暴走ゆきあ

 ゆきあが魂での活動を再開した。

 その事実はマネージャーを通して私の耳に入ってきた。

 私のマネージャーである園原さんはゆきあのマネジメントも兼任しており、暴走しがちなゆきあの相談事をこれまで私に持ちかけてきていたのだ。

 一応補足しておくと、セレナーデメンバーに何かがあったからと言っていちいちマネージャーや運営から他メンバーに話が行ったりはしない。

 大体は、マネージャーから「配信で言及しないようにお願いします」とさらっと言われるくらいだ。

 しかし、園原さんは割と躊躇ちゅうちょなくゆきあのことを私に話してきてくれる。

 良いことも悪いことも含めて。それがマネージャーとしてどうなのかという疑問はさておき、私としては頼られている感じがして悪い気はしなかった。

 そもそも担当を兼任するだけでも大変なのに、その片割れがゆきあとなったらその苦労はむべなるかな。

 あいつは報連相をしない上に、独断専行。

 さらに厄介事を持ち込んできやすいタチだから、私が間に入ったほうが上手くいくのだ。

 むしろ、私じゃないと制御できないまであるからな。

 ゆきあが言うことを聞いてくれなくて困っていると園原さんに何度泣きつかれたことか。

 だから私は出来得る限りの協力を惜しまなかったし、色々と口添えをしてきたりした。

 他がどうなのかは知らないが、こういう関係性があってもいいのではないだろうかというのが私の答えだ。


 話を戻そう。

 ゆきあは現在謹慎中なので、当然他の名前での活動も禁止されている。

 つまり彼女はまた一つ規則を破ったことになる。

 やってはいけないことだということは本人が一番分かっているはずだが、どうしてじっとしていられないんだろう。

 あいつが巻き起こした諸々のストレスからか最近は頭痛がするようになったし、少し痩せたような気もする。

 そろそろガチ説教しないといけないかもしれない。


 ここで魂について解説しておこう。

 魂……それは、Vtuberの中の人の別人格とでも言おうか。

 そもそも、魂とはVtuberの中の人そのものを指す言葉なのだ。

 すごくすごくメタい話になってしまうが、Vtuberの中の人には、Vtuberになる前から既に配信活動をしていた人がいたりする。

 ちなみにせんせーしょんは配信実績がある人しかオーディションを受けれないので、全員配信経験ありということになる。

 そういう人たちがVtuberではない別の姿として活動する際に、魂という言葉が使われるのだ。

 ただこれはあまりいい意味はなく、揶揄する目的で使われる言葉であるというのが現状である。

 Vtuberとして活動しているのに、他の活動のことに言及されたらいい気はしないもんね。

 なので間違えてもVtuberに「魂活動の方は順調?」なんてことは言わないように。

 以上の観点から私はゆきあに魂関連の話題を出すことはなかったし、逆もまた然りだった。

 ゆきあの魂の方のアカウントもフォローしていない。

 ずっと無干渉で通してきたからだ。

 ただ、こうなってしまったら知らぬ存ぜぬというわけにもいかない。

 どうして魂での活動を再開したのか、そしてゆきあはどこに舵を切ろうとしているのか。

 私はそれを彼女に問いただす必要がある。

 ちなみに、ゆきあには関わらないようにと運営に釘を刺されてはいる。

 それは事務所のタレントを守るための措置とも言えるだろう。

 ゆきあのことでさえ手が回らずてんやわんやだというのに、私まで巻き込まれたらどうなるか。その懸念はよく分かる。

 ただ、ゆきあはそんなことで止まる女ではないことも分かっている。

 あれを放っておけば、ブレーキが壊れた車のようにどこまでも突っ走って、やがて衝突して大破する。

 その巻き添えをもらうのは、私や後輩達だ。

 深く介入しすぎないようにはする。私とて、ゆきあの1から100まで全てを知っているわけではないのだ。

 これ以上は危険だと思ったら潔く引き下がるし、事務所に迷惑はかけない。

 となると、まず私がするべきことは――。

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