第4部 王都編

プロローグ

僕より4つ下の異母弟。

僕にとって、脅威であり、羨望の対象だった。


西の離宮の庭に佇む彼の母親は、まるで女神のような美しさと慈愛に満ちた表情で。

僕の憧れだった。


(母上があんな人なら――)


妬んでも恨んでも、僕の母上は煌びやかな衣装を纏い、この国に君臨する王妃だ。

常に権力と共にある、母。


ただの側妃であるアーチェ様より、待遇も何もかも違うのに。

僕の方が恵まれているのに。

何故、憧れてやまないのか。


(あの優しい目で見つめている、弟に会ってみたい)


思い切って侍従達を振り切り、異母弟とその母親の前に姿を現した。

母上に知られたら、どんなことになるか、僕はその時は考えてなかったから。


「あら――ハリス王子」

アーチェ様は優しく微笑み、僕に向かって頭を下げた。

まだ幼いユーリスは、母親の胸にとても大事そうに抱かれている。


「ぼ、ぼくも、弟を見ても?」

「ええ、勿論、いいですよ」


(か、かわいい……)


触りたくなるような柔らかな頬。

すやすやと眠るその姿は、とても可愛らしい。


「抱いて、みられますか?」

アーチェ様は屈託なく微笑むと、赤ちゃんのユーリスを僕に抱かせた。


(あったかい……)


身体だけではなく、心まで温かくなる感覚。

産まれて初めて知った。


そんな幸せなひとときは、一瞬にして壊される。


「――何をしている」

厳しい声が、僕の背中に降り注ぐ。


「まあ、国王様」

「ち、父上」


僕にとって、父上は肉親というより畏怖の対象。

無表情で、常に何を考えているかわからないような人。


母上同様に、優しく撫でられたことなんてない。


「――ハリス、王宮に帰りなさい」

「はい、父上」


差し出された手に、父上に赤ちゃんを返すと、ほっと安堵したような溜息が聞こえた。


(あんな可愛い弟に、なにかするつもりじゃないのに……)


父上にそんな風に見られていることか、少なからずショックだった。


踵を返し、来た道を進んでいく。

そして振り返った時、見てしまった。


アーチェ様と弟に優しく微笑みかける父上を。


(僕や母上を一度でも、あんな風に見てくれたことがあっただろうか?)


心が、ズキズキ痛む。

でも頭はどんどん冷えていく。


(駄目だ。僕は良い子でいなければ……)


あんな光景見ただと、母上には言えない。

それでなくても、アーチェを目の敵にしているのだから。




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