事前調査1

 私はXである名前を検索した。

 するといくつかのアカウントがヒットした。

 私はそのうちの、可愛い女の子のイラストがアイコンになっているアカウントをタップする。

 DMは……開放されてないか。まあ、それはそうか。

 しかたない、本人に直接連絡を取るしかないな。

 先週ゆきあに電話したばかりだけれど、彼女は勘が鋭いのでなんの電話かすぐ理解するだろう。

 ただ、前回ゆきあに電話した時の反応を見る限り、はぐらかされそうな気もする。

 別活動のことについて干渉されるのを快く思わない可能性だってある。

 それでも、少しでもあいつにセレナーデを思う気持ちがあるのなら、受け入れてくれると信じるしかないのだ。

 私はそれに先駆けて、ゆきあの魂である「ボーノ」のYouTubeチャンネルに行き、ライブ配信のアーカイブを確認した。

 最新のアーカイブは、三日前に配信された「鬱になりました」と題されたものだった。

 私は「鬱」というワードに若干の警戒を抱いた。

 ゆきあは人に心配してもらうために嘘を吐くことがある。

 鬱になったというのが本当か嘘かはまだわからないが、もし嘘だった場合、彼女の悪い癖が始まっている可能性がある。

 それに、このタイミングで魂の方を動かすというのも理解できない。

 一体、あいつはここで何を語っているのか。

 少しの怖さはあった。私とゆきあが出会ったのは、セレナーデ設立当初である3年前。つまり、私はゆきあの3年分しか知らないのだ。

 3年なんて、彼女の人生の中ではほんの一部でしかない。

 彼女の深淵を覗くことになるかもしれないのだから、気を引き締めていかなくてはいけないかもしれないな。


 動画を再生すると、広告が流れてからゆきあの配信部屋が映った。

 これは普段、小金ゆきあとして配信する部屋とは別の部屋だ。

 オフコラボでゆきあの家に行ったことは何度もあるのでこの部屋の存在は知っていたけれど、入ったことはなかった。

 その部屋は割と簡素なレイアウトで、余計なものはほとんどなかった。

 テーブルの上にはマイクが置かれており、部屋の奥にはベッドが映っていた。

 そして、テーブルの前の椅子に、ゆきあ――ボーノが座っていた。

 ここからは便宜上、ゆきあとの思い出等以外では彼女のことをボーノと呼ばせてもらう。

 ボーノとしては実写で活動しているようなので、画面に映っている彼女は当然実写だ。

 相変わらず、ノーメイクなんだな。ボーノ、もといゆきあは基本的に誰と会うときもノーメイクが多い。

 なぜノーメイクなのかはわざわざ聞いたこともなかったから知らないけれど、ノーメイクの彼女の顔はかなり幼く見えた。

 ゆきあは確か25歳だったはずだが、顔だけで見ると高校生くらいに見える。私はゆきあの顔を表現する時に、よく「卵顔」という言葉を使う。

 全体的に丸みがあって、可愛らしい顔をしているのだ。

 肌が弱いらしく頬によくニキビを作っているが、今日は少しましになっていた。

 小金ゆきあは金髪だが、本人は黒髪のボブ。それもまた、顔の幼い印象と合っているように思える。


「聞こえてる? 聞こえてたらコメントしてほしいな。みんなおはよう、元気?」


 そして、ボーノの配信が始まるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る