第10話 お兄様からの提案
部屋を出た私達は、私と殿下の私室の間の部屋――どうやら夫婦の部屋らしい――に、入った。
部屋にはキングサイズのベットと、ソファ、本棚などもあり、とてもシンプルで、派手な装飾品は見当たらない。
(殿下は華美なものは、お好みではないかもしれないわ)
アーサー様はそのままサロンに残り、家族会議が開かれているようだ。
ソファに身を沈めると、思いの外自分が緊張していたのが分かる。
「セラ、大丈夫?」
「……はい」
殿下は優しく、私の手を撫でながら隣に座った。
「差し当たっての問題は、パーティー用のドレスだな」
切り裂かれたドレスの中には、1週間後のパーティーで着る予定だったものも含まれる。
「あー、それなら何とかなるかも」
お兄様はそう言うと、頭を掻いている。
「と、いうと?」
「実は――結婚祝いで、あちらの国のデザイナーに何着か頼んでるのだよね。急いで取りに行けば間に合うかも」
ここから北のイスリン帝国への方が、王都よりも近い。
実家から取り寄せるよりも早く手に入るだろう。
「――よし、それで行こう。ヌー」
「わかった。取りに行かせる」
ヌーさんはいつの間にか部屋にいたようで、返事をすると部屋を出て行った。
「そういえば、ヌーさんとミーさんて……」
「ああ、あの2人は元々、俺を殺しに来た暗殺者だ」
「えっ?!」
私の問いに、殿下は予想外の答えをくれた。
(でもそう言われれば納得だわ)
「早いやねぇ、あれからもう5年以上も経ってるなんて」
チェスター様は、そう言いながらケラケラと笑っている。
「ユーリスの部屋の惨劇たるや、凄まじかったですから」
ジュリアス様もクレアの入れてくれた紅茶を啜りながら、さも当たり前の事のように言う。
(殿下が日常的に命を狙われてたのは、本当のことなのね)
「それなら、やはり……」
私の隣に立つお兄様は、独り言のようにぶつぶつと何か呟いている。
「今は、俺に忠誠を誓ってるから、安心して?」
「そうそう。彼らのお陰で、ユーリスの元は辿り着く暗殺者は皆無になったし」
(確かに、ミーさんもとても器用に色んなことをこなしているし、殿下も信頼されているようだから、不安はないわ)
そして、その事実を私に教えてくれていることに、何と言うか身内に入れてもらえたことが、単純に嬉しい。
「それならさ、殿下。ジュリアスにも相談してたけど、僕に何人でもいいからつけてくれない?」
お兄様は、そう言うとウィンクしていた。
「それは、此方も考えていた」
殿下はそう言うと、紅茶を一口飲む。
「――異動願いは出すけど、恐らく代わりの者がすぐには見つからないだろうし。今は表面的な平和だって知ってるでしょう?」
「――そうだな」
「自分の立場の危うさは、理解してるし」
イスリン帝国との確執は、今に始まったことではなく、お互いの国に大使館は置いてはいるけど――今の皇帝は、とても野心家だと聞く。
それに妹が第二王子とはいえ、王子妃になるのだ。
お兄様の立場は、益々危うくなる。
「あー、でも皇太子はいい奴だから、いつか紹介させて?」
お兄様はそう言うと、安心したような笑顔を向けた。
(お兄様も、どこか緊張されていたのね)
「分かった。危なくなったら無理するな。いつでもここへ来ればいい」
「そうするよ――くーっ、うちの義弟は頼りになる」
お兄様は明るく言うと、殿下に手を差し出した。
目の前で交わされる握手に、私は何だか安心する。
(お兄様も、ユーリス殿下を認めてくれたのね)
「騎士団から誰か護衛につけれないか、団長へ相談を。あちらの警備も強化した方がいいだろう。父上には、俺から手紙を書く」
「畏まりました」
指示を飛ばす殿下を見つめて、私は胸がドキドキするのを感じる。
(か、格好良い……)
真摯な表情で、先を見つめる殿下のことを、私は益々好きになっていくのを感じた――。
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