から禁止されているから、他のメンバーまで巻き込んでもし事務所にバレたら、彼女たちの立場も危うくなる。
分かりきっていることだ。ただ、今のゆきあだったら騙されてくれるかもしれない。
そう思っていたのだが、そんなに甘くはなかった。
三日待っても彼女からの返信は来なかった。
はい、自宅訪問決定。
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