第11話 ユーリスの尾行

翌日は曇りがちで、今までの晴天が嘘のような天候だった。


セラ達を乗せた馬車は、馬に跨る俺の前を走っている。

馬車を操舵するのは信頼する者に任せた。


本当に女性陣だけで行くらしく、カイルもついていかなかったようだ。


俺とアルフォードは、ヌーの魔法で目立つ髪色と瞳を染め、伊達メガネまで用意されていた。

やりすぎると目立つ為、顔は変えてない。


アルフォードは長い紫紺の髪を短くし(本当に切った)、パッと見ても印象が、ガラリと変わっている。


「一回、金髪になってみたかったんだよねー」

と、ヌーの魔法にノリノリだった。


ラミア商会の前まで来ると、馬車を降り、4人は決まった部屋に入っていく。

事前にラミアへ、内密にこちらに来ることを伝えており、彼女達の隣のこじんまりとした部屋に通された。


どうやら新商品のケーキの試作を食べてもらいたかったらしく、俺たちにも同じ物が出てきた。


「ふうー、これは役得ですねぇ」

ビオレスは、アルフォードの隣でにこにこと笑いながら平らげていく。


「俺ものいいぞ」

「――俺のも」


あまりにも美味しそうに食べるため、アルフォードと俺はケーキをビオレスに譲った。


「いいのですか!」

感極まった声で叫ぶから、慌ててアルフォードはビオレスの口を手で塞いだ。


「馬鹿。大声出すな」

「ごめんなさい……」


小さい声で謝ると、ビオレスはキラキラした目をしてケーキを食べていく。


「あ、そうだった。いつ、俺の名前読んでくれる?アルフォードは長いから、アルでいいよ」

「そんな女に向かっていう台詞、やめてくれ」


心底嫌そうな顔をすると、アルフォードは心外だと言わんばかりの不服そうな顔をした。


「似た者同士じゃん、俺たち」

「――そこは否定しない」


つい先日までは知らない者同士だったはずなのに、阿吽の呼吸で色んなことが処理できているのは、自分と同等の物を持っていると言わざるを得ない。


「――だから、ユーリスに協力してるし、して欲しいんだよ」

急に真摯な顔つきをしたアルフォードは、こほんと咳払いをした。


「――アルフォード様はユーリス殿下と違って、友達はシリウス様くらいですからねぇ」

ビオレスは空になった皿を名残惜しそうに離す。


「だからビオレス。お前は俺の親か」

「お目付け役ですからね――だからユーリス殿下、友達になってやって下さい」


ビオレスは俺に向かって頭を下げた。


「はあ、別にお願いされてなるもんでもないだろう」

「確かに――残念でしたね、アルフォード様」

「まだ、ユーリスは答えてないだろうが」


(まったく、この2人は――)


隣の部屋からは女性陣の笑い声や、楽しそうな声が聞こえてくる。

楽しそうな声に、俺まで笑みが溢れた。


「ヌー」

俺が名を呼ぶと、ヌーはすっと姿を現した。

そして、俺に頭を下げる。


「怪しい者は?」

「商会周りに10数人はいる。だけど、今のところ、大丈夫」

「あちらが動くまで、しっかり見張ってろ」

「うん、分かった」


そう言うと、すっと姿を消した。


(さあ、どう出るつもりだ?ルカン)


隣の部屋が静まりかえったと思ったら、ガチャと扉が開く音がして、数人の足音が遠ざかっていく。


(予定より、早い気がするな)


女性陣の人数より足音のほうが多い気がする。


「セラ!?」


嫌な予感がする。

すると、ヌーがいきなり姿を現した。


「――殿下、大変。セラ様が攫われたって、ミーから」

「すぐに追いかける」

「待て、ユーリス」


アルフォードは俺で制した。


「様子をみよう。何が目的でセラフィーナ嬢が攫われたか見極めた方が良い」

「何を言って……」

「俺達も尾行して、危害を加えそうなら助ければいい」


少しぐらい出遅れても、問題ないだろう?


アルフォードはそう言うと、立ち上がった。


「ほら、いくぞ」


アルフォードを先頭に部屋から出ると、ミーが申し訳なさそうに立っていた。


「ごめん、殿下」

「いや、大丈夫だ」


謝るミーの身体は震えている。


(何か薬を盛られたか?)


「ごめんなさい、アルフォード様……」

ビオレスは身体をがくっとさせると、椅子から転がり落ちた。


「おや、ケーキに睡眠薬でも含まれてたのかもな」

アルフォードは冷静に分析すると、ビオレスの身体を床に寝かせた。


「コイツは、床で充分だから。リリー嬢とクレア嬢は、ちゃんと寝かせてあげてね」

アルフォードはミーにそう指示を出すと、俺を見た。


「ビオレスの甘党に助けられたな。いくぞ、ユーリス」

「ああ」


(アルフォードが側にいて良かった。俺1人なら冷静に対処できなかったかもしれない)


商会から外に出ると、ヌーが俺とアルフォードの馬を用意していた。


「部下達が、尾けてる」

「分かった」


3人で馬にそれぞれ跨ると、ヌーの案内の元、馬を走らせた。


******


ヌーの先導でやってきたのは、街外れの小さな一軒の宿屋。


「ここの、2階」

「会話聞こえるところ、ある?」

アルフォードは、ヌーに冷静な声で問うと、ヌーは屋根裏部屋に案内した。


「多分、ここの真下」

指示された場所に着くと、セラの呻き声が聞こえた。


(どうやら起きたみたいだな……)


ほっと安堵する気持ちと、すぐに助けに行きたい気持ちと。


だが、アルフォードは首を横に振った。


(分かってる。ここで焦っても仕方ない……)


俺達は動きがあるまで、待機することにした――。

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