第1話 つかの間平和

辺境の地に来て、半年が過ぎた。

その間は、あっという間だったと思うということは、かなり濃密な時を過ごしていたからだと思う。


この屋敷では、元々いた使用人達はほとんどいなくなり、王都から連れてきた使用人達で回してはいたけど、周りきらないところも多々あった。


ユーリス殿下の采配で、味方だと判別された家の者達で屋敷での使用人を募集し、今は兵士たちも含め、滞りなく回るようになった。


私も率先して動き、雇用、福利厚生などなど、色々な案を出した。

屋敷もちゃんと回り始めた頃。


もう一つ。

ラミア商会のお仕事をお手伝いというか、サポートすることにした。

ラミアさんに熱心に口説かれたというのもあるけど、アドバイザーとして、やってみようと思ったからだ。

シルクという素材と、ラミアさんのデザインを世の中に広げ、この王都から遠い街でも産業、商業でもバックアップしようと考えたからだ。


先日のパーティーで、ラミア商会の評判はうなぎのぼり。

王都に戻った、騎士団の奥様方から絶大な人気を誇っている。


(私に何が出来るかなんてわからないけど、よい方向へ進んでいけば……)


そんな気持ちで始めたことだったけど、周りの評価は気にしてなかったけど、好感触だとユーリ様から聞いてほっと安堵している。


今日も、ラミア商会での会合。

 

私が出かける時、ユーリ様は絶対に一緒に来てくれる。


(お仕事忙しいだろうに……)


ユーリ様は、砦や国境警備、北の様子、この辺境の地での領地経営など、仕事内容は多岐に渡っていて、私はほんの一部をしているに過ぎない。


こうやって一緒に来てくれるのは、単純に嬉しい。

でも忙しい中で、私に付き合わせているのが、心苦しい。


私自身、忙しく動くことが結構好きなタイプだったようで、こうやって色々と物が作り上がっていくことに、とても嬉しく感じている。


(だから余計に言いづらいのよね……)


こっそり出て行くことは、ほぼ不可能で。

ミーさんやヌーさんの目を誤魔化せるとは思ってない。


それに私と出かけるのは息抜きになると、ユーリ様がおっしゃるので、その言葉に甘えるような形になっている。


(私も、もっとユーリ様を手助けできるようになりたい)


とはいえ、今の私には領地経営など実質的なことはしていなかった。


(うちは叔父様に任せているから……)


遊びに行くことはあっても、叔父様が何をしているかまでは知らないのだ。

当主であるお父様とは、そういった話はしていても私やお母様は参加したことがない。


(私に何が出来るかはわからないけど……)


それでも、少しずつでも。

欲張りでも、やっていきたいと思っている。


(公私共に支えていきたいなんて、我儘で欲張りだとはわかっているけど……)


馬車の中で1人考えに浸っていると、いつの間にかラミア商会の前まで来ていた。


「俺のお姫様は、考え事に没頭してたね」

隣に座るユーリ様は、笑顔で私を見つめている。


「……ずっと、見ていらっしゃったのですか?」

「ああ。悩むセラも可愛いなって思って見てた」

「……声をかけて下さればいいのに……」


(ユーリ様との貴重な時間を考え事で過ごすなんて……)


ユーリ様は、ここのところずっと忙しくて、中々屋敷の中でもすれ違い生活を送っていた。


(朝も早くから出かけられて……お身体は大丈夫なのかしら)


目の前でニコニコと笑っているユーリ様は、元気そうに見える。


(時間を使うのが上手い方だから、適当に息抜きされているだろうけど)


会う時間は少ないとはいえ、屋敷でも何処でも、私に対してさらに甘くなったと思う。

あの初恋宣言から、吹っ切れたような気がしてる。


(とはいえ、私は覚えてないのだけど……)


ユーリ様だけ覚えてズルいとは思ってる。


(ユーリ様は、私の火傷のことご存知なのかしら……?)


私がユーリ様と出会った頃、私はレミアムの魔法の暴走で火傷を負ってる。


(そんなに目立つようにはならなかったけど……)


背中の開いたドレスは着れない。

いつかは言わなければと思っているけど、中々そう言ったことを打ち明ける機会はきていない。


(結婚するまでは、寝るのも別の部屋と仰るから……)


夫婦の寝室は、もっぱら寝る前の少しの時間、お話をする場になっている。

それもここのところ、行ってないけど……。

 

(結婚するまでには、言わなきゃいけないわ)


ミーさんから聞いているかもしれないけど――。

こう言ったことは、自分でちゃんと言いたい。


「くすくす、そんなにいじけないで。さあ、ラミアが待ってるだろう。行こうか」

ユーリ様はそう言って、まず自分が馬車を降り、私を支えるように手を取った。


「セラ!」

「えっ!?リリー!!」


ラミア商会の前。

まさか、リリーがいるなんて。


「えへへ。来ちゃった」

「カイル様はどうしたの?」

「急に王都に呼ばれたのよ――なんだか急な仕事みたい」


ちらっとユーリ様を見ると、ニコニコと笑顔を浮かべている。


(ユーリ様はリリーが来ること、ご存知だったのね……)


恐らく、カイル様が王都に向かったことも。


(リリーの手紙では、カイル様の領地で共に領地経営の勉強をしていると書いてあったけど)


王都と北の辺境の中間あたりに、カイル様の領地はあり、そこで結婚前に領地経営の勉強をしていると書いてあった。


(もうすぐ、結婚式だものね……)


カイル様とリリーの結婚式は、王都の教会で式を挙げ、パーティーを王都と領地でやる予定をしているらしい。


(領地のパーティーに行くつもりだったけど――)


まさかリリーに会えるなんて思ってもみなかった。


「お義母様から、ラミア商会のドレスを買って来てって頼まれてるのよ」

「えっ!そうなの?」

「今、ちょっとしたブームなのよ?」


そう言われると、私も嬉しい。


(頑張った事を、評価されるのは嬉しいわ)


王都の貴族向けドレスは、もっぱら私の意見が反映されている。


「ふふ、さあ、行きましょう!」


リリーはキラキラとした目をして、商会の中へと入っていく。


「俺たちも行こうか」

「はい、ユーリ様」


ユーリ様に手を繋がれ、共に中へ入って行ったのだった。

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