第6話 ユーリスの暗躍

アルファードと合流して1週間。

勝負はこちら側に有利に進んでいる。


アルファードの手腕と、合流したシリウスやヌーの動きであっという間に大臣達を掌握した。

今では皇帝側についていた、宰相と国務大臣を残すのみで、軍を司る最高司令官でさえアルファードにつくと決めたようだ。


(こうなれば時間の問題だな)


一般市民は巻き込みたくないという、アルファードの強い要望で、実際に戦闘になったとはごく僅か。

そんな市民達もアルファードを好意的に見ており、実質勝利宣言をしても良いところまできている。


だがアルファードは、皇帝を膝まつかせる時までしないと決めているようだ。


(そうでなければ国が割れる可能性がある……)


そもそも小国が乱立していたかの地を、1つに纏め上げたのはアルファードの曽祖父。

西側で抵抗が激しかったようだが、あっという間に鎮圧しておりその手腕からも、市民にも人気がある。


(今回も西側が鬼門だな)


ヌー達に命じて、主にルカンについていた影達が西側を探っている。

行方不明となった皇帝達とルカン達の足取りを追うためだ。


あっさりと中央城を開城させたのもアルファードだが、それを見越して先に逃したルカンの勘の良さにも、手強い相手だと実感させられる。


(さあ次はどう打ってくる、ルカン)


こういっては不謹慎だが、強い相手とやり合うのはやりがいがある。

恐らくアルファードもそう感じているはずだ。


「ユーリス、見つけたみたい」

「間違いないか」

「うん、ルカンを見たって言ってる」

ヌーの報告に、俺はアルファードの元へ急ぐ。


「どうする、アルファード」

「一気に攻め込む以外ないよね」


アルファードは軍の3分の1を連れて、西の元王城へ向かった。

勿論、俺達も同行する。


3日後、ついた場所は寂れた古城だった。

複雑な造りの城だったが、あっという間に制圧した。


宰相や国務大臣もこちらの手の元で捕縛している。

ルカン達の姿が見えないのは気がかりだったが、恐らく負けを確信し、ここからいち早く逃げたのだろうと思う。


目の前には60台後半だろうか。

皺くちゃな顔に鶏がらのように細身な体。

なのにやたらと豪華な衣装を身につけていた皇帝がいた。


「父上」

そう言ってアルファードは、毒の入った器と、短剣を皇帝の前に置いた。


「さすがに実の血のつながった父を斬るのは嫌ですからね。自ら命を絶って下さい」

「貴様……」

「先に始めたのは父上ですよ?どちらかが命が無くなるまで、やり合うつもりだったでしょう?」


そう言いながら、アルファードは皇帝の前に座った。

その態度は寒々としていて、見ている者も震憾させる。


その瞳には肉親にかける情も、なにも映さない。


「大人しく退位の時を待てば良かったのですよ。甘言に惑わされることなく」

「何を言う。先に私に対して不敬な態度をとったのは、貴様であろうが」


皇帝は悔しい感情が身体から滲みでており、見ていて気持ちの良い姿でない。

これが一国の皇帝であったとは思えないほど、小さく見えた。


「――俺は尊敬出来ない人に対して、一時でも忠誠を誓えるほど、器用ではないのでね」

まるで馬鹿にしたような態度に、皇帝は激昂した。


「お前という奴は!」

「父上、どうしますか?貴方がここで命を断つなら、大好きな妃達と子供達の命は保証しますよ?但し、継承権うんぬんは破棄させますがね。この先火種を抱えるつもりないので」


淡々と告げるアルファードは、じろりと皇帝を見据えた。


「――父上は色々とやりすぎた。大臣達や市民から、どう思われていたと思います?他国から見ても孤立寸前だ。不満があったのでしょうね。あっという間に俺の味方になってくれましたから」


アルファードはそう言うと、ぐっと毒の入った容器を皇帝に突き出した。


「自らの私利私欲まみれだった貴方についていくまともな人はいなかったということです。この国は俺が守りますから。安心して旅立って下さい」


皇帝は震える手で、毒杯を受け取る。


「――せめて子供達には、食べる事に困らない生活を」

「小さい子供達に罪はないですからね。父上でもまともな事を言うのですね。少し安心しましたよ」


アルファードの冷たい視線に、皇帝は1つ溜息をついてから毒杯を一気に煽った。


「うっ!」

口から流れるのは、血。

苦しみながら、皇帝はその場に倒れた。


「――楽にしてやれ」

アルファードはそばで控える騎士達に命じると背中を向けた。


こうして、アルファードは皇帝となり。

フーリー帝国は、新たな時代を迎える事になる――。


******


「この後はどうするつもりだ?」

アルファード達と共に中央城に戻り、彼の執務室。


我々が元皇帝を制圧している間に、執務室は綺麗になっており皇太子の執務室から持ち運んだ机や調度品が並んでいた。


血なまぐさい交代劇の裏で、淡々と作業が行われていたようだ。

宰相や国務大臣は、国家反逆罪で斬首刑が決まっている。

あっという間に議会まで掌握したアルファードの手腕は、我々が手伝ったとしても流石としか言いようがない。


「父上の妃達は全員、後宮から出てもらうつもりだ。小さい子供達は母親と共に出てもらう――ここまでスムーズに事が運んだのは、ユーリスのお陰だ。助かったよ。礼を言う」

アルファードはそう言うと久しぶりの笑顔を見せたが、少し翳りが見えた。


俺はアルファードの肩をポンと叩くと、向かいに座った。

アルファードは用意されたお茶を一口飲み、苦笑いを浮かべた。


「計画していた事とはいえ、実の父殺しだ。俺の事を恐る者もいるだろう」

「仕方ない事だろうがな――今後のお前次第、だろ?」


俺がそう言うと、アルファードの表情は少し明るくなった。

「父上のように無闇に領土を広げる気はない。軍は解散するつもりだ――名前を変えるといったところだが」

「それが妥当だろう」

「その上で、父の喪が明けたら、和平の意味をこめて今いる13人の姉弟達には他国に嫁いでもらうつもりだ。本人達の意志は尊重するが、な」


王族、もしくはそれに準ずるところへ嫁がせる。

手っ取り早く、こちらの国の意思を伝える為だろう。


「お前のところは――ハリス殿下もユーリスも側妃を娶るつもりはないのだろう?」

「ないな」

「即答かよ」


アルファードは、らしい笑い声を上げると、真摯な顔をした。


「そうなったら、お前の側近達だな」

「――兄上ではなく、か?」

「ああ、お前が良い」


そう言うアルファードの目は真剣で。

俺の知らない何かを知っていそうだ。


「――何を隠してる」

「いずれお前も知るだろうよ。さあ、早く愛しのセラフィーナ嬢の元へ帰れ。また連絡するかさ」


何となく後味は悪いが、セラの元に早く帰りたいというのも事実だ。


「ああ、じゃあな」

俺はそう答えると、執務室を出た。

だから知らない。

この後のアルファードの呟きを。


「――俺の勘は当たるんだよ、ユーリス」

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