第12話 予定調和

 「太一俺の事分かってるか?」

 後部座席の有った位置に座ってバランスを取っていると先生が聞いてきた。

 「呪術師でしょう?、良子さんに良く絡むから気になって探ってましたよ」

 父さんにも聞いたし。


 フオン!、ゴオオオオオアアアアアンン。

 「どうだい、後ろは」

 「今の僕にはベットっと変わらないですよ」


 そう言って加速に逆らっていると疑問が出てきた。

 「アンジーさんさっきの話ですけど未来は出来上がっているように聞こえましたけど、そうなんですか?」

 「そんな訳無いですよ?、ああそうですね幼少期に記憶させられるので当たり前に話してました」


 良かった、未来は明るいかもしれない。

 「デムマリンが出来たときに多元素粒子の数が膨大に増えたそうです・・デムマリンは船の事で多元素粒子は宇宙にある時間無視で飛び回る素粒子の事です」

 そんなに変な顔をしてたんだろうか?、慌てて説明してくれた。単位が無限だから字面しか理解できないけどね。

 「そうか、俺が親父を殺そうとしなければそんな未来は出来ない訳だ」

 「そうです、デムマリンを作った博士が言ったそうですよ、一歩を踏み出さずに生まれる未来は無い、って」


 どうしたんだ急に止まって?。

 あ!メモ貰ってる、あんちょこ作る気だな。

 「来年担任持たされそうなんだよ」

 知らないよ、来年は三年で物理は福見先生だし。


 再び走り出したので聞いておこうかな。

 「これから先生の修練所に行くんですよね?」

 「まあ家だけどな、華子さんは?」

 「タクシーで来ます、覚悟をして来いって、自分、それとも相手?」

 「まあそうだな、全部だ」

 「チープな返事ですね」

 「お前、俺にだけ冷たいよな?」

 ちょっと物知り顔で先生を見ているアンジーさんに少しもやもやした。


 やがて山頂付近の開けた土地に出た、端に小さな掘っ立て小屋が有る、二回焼かれたとか言ってたし自分で建てたのかも知れないな。

 

 車を止めて概要を聞いた。


 「確認だがバグポッドとリメインスーツとかの武器に出来そうな装備は全てデムマリンの制御になってるんだな?」


 「はい、六人全員が特殊スーツを着ていてエネルギーに類するものを遮断します、勿論運動エネルギーにも反応しますから殴る蹴るも効きませんよ」

 「武器は何か持ってます?」

 「プルトニウムの電子を高速に前後に打ち出す・・短いのでビームナイフで良いでしょうか?あと携帯が見逃されたのがワームを打ち出す銃です」


 「操り系の奴か、定番だな」

 「脊髄に寄生する奴ですけど、こちらの資料にはメディアを含めて無かったと思いますが」

 「分類すると予想できると言うだけですよ」

 「はあ」

  そう言ってアンジーさんが左の手のひらを見ると複雑な模様が浮かんでいる、生体ディスプレイって奴だな、細胞をパルス信号で発色させる。

 浮かんでいるのが模様だから網膜ディスプレイの起動用だろうか、小説の中の物が出来てしまうのは未来でも同じらしい。


 「あと五分で私のシールドのエネルギーが切れます、勾玉を隠すのに使い過ぎました」

 なるほど、聞いた話で良子さんが無事なのはアンジーさんのお陰なのか、一つ理由が増えたな。


 「アンジーさんは此処から動かないでくださいね、こちらのシールドも案外凄いですよ」

 -陰陽消長-

 念を込めてアンジーさんの周りにポケットから石を取り出して並べて置く。


 「上手になったね」

 ビックリしたけど直ぐ安心する。

 「母さん、タクシーは?」

 「国道との分かれ道で降りたのよ」

 少しダボついたジーパンと薄ピンクのワイシャツを着た母さんがいた、最初ニットのシャツを着ようとしたので止めた。


 「お久しぶりです山田さん」

 「一応お礼を言っておくわ、そちらの 女性は?」

 「私の名前はアンジー タケモリです初めまして」

 「顔を上げて?」

 深々と腰を折っていた彼女が恐る恐る顔を上げる。

 「後でユックリお話を聞かせて」

 「はいっ勿論です」

 その続きを綴るように空間が歪む、僕達しか解らない感覚。


 空間を何かが滑っている、いつの間にか母さんが先生の前に居る。ピンと背を伸ばして三枚ずつの護符を両手に持って舞うように振るう。

 ピンッ、チュンッ、ビシイ、チュン、バシイ。

 ワームガンの弾頭を尽く弾いている母さんを横目で見ながら何もない空間に飛び上がる。

 驚いている気配が伝わる、四メートルは有るものな。

 月を感じる、眼鏡をはずす、瞳孔が開く。右手を空間に突き入れる。


 「何だこいつは、スパイかっ!」

 空間から引きずり出した男は底がやけに大きな靴を履いていた。

 「筋力には反応しないんだな」

 「この!」

 先端にプラズマを出している筒を振ってきたのでその腕を取って一本背負いで投げ落とす。

 ー真落としー

 四メートルの高さに有った男は目の前の大地に叩きつけられる、さぞ驚いただろう。

 だが相手が大地でもシールドは効くらしい。


 真後ろにひずみが有る。降下中の体を捻って退魔石を投げつける、ここで満月の力を使えば弾丸と大差ない。

 「ぎゃあああああっ、なんだ、なあんだああ貴様らああぁっ!!」

 右足を吹き飛ばされた男が制御を失ったように回転しながら落ちていく。


 その横でさっきの男が飛び上がろうとしていたのを見て思わず喉が動く。

 わおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっんんっ!!。

 着地と同時に遠吠えが出た。


 動けなくなった男に先生が加減速ゼロの動きで滑り寄って浮きかけている足首を苦無で切り付ける。

 墜落した男の大きな靴底を握りつぶした後、退魔石を二度投げる。外したか。


 何もなかった空に三体の浮遊体が現れた、気付いたみたいだな、空間の歪に入ると実質距離が無くなる、空間を飛び越える弾丸にシールドが反応する時間は無いわけだ。


 三人の男たちは執拗に先生を狙い撃ちするがワーム弾の全てを母さんが弾き飛ばしている。なんか母さんが嬉しそうに見える。

 服部先生の動きに綺麗に着いて行っている、あの動きは一昨日の僕じゃないと無理かもしれない。


 先生が苦無や手裏剣を投げながら牽制している。

 その間に僕は気を練って探し物をするが距離が有るのか分からない。


 足元の石を四個拾って簡易退魔石にする。

 ー陰陽消長ー


 感が伝える方向の右半分に投げる。


 ガキィッ。

 見つけた。

 -御陰陽消長蘇婆訶おんおんみょうしょうちょうそわか

 ポケットの退魔石に念を込める。


 「畜生バグポッドが何かおかしい、それにこいつら何なんだっ」


 術師は滅多に戦わないだけだよ。

 それにね、波の特性が有るから電波とか音波って言うし真っすぐな物には線が付く、じゃあ気が付くものは?。

 先生はただの手裏剣を投げている訳じゃあない、陽の呪術師は陰の術を使うそれは体術に乗せるのが基本だけど同じ理屈で物にも掛けれる。

 

 一人のポッドが力を弱めたように降りてきたので利用する、目くらましで石を投げる、幾らかの閃光がシールドの走上にる。

 そいつを踏みつけてさらに高くジャンプする、二十メートルは飛び上がったな。

 ポケットの退魔石を纏めて投げると散弾銃の様に空気を呪符の様に空間を切り裂いて金属に悲鳴を上げさせた。


 空間に現れたそれは後ろに四角柱を付けた円形の物体で円の下にハッチが開いている、撤退とか通信してるのかもしれない。


 胸の勾玉が嬉しそうに震える、後ろを見ると母さんの呪符が飛んできた、CGアニメの様に真っすぐに、向こうで作った呪符だな。


 そいつを蹴って方向修正してデムマリンに摂り着く。窓から最後の一人が僕を睨んでいるけどチェックメイトだよ。


 アンジーさんが言うにはブラックボックス情報で過去から物を持ち出せないそうだ、そして過去には死体すら残せないと。


 他のバグポッドの男たちも制御が聞かずにうろうろ飛び回っている。僕を載せたデムマリンもゆっくりと下降していく。

 中の男は肩を落として床に座り込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る