第3話 煌めく刃
人影は何も答えない。ただ笑っている、ように見える。表情からは、何の感情の変化も見受けられない。瞳は相変わらず無限の闇をたたえたままである。
「ふっふっふ。どうした怖いのかい?震えてるのかい?声さえ出ないのかい?まだ覚えてるだろうね?あの夜のことを」
「お前の父を、優しいきれいな母を、お前が大好きだった美しい姉を、私が美味しくいただいたのを」
美しい獣のような影の口元から、大量の涎が滴った。嘲り挑発するような口調が、凍りつくようなあの夜のことを、苦痛とともに思い出させていた。
銀色の髪が僅かに風に揺れた。人影がゆるやかに動き、右腕を右肩の後ろに回した。
黒いセーターの背中から光が走る。セーターのどこに隠されていたのか、右手に無造作に握られた細身の日本刀が月の光に煌いていた。
白鞘の日本刀である。鞘から抜かれ刀身が濡れるように蒼白く輝いている。切っ先は地面に向けて下げたまま、殺気は微塵も感じられない。
「いいものを持ってるね。ちゃんと使えるのかい。切れるかな、あたしを」
人影は笑っているように見える。右腕をだらりと下げたまま。
人でないものの血色の瞳が、さらに妖しく紅色の輝きを増して煌く。獣のような前足の鋭い爪が地面を強く掴みすっと距離を縮めた。
人影が無造作に下ろしていた、蒼白く光る日本刀の切っ先が小さく震えた。
人でないものの美しい口が、耳まで大きく裂け、鋭い犬歯が月明かりにぎらりと光る。
「ふふふ、無理だよ、わかっているだろ。刀なんかじゃ切れないんだよ。傷さえつけられないよ」
まるで、憐れむように笑っていた。相手と縮まることはあり得ない、絶対的な力の差を確信して・・・・・・
「やってみるかい?」
まるで肉食獣が、捕らえた弱い獲物をいたぶるかのように。低く太くそして甘い声が闇に溶けた。
蒼い月が墨色の雲に隠れ、二つの影を包む空間を闇が満たした。
「承知・・・・・」
人影が感情を殺し氷のように囁く。キンと音がしそうな刃のような思いが2つ、闇を切り裂き走った。
4肢の尖った爪先がぐっと地に食い込み、地を蹴り新たな影が動く。人影との空間を跳躍した。音もなく気配さえ感じさせることなく。
大きく裂けた口は、人影の白い喉元を噛み裂くためカッと開かれた。
雲間からのぞいた蒼い月明かりに、人影の細みの日本刀が妖しく煌めいた・・・・・
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