第14話 時の確定
神介そっくりの若者が、やさしく声をかけた。どこかで聞いたことがある懐かしい声だった。ふっと身体中の力が抜ける。
神介の目の前に立つ白い制服の若者。30歳位であろうか。何から何まで神介に似ている。いや、そのものでまるでそのもののようだ。
「また、奴らが大勢で押し寄せて来るかもしれない。時の確定を急ごう」
リーダーらしき男が声をかけた。
「了解です隊長。急ぎましょう」
目の前の若者が神介の両肩に両手を置いた。神介の目をじっと見つめる。
両手の温度が増し、肩と手がまるで溶ける。溶けて1つになるような不思議な感覚が神介を包んでいた。
手が、腕が、肩が溶け込み、二人が同化する感覚。意識が遠のく。薄れる意識の中で子供の頃の楽しい思い出が、美紀が、雪子が、義雄が、走馬灯のように浮かんでは消えていった。
照明の明るさが眩しい。意識を失っていたようだ。長い時間だったし、一瞬でもあった。
「大丈夫か? 神介」
隊長の神谷の穏やかそうな瞳が、心配そうに神介をのぞきこんでいた。
「大丈夫ですよ。神谷さん」
教団の小林が、中村が、佐藤が、仲間達が心配そうに顔をのぞきこんだ。
「みんな、もう大丈夫だから」
身体を起こし、部屋の中を見回す。見慣れた教団の一室である。
頭の奥で、虫が鳴いているような小さな音が、鳴り響いている。少しではあるが、頭が痛い。夢を見ていたのだろうか?
義雄が、雪子が、美紀が・・・・・
悪夢のような、あの出来事は、夢だったのだろうか?頭を強く振る。イヤな想いを振り払うように。
「神介。たぶん意識が、いや、記憶が混在しているんじゃないか?」
神谷が、入れたてのコーヒーを差し出しながら瞳の奥をのぞきこんだ。
獣のような美女。熊、虎、狼に似た獣たち。
義雄が、雪子が、そして美紀も、まるでか弱き獲物のように、貪られた。
まったく歯が立たなかった。地べたを這う蟻のように、踏み潰されるだけの存在だった。悪夢の宴の最後の生け贄が、自分だった。
美女が喉を食い千切る寸前で、宴は終わりを告げた。見知らぬ人影のおかげで。白い制服に身を固めた神谷隊長と、仲間たちに助けられたのだ。
ちょっと待て! 神谷隊長って誰だ??
かって神谷を知っていたのか?何処かで会ったことがあったか?なぜ、名前を知っているのか?
神谷を知らない。会ったこともない。名前も当然知らなかった。しかし神谷を知っている。会ったこともある。名前だって知っている。
周りにいる仲間たちだって、見たことがないのに、見たことがある。名前だって全員知っている。
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