皇まりあ、動きます(2)
『闇営業の件は流石の事務所も容認できず、ゆきあさんに事実確認をとった後、謝罪配信を決行させました。裏FPSの件は伏せるようにと口添えして。闇営業発覚の直接の原因とも言えますが、言及すると騒動が余計にヒートアップするかもしれないとの上層部の判断です』
『英断だと思います』
『そしてそこで、ゆきあさんは30分に及ぶ謝罪配信を行ったのですが、その配信の中で自分の他にも闇営業に参加したメンバーがいると発言したのです』
私は膝から崩れ落ちるかのような感覚に襲われた。
闇営業してたのはゆきあだけじゃなかった。
『まさか、それって活動停止してるメンバー全員ですか?』
『そうです。ははは』
園原さんが壊れだした。
無理もない。私でさえかなり動揺しているのだ。
私より騒動の荒波に揉まれているであろう彼女の心労はむべなるかなである。
正直私も気持ちの持ちようがわからない。
園原さんの言葉を全て鵜呑みにすると、ゆきあは謝罪にかこつけて他メンバーの告発を行ったということか。
その告発されたという他のメンバーがゆきあとグルだったのかは分からない。
グルだったのかもしれないし、全く別々の場所で闇営業に手を染めたのかもしれない。
どの道、ゆきあの口からその詳細が語られた以上、何かしら関係があると見て間違いないだろう。
責任逃れのためか、道連れにしようとしたのか、それともパニックに陥っていたのか。
理由は彼女にしかわからないけれど、一つだけ言いたいことがある。
お前らまじで何してくれてんの!?
セレナーデという奇跡を、青春を、たかが目先のお金に目をくらませて自ら破滅させるような真似をするなんて。
今まで、メンバーに何をされても、何を言われても本気で怒ることはなかった。
意見が食い違ったら、私から折れてメンバーの意見を尊重するように努力してきた。
それはグループの雰囲気を悪くしない目的もあったけれど、一番はセレナーデが、セレナーデライバーのことが好きだからだ。
あいつら、そんな私の気持ちを少しでも考えたことがあるのか。
言いたいことは色々ある。でもまずは私がすべきことを考えなくてはいけない。
どうする、皇まりあ。登録者数とか、同時接続とかの目で見える情報だけでグループの大黒柱なんて呼ばれてきたけれど、こんなことになるくらいならもっとちゃんとメンバーを見ておくべきだったんだ。
私はふつふつと沸き上がる色んな感情を抑えて、つとめて冷静にメッセージを送った。
『今回の件と無関係のライバーは誰ですか?』
『響さんです』
霧谷響。園原さんから彼女の名前を聞いて、少し安心した。
響まで関わっていたら、かなりショックが大きかったと思うから。
彼女はメンバーの中で唯一の未成年だからね。
『分かりました。ありがとうございます。ちなみになんですけど、私は自由に活動できるんですよね?』
『ええ、もちろんできますけど...もしかして配信するんですか?』
『逆にしない手ってあります?今しなかったらもうだめになっちゃいますよこのグループ』
『確かに...ただ、あまり詳しいことは話さないようにお願いしますね』
『大丈夫ですよ。だって園原さんからは起きたことしか聞いてませんから。本当ならもっと詳しく聞きたいところですけど』
『まりあさん、事務所もセレナーデを存続させるためにどうすればいいか必死に考えている最中です。はっきり言って、私も急に解雇させられるかもしれません。でも皆さんで育ててきたグループがこんな形で終わるのだけは絶対に嫌です。まりあさんも同じ考え方のようで安心しました』
『大丈夫ですよ。なんとかなる!乗り越えましょう!』
『はい!』
そしてメッセージは締め括られた。
時間にして数分だったけれど、どっと疲れた。
でも疲れてる場合じゃない。
セレナーデを立て直すのは事務所の仕事。
それなら私の仕事は、リスナーを安心させることだ。
配信は三日後の予定だったけれど、そんな悠長なこと言っていられないよね。
活動停止……いや、謹慎中のメンバーにメッセージを送っても返ってこないだろうから、今回の件とは無関係の響を引っ張りだそう。
もし無視してきたら、家に乗り込むくらいの気持ちで。
待ってろリスナー。
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