波乱の配信前
小金ゆきあ。
セレナーデ1期生にして、箱の躍進に貢献してきた金髪ふわふわボブの地雷系女子である。
ゲームの腕前、トーク力、どれをとってもそんじょそこらの配信者には負けないほどの実力者で、彼女を差し置いて私ばかりスポットライトを浴びていることが納得できない。
セレナーデの顔はゆきあだ。私ではない。
それに昔は、一番手と言えばゆきあというイメージが箱全体にもあったように思う。
ただ、ある事件を境に彼女の評判は芳しくないものとなってしまった。
そのことが未だ尾を引いているわけではないと信じたいが、ゆきあがいるべき位置に私が据えられているということが全てを物語っているのかもしれない。
そんな失敗もありつつ、周りに迷惑をかけてしまいながらも辞めることなくセレナーデの先頭を走ってきてくれたゆきあには尊敬の念しかない。
あの記憶が薄れつつある今、またゆきあと軋轢もなく楽しく活動を続けていけるはずだと思っていた矢先に今回の不祥事。
しかも闇営業なんて普通に規約違反だし、この件ばかりは擁護のしようがない。
はっきり言って、解雇されてもおかしくないのだ。
一人ならまだしも、他のメンバーを巻き込んでまですることではない。
ゆきあには仲間を、セレナーデを裏切ってまで手に入れたいものがあったのか。
それはそんなに大事なものだったのか。
私は今すぐにでもゆきあを問い詰めたい気持ちでいっぱいだった。
でも、それは後。
私は私のやり方でセレナーデを守る。
今はまだ難しいかもしれないが、全て終わった暁には根掘り葉掘り聞かせてもらうからな。
時間はお昼の12時前。
一応配信は20時にしておいた。
私は基本的になんの配信をするのかSNS上で明記することはなく、今回も例によって内容は伏せているのだけれど、恐らく大体の人が炎上の件だと思っていることだろう。
配信自体の注目度も高くなること請け合いだ。
私の一言で、セレナーデを取り巻く環境が変動してしまう可能性だってありえる。
これはミスれないぞ……。
私は初配信の時よりも余裕で緊張しながらも何かをしていないと気が済まなかったので、部屋の掃除をしたりエクササイズをしたりして過ごしていた。
その裏で揉め事が起きていることも知らずに。
そして迎える配信直前。
時刻は19時50分。
待機列には既に5000人もの人が集まっていた。
これは皇まりあの平常のおよそ倍だ。
やはり、みんな気になるんだな。
この中には、セレナーデがどうなるのか不安になっている人、単なる興味本意の人、冷やかし目的の人など様々な目的の人が混在しているんだろうな。
配信の主旨がブレないように、最初に誰に向けて言葉を届けるのか決めておこう。
それはもう決まっている。
これまでセレナーデを応援してきてくれたリスナー、セレナーデライバーをこの世に生み出してくれたママやパパ、そして仲良くしてくれたVtuberの方々、コラボしてくれた各方面の関係者の方々。
私はその方々に対して言葉を届けよう。
ワンチャン、アンチも引き込めたらいいのだけれどそこまで気が回らないかもしれない。
火消しとか言われないためにも、ちゃんと真剣に視聴者に向き合い、私が考えるセレナーデの展望をしっかり提言する。
運営がやらかしたら、セレナーデライバーは誰よりも早く配信でそれを取り上げたし、毅然とした態度で向き合ってきた。
なのに、ゆきあがやらかした時はだんまりだなんてリスナーが納得するわけない。
仲間だろうが、いや仲間だからこそ運営に対するよりもより厳しく向き合う。
それがセレナーデ1期生、皇まりあなのだ。
いよいよ配信が始まるという時、ラインの通知音が鳴った。
もう配信も始まるし、見るか迷ったけれどまだ数分残っていたので素早く確認すると、相手は私の担当マネージャーである園原さんだった。
彼女からのメッセージを確認した私は、唖然とした。
『まりあさん...私もうどうしたらいいか...ゆきあさんが事務所を辞めたいと運営に直接連絡したみたいで...』
※捕捉
なぜ園原はゆきあの事情に詳しいの?と思ったかもしれません。実は園原が兼任しているライバーはゆきあで、何かと暴走しがちなゆきあを二人で制御してきました。
ちなみに本人の強い希望で就任から現在までマネージャーは変わっていません。
園原が就任する前にゆきあを担当していたマネージャーは一週間で飛んだそうな…。
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