第16話 仙人


 「イチちゃーん、かわいいねー」

 「イチってどういうこと?、ねえ志路さん」

 「もふもふー」

 「えーーとあのね、あの晩に太一君がね・・」

 「「あの晩っ!!」」


 「あっ、イチちゃーん」

 私の横を走り抜けていく銀色の毛玉を見ながら深呼吸する、間違うと怖いから。

 「お昼に話したでしょ、怖い生き物に襲われたって」

 「そうね、野獣に襲われて気を失ったのよね」

 委員長、とげっ、棘だらけだから。


 「ちゃんと聞いてね、多分私達には重要な事よ」

 あんっ、あんっ。

 階段の方を向いて吠えてる、呪氣には気が付かないのかしら。


 「まずあの毛の色は助けに来てくれた太一君と同じ色なの、そしてその時貰った刀が私の脇に有ったんだけど、無くなって代わりにあの子が出てきた」


 「太一のお母さんが言ってた、この先いろんなことが起こるけど受け入れてねって・・此れもその内?」

 「えっ、会ったの、いつ?」

 昨日はお母さんのケアとか忙しかったから誰とも連絡を取れなかったのよ。


 「僕ん家の親戚騒動の相談をしてたの、けど髪の色が変わったの?」

 「お兄ちゃんのどが渇いたー、ねえ何で寝てるのー」

 俯せに倒れている兄を不思議そうに揺さぶっている。

 「ん、ん、ぁああ、幸っ大丈夫か?」

 斎藤が気が付いたみたいだ。

 「ワンちゃんと遊んだら元気になったー」

 「ワンちゃん?」

 「お姉ちゃんのワンちゃんっ、あそこに・」

 「斎藤、紐解いたら本気でぶつよ」

 右腕に巻いた飾り紐を触ったので良子さんが空手?のポーズで威嚇している。

 それを横目に廊下を見るとイチがいない。


 「こんな所に何時までも居られないじゃないかっ」

 「子供は悪い方にも鈍感なの、さっきまでの方が危なかったのよ」

 「今は良いのかよ!」

 「好転はしてるよ、周りをよく見て」

 委員長が幸ちゃんを支えながら斎藤に指示してる。


 灰色の呪氣はもう誰も襲ったりしていない、外に向けて時々膨らんだりしてるだけだ。

 下から大人の声が聞こえた。


 「外祢ーお帰りー」

 「ただいまー、坊ちゃんが来てるわよー」

 「こんにちわー、久しぶりです「ふるてや」さん。

 「坊ちゃんっ・・、その、やっぱり・・」

 「しょうがないですけど、まあ補填はしてくれるそうですよ」

 「本当ですか?」

 「はい、外聞が悪いですから」


 太一君だ、良かった何も起こさずに済んだ。

 「兄ちゃんなにこれ、怖い」

 いけない斎藤が幸ちゃんを抱いたままだ、・・まあいいか、見ちゃったなら慣れてもらった方が良いかも。

 「大丈夫だぞー兄ちゃんが居たらこっちに来ないからな」

 調子のいいこと言ってる、あ、下からイチの鳴き声が聞こえた。


 「何だ銀か?小さくなったなー」

 あんっ。

 「ははは、冗談だよ、え、名前が違う、イチって?つけてもらったのか良かったな」

 あん、あんっ。


 うそー、話が出来るの?、どうなってるのよ・・・ひっ!良子さん何て目で見るの!!。

 「し、知らないのよ本当に、何が何やら」

 「良子さん今が大切な時かもしれないし・・・後でね?」

 委員長迄!!、こわいわよー。


 「叔父さーん、この籠何?」

 「えー、それは苗売りの天秤と籠だよー」

 「これ無くなってもいい?」

 「何でだいっ、それは関係ないんじゃ・・」

 「最近家に来なかったでしょ?」

 「え、あ、う、まあ、その」

 「この籠多分、生首運んでるよ」

 「ひっ!、あんたっ」

 「いっ、いや、まさか、そんな」


 うわー、寒気がした、良子さんも肩が縮んでる、最初の印象が形になったんだもの、神経にくるわよ。

 「おっおいっ、まさかこれかっ?」

 斎藤が周りを見回して口から泡を飛ばしている、それを見て良子さんが呪氣に集中して。

 「ちがうよ、この呪いは真っすぐ、あちこち飛び回る種類じゃない」

 あんっあん。

 イチが帰ってきた、え、耳を塞げ?、あれね。

 「良子さん、敷島さん、柏手が来るわよ、斎藤は幸ちゃんの耳を塞いで根性見せなさいっ」


 「かしこく、恐ろしいとおもうけれど、われは加々島の子の乞い願う」


 耳を塞いでてもはっきりと聞こえるわ、とても集中してるのが分かる。


 「鰐口わにぐちあれば、なぐさめ、まじなふは、さとし」


 良子さんが手招きしてる、これはやばそうよね、うん、纏まっとこう。


 「清めたまえと申すことを聞こしせと、かしこかしこみももうす」


 「あんたの父親何やったのよ?」

 「知らない・・・」


 ドキャーーーーーーーーーーーーーーーーーー、ギャギャギャッ、ジャーーーーーーーーーごーーーーーーーーんっ!!!!!!。


 「「ひいっ」」

 「あぐぅうぅ」




 く~ん、あん。

 あ、あれ?、イチ、ああっ皆倒れてる、私も意識を失ってたのねイチありがとう。

 あん。


 「良子さん、委員長、大丈夫、皆起きて!」

 「僕は大丈夫、酔っただけ、幸ちゃんは?」

 「これは、普通に寝てますね」

 「ヒューズが飛んだみたいね」

 委員長が薄目で妹ちゃんを見ながら起きてきた。

 「良い方向の刺激だから何もないと思う」

 良子さんが言うのをまだ動けない斎藤を見ながら聞いた。

 自分の耳を塞げなかったお兄ちゃん、無様な寝顔を見てイラつきの原因が分かった、芸能人にも同じ種類の人が二人直ぐに浮かぶ、似てる、苦手なあいつらに。


 「皆、大丈夫だった?」

 たっ、太一君、ああ良子さんいつの間に髪を整えたの、さ、さ、どうかしら、ちゃんと正座して!。

 「大丈夫よっ、うん、何ともないわよ?」

 「元気だよ、あれ?大ちゃんその帯は下にあった?」

 「うん、浄化してない」

 「周りの影も有りますよ、大丈夫なの?」

 「うん、けど委員長なら分かるんじゃないかな」

 「ひょっとして、守ってた?」

 「正解」

 「それじゃあ、成仏できなかったの?」

 私は転じて陽になるを期待してたんだけど、意思が有るなら無理よね。

 「ちょっと違う、先に逝った娘を抱いてきっとその子の人生を反芻して悔いていたんだね」

 「そんな、それじゃあまさか呪いのまま・・」

 「ずっと、ずっと、思って、考えて、後悔して亡くなって、そして」

 「うつし神になったんだ」

 「うつし神って?」

 「仙人の一種だよ」


 皆で階段を下りながら気になったので聞いてみた。

 「決まった行動以外をするのは陰よね?」

 「仙人、聖人の裏は瘴気だから、自然は厄介だよ」

 なんか白と黒の模様を思い出した、小さな丸がどちらにも有ったはず。

 「何か考えてるの?」

 「良子さん、うつし神は考えれないですよ」

 「「?」」

 「うつし神は相手の感情をそのまま返します」

 「斎藤が突っ込んでから一切攻撃してこなかったっ!」

 つい大きな声で言ってしまった、太一君が優しい目で見てる、恥ずかしい。

 「浄化しなかったのは何で?」

 「仮にも神様ですから、簡単じゃ無いですよ」

 「それはそうよね」


 店に降りるとしょんぼりしたオジサンが幾つかのゴミ袋に灰を集めていた。ドンマイ、幸ちゃんも助かったんだし。




 「社長っ、警察も帰りました」

 「もう、由紀ちゃん社長じゃないでしょう?」

 「また手を合わしてたんですか?」

 「何か又助けられた気がしたのよ」

 「あーー、朝来たら変な男が倒れてるんですものね」

 「佐紀先生もよく拝んでますよ」

 「佐紀さん隠れて折檻したことも有ったわよね」

 「もう今はぜーんぜん、教えを受けたってニコニコしてますよ、何があったんでしょう?」

 「この帯を置いてから皆穏やかになってますね」

 「そうですね園長、でもこれ少し短いですよね」

 「何か帯に納得させるのに使ったらしいわよ」

 「帯に?ふーん、あっ」

 「どうしたの?」

 「いえ、あの、一瞬ですけど着物を着た女性が力こぶを作ったみたいに見えて・・」

 「私が言ったのを真に受けたの?、やーねー」

 「そうなのかな?」



 「さっちゃんターチッ」

 「ざんねーん」

 「キャー、早ーい」

 「ハアハア、さっちゃんとっても元気になったね」

 「うん、もうお熱も出ないんだ」

 「あのお守りのごりやく?」

 「綺麗よねー」

 「ごりやくって何ー」

 「神様が守ってくれるんだって」

 「あー、お兄ちゃんかな?」

 「さっちゃんの?」

 「ちがーう、家に来たらお父さんがニコニコする人~」

 「すきありっ」

 「残念です」

 「きゃーー、もう!元気過ぎっ」

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