第2話 出逢う再び

 今夜はなぜか妖しげな暗い道を人影は音もなく歩いている。蒼白く細い月が墨色の雲間に隠れ、漆黒の夜空に紅い星が流れた。


 人影の50mほど先であろうか、夜空から落下した紅い星が闇を妖しく揺らし、新たなひとつの影が生まれた。


 新たな影は大きな犬のように見える、しかし犬ではない。影は獣のように手足を地面につき、低く伏せている。


 人影が新たな影を確認したか否かは不明であるが、まるで何も起こらなかったかのように、変わらぬスピードで、新たな影に近づいていく。


 まるで久しぶりに親しい友人に出会ったように、足取りはむしろ軽くなったように見える。 


 闇が生んだもうひとつの影、新たな影は、じっと動かず闇に溶け込んだままである。


 濃厚な闇の中でほんの僅かな時が流れ、二つの影が5mほどの距離まで近づいたとき、人影が静かに停止した。


 墨色の雲間から蒼い月がのぞき、人影を青く照らした。人影は笑っている。いや笑っているように見える 親しい友に突然出会い、まるでその再会を懐かしむかのように。


 新たな影を映した瞳からは、何の感情も読み取れはしない。ただ深く暗い無限の闇を映したままである。


 向かい合った二つの影は闇に溶け、動かぬ時の中で凍りついていた。


 新たな影が僅かに距離を詰め、月明りがその影を照らした。まるで彫像のように美しい女性の顔。蒼い月明りを浴びて氷のように冷たく微笑んでいる。


 漆黒の長い髪が地面に届き、前足の上にかかっている。服を纏わぬ身体は、全身短い灰色の体毛に覆われている。

 

 女性特有のしなやかさを保っているものの、獣のように手足を地に着けて伏せた体長は2mほどであり短い尾さえある。


 美しい、しかし美しいが確かに人間ではない。

 しかし動物でもない。この世の全ての生物とは異なり、その存在そのものが禍々しい。


 どんな男性もその微笑みにたちまち心囚われ、目を合わせた者は命さえも捧げるほどの妖しい魔力を漂わせている。


 瞳は大きく美しいが濡れた血色に輝き、紅の唇の端に鋭い犬歯が光っている。


 人影と新たな影とが、短い距離で向き合ったまま時間が止まった。僅かかもしれないが、永遠かもしれない時が流れた。


 「ひさしぶりだね・・・・・」


 太くて低い声である。しかし全ての男性を虜にする甘く濡れた囁きが闇に生まれ、声は闇に溶けた。


 人影は表情を変えず何も語らない。変わらずただ微笑むだけである。


 新たな影が甘く妖しく囁く。


 「あの時以来・・・・・相変わらず美しい男だね。とても美味しかったよ。皮も、肉も、骨もね、声がとっても素敵だった。泣き叫ぶ声がね。温かい血もたまらなかったよ」

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