エピローグ

「――これは……」


俺は報告書に書かれていた事実に驚愕した。


(父上や、実の母親である王妃様でさえも、隠し通してきたということか――)


薄暗い部屋の中、黒装束に身を包む男は、俺の前で頭を垂れている。

我がグッテイス公爵家に仕える影の存在。

妹の愚行により何人か失ってしまったが、それでも王家の影よりも優秀で、しかも手段を選ばない。


国王でさえ、この家を恐れている理由の1つでもある。

絶対的存在であった父上は引退したが、この家の影響力は何一つ衰えてはいない。


国王は、王妃を恐れていたのではない。

この公爵家を恐れているのだ。


影の王家と呼ばれる我が家を、父は守る道を選んだことは賢明な判断だ。


この事実に気づいたのは、ほんの偶然。

ハリス殿下の周囲を探らせていて、出てきた事実。


その優秀な影達が、万が一でも間違った情報を、現在の主人である俺に寄越すはずはない。


つまり、これは紛れもない事実だということだ。


「――本人と、先王、国王、そして当時の宮廷医師と当時の王子付き侍従しか知らなかったようです」


こんな重大な話、知る人数が増えれば増えるほどリスクが伴う。


「先王はかなり優秀な人だったようだな……」

うちの祖父が惚れ込み、ついていこうと決めた先王。

現在も表舞台で活躍している人物達を育て上げ、そして――。


(ユーリス殿下さえも、唯一無二の存在まで押し上げた)


本人の才覚もなければ、これほど恐れる存在にはならなかっただろうと思う。


だが――。


(我が家を蔑める存在は、あってはならない)


彼は生きていることが、すでに脅威だ。

我が家に仕えていた、影の中で一番優秀だと言われていたギアス家の者達を引き抜き、自分の味方につけてしまった。


(父が、認めるはずだな)


こうやって対峙する立場でなければ。

祖父のように惚れ込み、共にあろうと思っていたに違いない。


厄介な存在。

だけど、自分の中にある高揚感も、また事実。


(敵は強いほど、面白いということか)


「――ユーリス殿下を、消せ」

「しかし――」

「お前達は結果さえ、残せばそれで良い」


それだけ言うと、部屋から出ていく。


「面白くなってきたな……」

俺は今後起こりうる事態に、ほくそ笑むのだった。

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