第11話 悪夢の宴

 目が血色に輝き、大きく裂けた口の回りが、赤黒いドロリとした液体で汚れている。


 熊に似た獣が、神介に飛びかかろうと、リビングのカーペットに爪を食い込ませた。


 「お前たち、誰の許しを受けて、入ってきたんだい。勝手なこと、するんじゃないよ!」


 美紀の喉を掴んでいるソファーから、強い怒りの思念が、神介の頭の中に鳴り響いた。


 熊に似た獣も、虎も狼も、発せられた強い思念に、まるで恐怖するようにその場で硬直した。


 四匹の獣のなかには、明らかに上下関係が存在する。1位が美女、2位が熊、3位以降が虎と狼のようだ。


 神介は、怯える美紀のいるソファーのから目を離さない。怒りが身体から立ち上っている。少しずつ距離を詰める。ソファーまでは3m程の距離である。


 「ふふふふ どうした?そんな怖い顔をして。早くこっちにおいで」


 美しい顔に微笑みを浮かべながら、低くかすれた甘い声が頭の中に囁く。


 「いや! 痛い! やめてください」


 白いタンクトップからむき出しになった、美紀の柔らかな左腕にかぶりついた。


 神介は右手に握りしめた包丁の切っ先を、美女の胸元へ向けて、ソファーに飛び込んでいった。


 ガキッ。


 鋭く尖った包丁の切っ先を掴んでいた。左手の掌で受け止めていた。


 「バカだねえ。そんなオモチャじゃ無理だよ」


 痛みに気を失った美紀の左腕から、離した口許が赤く濡れている。


 刃先を掴んだ左の掌を軽く握った。握った掌の中で、鋼が細かく砕けた。


 「グフゥ、愚かな」

 「グッ 、グッ 、グッ・・・・・」


 笑っている。三匹が明らかに笑っている。


 「お前たち人間が、どんな武器を使ってどんな攻撃を加えても、我々を殺せやしない。」


 美女は美紀を離し、ソファーから立ち上がった。灰色の短毛に包まれた身体は、明らかに女性の特徴を保っているが、下半身には異なる性をも備えている。


 女性であって、男性であるもの。

 この美女の顔を持つ獸は、性を超越した存在であるのかもしれない。


 「さあ、そろそろ宴の時間だ。まずは、この綺麗な娘からだね。その後に、元気のいい若者、お前の番だよ」


 否定を許さない、低く甘い思念が、神介の意識を支配する。


 「そこで見ておいで。お前の大好きなこの娘が泣き叫ぶのを」


 美紀の白いタンクトップ、下着に鋭い爪をかけ、一瞬で引き裂いた。


 美紀を助ける、その一念で飛びかかろうとした神介。ソファーの美女の血色の眸が妖しく光った。


 低く掠れた甘い思念が、怒り、混乱し、硬直した神介の頭の中に響く


 「おとなしく見ておいで。忘れられない楽しい宴を」


 動かない。動けない。

 神介の足も、手も、

 髪の毛一本さえも・・・・・


 夢なら今すぐ覚めてほしい。


 いま・・・・・

 悪夢の宴の幕が上がった・・・・・

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