第9話 強い
なるほど。と、燐歌は思った。
流石はあの方が魂を休ませる人間だけあって強い。
放課後。
飼育小屋の前で待っていた琳は少し遅れて現れた翔太の後について行った。
少し高台にある小学校の坂を下って、平らな道路を進んで住宅街を通り過ぎ、見たことはあるが通ったことはない長くて急な坂を上って、上って、十分。
和風の家がずらりと並ぶ一番端であり道路の最終地点に、無差別格闘技と書かれた道場の看板があったのであった。
ここだ。
今まで無言だった翔太が口を開いて、それこそ千年以上は生きてきたようなとても大きい丸太の門を横に引くと、入っていいぞと言ったので、琳は丸太の門の手前で深くお辞儀をして、門を潜ったのであった。
そして今。
琳は燐歌と一緒に道場のギャラリー(稽古場より高いところにある立見席)で、稽古している翔太たちを見下ろしていたのであった。
「みんな。すごいね」
小声だったのは、自分にしか見えない燐歌に話しかけているためでもあったが、それだけではなかった。
圧倒されたのだ。みんな全身に防具を身に着けていて顔が見えないので年齢が判断できなかったが、身長の高い人も低い人もみんながみんな、魂を燃やしているような熱気がほとばしっていた。
「ええ」
氷のように冷たく静寂に沈んでいた忍びの修行場とは正反対だったけれど、強くなりたいという意志は同じだと、燐歌は感じた。
「琳を道場に誘ったということは、琳に自分の雄姿を見せたかったか、先生やここのお友達に琳を紹介したかったか、でしょうか?」
「うーん。そうだと、いいんだけど。俺とおまえは生きる世界が違うんだ。だから友達になるのは諦めろってことかも、しれない。なんてね」
「弱気になっちゃっいましたか?」
「うん。ちょっと。私はみんなみたいに。師走さんみたいにすごく頑張っていることってないから」
「あら。私のことですごく頑張ってくれているのに、そんな悲しいことを言わないでほしいなあ」
「あ。ごめんなさい」
「ううん。いいの。うん。しょんぼりすることもあるわよ」
「うん。うん、もうだいじょうぶ。うん。ありがとう。燐歌さん。よし」
琳は目元に力を入れると、集中して翔太を見つめた。
燐歌は本当に素直でかわいいなあと思いながらも、翔太を、翔太の中にいるあの方を見つめるのであった。
(2023.5.25)
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