第15話 神聖教団

 頭がおかしい。なぜだ? 夢を見ていたのか?頭の奥で虫が鳴いている。


 「神介。まずコーヒーでも飲めよ」


 「ありがとう」


 神谷が進める熱いコーヒーを一口含んだ。頭の中を覆う不思議な膜が溶けるようだ。自分の記憶を辿る。


 あの忌まわしい事件があった部屋で、目の前に立つ若い男を見ていた。30歳位であろうか。会ったことは無いが、背の高さも、身体つきも、顔も、見たことがある。


 真っ正面から見つめる瞳が、何故か懐かしく、心落ち着く。


 部屋の中で、全てを失った若者を見ていた。背の高さも、身体つきも、顔も、自分にそっくりの若者が呆然と立ち尽くしている。


 呆然と立ち尽くしている自分と、それを見つめる自分。心配そうに瞳をのぞきこむ自分と、全てを失い立ち尽くす自分。


 頭が混乱する。何が何だかわからない。わからないのに、すべてわかっている。


 頭の中が発熱する。様々なシーンが画像となって駆け巡る。混在する記憶、混乱する意識。


 神介の記憶が、神介の意識が、そして神介の身体が、揺れ動く時間を、空間を駆け抜ける。


 「神介。しっかりして!」


 ユキが、神介の後ろから声をかける。

 教団の仲間のみんなの瞳が、神介を見つめている。祈っている。仲間として、友人として。


 正面のドアが開き、大神がゆっくり入ってきた。背が高く180cmはあるだろう。


 白髪を総髪に整え、口髭と顎髭をたくわえている。優しげな表情であるが、眼の光が強い貫禄のある大男である。


 「どうだね。少しは落ち着いたかな?」教団代表の低く渋い声が頭の中に響く。


 「いや代表、まだ混乱しているようです」神谷が大神に答えた。


 『神聖教団』は、東京都内の立川市内に本部を置いている。


 立川駅北口から7分ほどの距離にある大神ビル。5階と6階の2フロアのすべてを使用している『立川スポーツスタジアム』が教団の隠れ家となっている。


 6階の一番奥に200㎡ほどの事務局があり、教団の様々な活動を行っている。


 教団代表の大神の下に、10隊が組織され、各隊は隊長の指揮下に、9人の教団員を抱えている。神谷は一番隊の隊長であり、副代表を兼ねた実力者である。


 100人の教団員の下に、さらに活動協力者が『使徒』として教団を支えている。


 神聖教団の主たる活動は、『神の名のもとに、人に害する存在を殲滅する』ことであり、もちろん社会的に認知されたものではない。


 『神道研究会』が表看板であり、最大の都市銀行を中心とした大神財閥グループの代表、大神宗一郎の長子、宗助が研究会を主宰している。


 大神宗助は、大学教授であるとともに、大神ビルのオーナーであり、教団代表を務めている。


 大神家は、表社会では有数の財閥グループであるが、古く神代の時代から神として、人外の存在から人々を護る役割を担う古き神聖な家柄である。

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