第13話 心の色
僕は飛び出して出鱈目に飛んでいる二人を捕まえて大きな靴を蹴り砕く。
気を失っているな、これからの事を考えるとその方が良いだろう。
「何が畜生、何で動かないんだ」
僕が離れてチャンスと思って逃げようとしたんだろう、アレコレ動き回っている。
目が狂人に近い、これまでに何度かミスを犯していたらしい、アンジーさんもなかなかやる。
「とっくにタイムオーバーよ、そのマシンは消滅行動以外取れなくなってるわ」
アンジーさんが言うがサイジ 眺目らしい男は納得していないようだ。
「そんな訳が有るかっ、乗員のライフラインだぞ、いくつもの警告があるはずだ」
アンジーさんが少し俯いて呟いた。
「まだ気付いていないのね、私がバグポッドで抜け出すのに気付かなかったのはなぜか?、素人の私の工作が最後まで見つからなかったのはなぜか、今ここで起こっていることが何か、よく考えて、最初の一手を間違えたのよ」
「何を言っている、それを全て踏まえてのけ・・」
母さんが前に向いて歩いて行った、ユウユウと、けれど力なく。
僕は捕まえた二人を放り出して眺目に飛び掛かって腕をねじり上げワームガンを取り上げた。
「痛い痛い、貴様らはっ!、俺が何をするのか分かってるのか、人類の希望だぞ、屁理屈をこねているお前らじゃない俺が動いて助けると言ってるんだっ!!」
つばをまき散らして叫ぶ眺目に先生が言葉をかける。
「お前らは術師の事を知らなすぎる、消えたのならそっとしとけば良い物を、術師同士は決闘をしない、必ず両方が滅びるからだ」
「貴様らは俺が何をなしたか知らんのだっ、かの眺目製薬の会頭だぞぉ」
綺麗に揃えた白髪を振り乱して六十絡みの男が叫ぶ。
母さんが船の近くに来てポケットから金属塊を取り出した、サイコロのような形だけど少し大きすぎる。
「待て女っ、それはッ」
僕は叫んで走り寄ろうとする眺目の腕をねじり上げて後ろを向けさせる。
「俺達術師にとっての体は陽だ、なら陰は何だと思う?」
「放せ離せぇっ、俺が人類を導くんだ、俺の力に頼るしかないんだぞっ」
奥の計器から光が漏れ始めた、僕たちと同じ紫の呪氣。
「兄ちゃん」
母さんがそう言って金属のサイコロを掲げると紫色に光る呪氣がそれに集まって人の形を取った。
「お前たち敬一郎さんをどうした?」
「兄ちゃんっ」
呪氣が母さんの頭をなでてこちらを向いた。
後ろから来ると思ったのに、又眺目を振り向かせないといけない。
はっきりとは見えないけど優しい目を感じる。
「他にも殺してるよな?、今まで無事だったのは多分アンジーさんが居たからだぞ」
サイコロから力を得たのか呪力が格段に上がっている。
「ひっ、来るなっ」
「うわああぁぁぁ」
「嫌だ、いやだあぁ」
広がった紫の呪体が物理の力で周りの男たちを絡めとって引きずっていく。
あいつ等には呪氣がどんな風に見えてるんだろうか?、物凄く恐がっている様に見えるな。
あっ、オジサンが僕の手から眺目を取って奥に歩いていく、その様子を少し見つめた。
「太一」
「うん」
僕は阿鼻叫喚の叫びを聞きながら船から降りた。
ハッチを閉じて暫く、窓に人の手が見えたときに大きな鞭を振る音が響いてデムマリンは消えた。
初夏の風が気持ちいい。
「消滅行動って何?」
聞いてみた。
「噂ばかりで分からないわ」
そりゃそうでしょうね。
「終わったな、終わったよな?なあ太一」
「無理やりフラグ立てようとしないで下さいよ」
「はは弄りやすいな~太一は」
「アンジーさんはどうするんです?」
「良子さんの眼鏡屋さんで預かって貰います」
本人の言う言葉じゃないね、意味は通じるけど。
「俺がアンジーさんを送るよ、修理屋に行かないといけないし」
そう言ってポケットから車のカギを先生が取り出した。
「母さんはどうする、ここまでタクシーを呼ぶ?」
「ん~~、そろそろ練習しとく?」
何をでしょうか?。
「アハハハハハハハハハハッ」
母さんが喜んでる、胸に吊るした勾玉もなんだか嬉しそうだ。
ガードレールに着地して又飛び上がる。
「イヤアアアアアアアッハアァ!」
目を凝らしてみるとハイキングコースが見えた、目立つと嫌だしそこに降りることにしよう。
「何の練習だよ」
背中の母さんに聞いてみた。
「老後に決まってるでしょ、何時かは背負わないといけないんだから」
不自然な柔らかさのある声で答えてくれる。
ただ誰に聞いたか知らないけど多分背負うの意味が違うと思うぞ。
着地してフルスピードで駆け下りる。
「ひゃあーーーー、凄い凄い、母さんほとんど見えないわよ」
「人の三倍だってネットに有った」
「変な言い方しないで!」
「ごめん」
「あっ、あそこ、あの膨らんだとこに飛んでみて」
見ると観測所だろうか、人気のない建物の中央に少し膨らんだ尖がり帽子の屋根が有る。
「これが気になってたのよ」
そう言って天辺に有った風見鶏に絡まった蔦を取り除いている。
「ここに良く来るの?」
「この山に来やすいように仕掛けてたからね」
「そう言えば此奴らの呪氣も紫色だったよ」
そう言って勾玉を出した。
「多分兄ちゃんが間際にあの呪体を私に向かって飛ばしたのね」
あの金属のサイコロか?。
「つながった瞬間心が弱ったのかもしれないわね、兄ちゃんの呪氣が一部漏れたのを食べたんでしょう」
僕の胸元の勾玉を見て母さんが続ける。
「その呪氣を追って私を見つけたんでしょう、本体は大丈夫なの?」
僕の胸元が少しむず痒くなった。
「さあ帰りましょう父さんが待ってるわよ」
「そうだね、寝てるかもだけど」
「そうね」
母さんを背負って目一杯の力を込めて飛び上がった。
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