第17話 鈴木君がいない


 ー陰陽消長ー


 「どう?」

 僕の家の祈祷所で良子さんが上目遣いで聞いてくる、けどこれは・・。

 「駄目ですね、妖物になってます」

 「やっぱりかー」


 退魔石は式神とも呼ばれる。

 人の氣の入った陽氣物、紙とか宝石とか石を呪物化した物が聖獣や黒猟の好物。

 その呪体を浄化した物が式神に成る、うまく利用すれば憑依させることが出来るそう。

 良子さんが最近覚えたいとうちに来るけど呪術師がこれをすると自身を削ることになるのでうまくいかないらしい。

 妖物は字面以上に危険でちょっとした刺激で炸裂弾宜しく破裂する、一応陽氣体の好物ではある。


 「呪術を習ったんだから一足飛ばして召喚が出来ない?」

 「う~ん、これを使って出来るらしいけど、どんなのが出るか分からないし、今目を離せないし」

 炸裂したときにできる歪んだ空間に陽体を呼び出せると書いてあったらしい。


 後ろでイチの鳴き声が聞こえる。

 わんっあん。

 「どうしたのイチ、急に暴れて、可愛いわねー」

 「とっても懐いてますね、良かったです華子様」

 「もう、おばさんで良いわよ、それでこの子ね、刀と入れ替わってきたみたいよ」

 「変身とかじゃなくて?」

 「そうね、だから志路さんから離れることは向こうに帰ることに成っちゃうみたい」

 「クラスメイトは見えるのに先生は見えなかったみたいですけど」

 「太一か私の氣に慣れてなかったら見えないでしょうね」


 「母さん、召喚って出来るの?」

 後ろを向いて聞いてみた。

 「良子ちゃん?。出来るかもしれないわね」

 少し目を細めてみてくれた。

 「どんなのが来るんでしょう?」

 「読んだ巻物には木の精霊、ドリアードって言うの?それが十秒ぐらいいたって書いてたわね」


 わんっ、わん、わんつ!。

 「どうしたのイチちゃん、ふふふ、可愛いわー」

 木の精霊なら聖獣の真反対だろう、全力でぶつかれば消滅してしまい後が大変になる。


 「こんにちわー、敷島ですー」

 「やあいらっしゃい、皆祈祷所に居るよ、どうぞここから行けるから」

 「おじゃましまーす、これお母さんから、気持ちですからと言ってました」

 「やあ、ありがとう、軽く冷やして後で持っていくよ」

 「は~い」


 祈祷所の端の廊下を見ていると委員長が入ってきた。手に書類を持っている。

 「こんにちはおば様、先日はお世話になりました」

 「わたしは許可をもらっただけよ、それでどう?」

 「とっても助かってます、昨日もパンツ狙いの男を伸してました」

 「本当にいるのね」

 「珍しい事ではないそうですよ」

 委員長がやれやれと肩を落としながら書類を母さんに渡してる、目録みたいだ。


 「そうだ【ふるてや】さんどうなったの?」

 「母さんにお願いして十着ほど送ってもらったけど、犯罪集団から随分買ってたみたいよ」

 「それで最近来なかったんだね」

 「まあ幸ちゃんがあそこまで悪くなったのは家の責任も有るから、今度だけって念は押しといたけど」

 「その集団も皆捕まったしね」

 父さんが葡萄や梨、西瓜を大きなボールに氷と一緒に入れて持ってきた。

 「大丈夫なの?」

 仕返し、報復は日本でも日常的にあるから。

 「ここに手を出したんだから」

 そう言って顔をそむけた、眺目の話の時もこんな感じだったから深く考えないでおこう。


 「こんにちはー」

 「こんにちはオジサン」

 「おーー、重太、二郎来たかーっ」


 ふるてやさんの一件から時々あるパターン、イチが気に入っている母さんが志路さんを呼ぶので皆集まるようになった。

 二郎が来たのであと一時間ほどでお開きになるだろう。



 昨日梅雨明け宣言が有った、今年は雨が少なかったのかな、田んぼのカエルは元気に鳴いているけど。

 「ばーい」

 「ばいばい」

 「あしたねー」

 「はーい、二郎頼むよー」

 「俺は?」

 「重太は自転車だろう」

 「おう、重太も任しとけ」

 「えーーー」


 手を振りながら家に向かう、流石にこの時間になると夕焼けになる。 

 ポケットから庭に有った玉石を取り出して念を込める、よしだいぶ慣れた。

 横の藪に入って澱みを捕まえ、石に被せて念を込める。


 ----聖に入り俗なるを散らせ急急如律ーーーー

 「よし」

 退魔石が出来た、一般向けに言うと式神の事で人の氣でコーティングされた純陽体、紙とか石とか昔は鎌や鍬、強くしたければ宝石なんかも使われたらしい。

 それらを呪に染めてから浄化して完成、呪に染めた物が聖獣・邪氣の好物で食いついたところで一緒に浄化する。

 浄化とは術師の氣に染める事らしい、うまくすれば命令できたりもすると言っていた。


 二十も作った時に顔を上げると石積みの塀が見えた、いきなりだなまた。新しいスマホを持ってるけど、まだ何も入れてないぞ。

 オッといけない、塀は首元迄しかなく哨戒兵が見えた、もう夕方だし夕飯の匂いもしている、月齢のせいか元の性格に戻った気がする。

 木の影に隠れてドアを探すと直ぐに見つかった、村から逆に向けてドアを出して腰掛ける、周りを探っても龍はいない。

 違う場所で呼んだみたいだな。

 何かの氣を感じて一度ドアを隠す、辺りを伺うが何もない、眼鏡もかけてないし気のせいは怖い言葉だけど大丈夫か。


 もう一度ドアを出して開けて解った、おにぎりが置いてある、さすがだね。

 カップ麺とおにぎりとおしんこで食事を済ませた、鍋も有ったので次は袋めんにしよう。

 ぬるーい風呂に入って着替える、下着と袖丈の短いジャージがあった。しばらくドアを開けて換気をする。

 電気を消さないと見つかるな、ポットが有るから持ってみたらお湯が入っていた。いつものようにインスタントコーヒーを入れる、扇風機発見いいぞ。

 四つの窓を全開にしてドアを閉めてみる、外からは何も見えない、怖いけど中に入って試してみる。

 異次元が見えたらどうしようかと思ったけど普通に外の景色だった。

 「鈴木さん今晩来たらまずいけど怖いから見つけてくれ」

 ベット展開をしドアを閉めて鍵を掛けた。

 スマホを出して必要な設定をしようとしたときに電波が有ることに気付いた、電気点いてるんだものな、昔コンセントから電波を拾えると知って試した事が有った、成功したけど怒られたな。

 充電しながら動画を見て、いつの間にか寝ていた。


 気が付いたら朝の光が入って来ていた、抱き枕はいい仕事をしてくれたみたいだ、棚の一番上に置いておこう。

 ドアを開けてコンロを出して鍋を掛ける、雪平鍋でテフロン加工がしてある、そこに食パンを放り込んで小分けのチューブバターを出す。

 誰も見てないからジャムもかけてやろう、家でやると下郎!!とか言われる。

 コーヒーを入れてると人の気配がした、手袋をはめていないことを確認して身構えるが見覚えがある人だ、カナさんだったか。

 「おはようございます」

 風呂用の椅子に座って風呂のふたの上でコンロでパンを焼いている、シュールだ恥ずかしいぞ。


 「していることは精霊守みたいなんだが普通の人みたいだね」

 僕たちが見る宇宙食のイメージだろうか。

 「この間のお菓子は美味しかったですか」

 「ああ、ああ、そうだった、とても美味しかったよ、ありがとうやっとお礼が言えた」

 「すみません、龍の力の関係で時間が無かったんです」

 「龍?」

 「鈴木君?ですか」

 「ああっ天獣の事かい?、その呼び方は華子様と同じだね」

 「ははは、息子の太一です」

 トレイにパンを出してバターとジャムを塗りながら自己紹介をする、そうだベイクドチーズケーキが有ったはず。

 「なるほど!、代替わりしたのかい?」

 「ええ、まあ、そんな感じです、これ食べれます?」

 厚さ四センチほどに切られて真空包装されたケーキを差し出してみる。

 「いいのかい、ありがとう随分前に頂いたきりだよ、うれしいな」


 コーヒーをもう一つ入れて二人で朝食を摂っている、気まずいから何か話そう。

 椅子を差し出して僕はヘリに腰かけている一応下に風呂のふたを置いてテーブル代わりにした。

 「この間の襲撃って何です?」

 「わからないんだ、解っているのはどうも聖職者を攫うのが目的みたいだと言うぐらいか?」

 ふーん、呼ばれたのはその辺の事だろうね。

 「要体かなめたいって何?」

 「ここ四・五年で出てきた強力な邪氣でどうも妖魔や精霊の一部を使っているみたいだけど聖騎士に浄化してもらうしか手が無くてね、まるで分からないんだよ」

 

 この村は大国クレサの首都ダライの防衛の要だそうだ、前に母さんが来たときは南隣のサルカ国から侵略をされそうになってたらしい。

 「それで太一様は?」

 さまって、まあ言っても無駄なんだろうな母さんも様付けだし。

 「鈴木君に呼ばれたんだけど近くに居ないみたいなんだ、何か知ってる?」

 「いいえ特には何も、まあ前回も忙しくしておられましたし、戦闘の気配もありませんから」

 「そう、じゃあここでしばらく待ってみるよ哨兵さん達に言っといて」

 「えっ、あの宿泊施設は有りますからぁっ・・・・・そうですね」


 いくら平和ボケしててもスパイがいることは分かる、副隊長を取られたくらいだから。

 ここで寝るのが一番安全だ。

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