幕間2 ジュリアスの料理

「ジャス!久しぶりにジャスの料理食べたーい!」

大声で叫ぶチェスを見て、私は溜息をつく。


(あんな物、料理でも何でもないでしょうに……)


生きていく為に必要に駆られて、王都の西の離宮、隠れ家では料理を習得するに至った。


先王が亡くなられ、ユーリスや我々は王宮に戻ることになったわけだが――。

西の離宮での生活は、死と隣り合わせだった。

食事をするにも、王宮から回されるものは毒入り。


警備兵も少なく、刺客や暗殺者が頻繁にやってくる。

ユーリス自身が対処した事だって、沢山ある。


(そこいらの騎士や暗殺者よりも、強くなったのはそういった影響でしょうね……)


我々全員、そうしなければ生きていけなかったから。

まだ10歳やそこいらの男の子達が暮らしていくには、過酷な状況だった。


15歳になり、1番年上な私から王宮学園に通うことになる。

学ぶべき勉強は、一通り履修は終えていたから、別のことに時間を割く事にした。


そう、男は履修科目にない料理だ。

チェスの父上に少し無理を言って、ねじ込んでもらった。

女生徒からは好奇な目で見られていたが、シリウスやアランからは好意的に見られていたと思う。


「そういえば、料理履修してたな」

シリウスは思い出したかのように、頭を掻いている。


「お料理までこなすなんて、ジュリアス様は器用ですわね」

セラフィーナ様なんて、目をキラキラさせて私を見ている。


「セラ、いくらジャスでも、そんな期待を込めた目で見るのやめて?」

ユーリスの意味の分からない嫉妬深さに、また溜息をついた。


「はあ、分かりました。何を食べたいんです?」

「オムライス!卵たっぷりのやつ!」


チェスは待ってました!と言わんばかりに、前のめりになって叫んだ。


「分かりました。厨房で確認しましょう」

「わ、わたくしも手伝います!」


私の後ろからローサが追いかけてきて、2人で連れ立って辺境伯屋敷の主屋の厨房へ向かう。


「――ジュリアスは、こちらで色々と努力されたのですね……」

ローサの言葉に、私は目を見開いた。


(そう、私は元々そんな器用ではない……)


どちらかといえば、不器用な部類で努力して努力して、そうみせているだけだ。


(ローサとは、幼い頃――私がお祖父様の元で暮らしていた時からの知り合いだったから、その辺りの事をよく覚えているのでしょう)


元々はお祖父様からの縁だ。

先王との縁もそう。

お祖父様と先王は仲がよく、お祖父様が病に臥しても手紙のやりとりをしていたようだ。

ただ、王妃に睨まれているユーリスにつく兄弟はいなかった。

父も母も、お祖父様に可愛がられていた俺を邪険に思っていたから、俺が選ばれて厄介払いができたと思っていたと思う。


ローサとだって、お祖父様がこの話をもってきて婚約した。

だけど、ユーリスについた俺をローサの家族は見限った。


(それどころか、体の弱いローサを虐めて使用人同然の暮らしをさせるなど……)


許しきれない思いが交錯する。


「ジュリアス?眉間に皺よってる」

「ああ、すまない」


その事を考えると、どうやら眉間に皺が寄るようで、よくローサに注意されている。

彼女は1つ年下だけど、しっかり者だ。


だから彼女が、セラフィーナ様の侍女になりたいと言った事も頷ける。

だけど侍女になれば、生活リズムはセラフィーナ様中心になる。


(少しぐらい2人の時間があっても良いですよね)


いずれはセラフィーナ様につくことなるだろう。

だけど、今だけは……。


(私の事だけを考えて欲しい)


会えなかった分を埋めるように。


「ジャス!出来た!?」

チェスの明るい声に、現実に引き戻される。


「今、厨房に着いたところですよ……」

「早くアーサーに食べて欲しいんだよ。だって、アーサーはずっとこっちにいて、ジャスの料理食べた事ないでしょう?」

チェスの隣に立つアーサーは困惑気味に頷いている。


「――確かにそうですね」

チェスの底抜けに優しくて、明るい性格に私達は何度も救われている。


(私にないものを持っているから……)


キラキラ光る何か。

だから憧れてしまう。


「じゃあ作ってしまいましょうか。チェス、せかすのですからしっかり手伝って下さいね」

「はーい」

私の言葉に、チェスは不満気な返事を返すけど。


こんな日常が続けば良い――。

私はそう思ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る