第10話 過去と今

 「母さんの秘密は経験してるから兄さんの話からするわね」

 「うん」

 「兄さんは敬一郎と言って前任の加々島 佐一郎が未婚で亡くなった後、此処を守るはずだったの」

 「聞いたこと無いね」

 「そうね、組合も口外禁止になってるから」

 「何かしたの?」

 「いいえ、行方不明よ」


 リビングのソファーでコーヒーに口を付けようとして止まる、言い方が軽すぎるけど事件だよね、それ。

 「??」

 「消え方が普通じゃ無かったのよ、服部東二さんと家の縁続き良子さんのおばさんになる美住さんの結婚話で大揉めしていたの」

 確かに夕方聞いた話に間違いが無ければ慎重になる話だよな。

 「ここに組合人まで集まっているときに気が付いたら居なくなっていた」

 父さんが言いにくそうに呟いた。


 「兄さんは私より適性が有ってよく周りを見る人だったから私が違う世界に行くことも理解していたの」

 そう言ってカップの液面をじっと見ている。

 「身内は皆、引きひきしろが変わったんだろうと思ったんだけど、今でも帰っていない」

 一口啜りながら伺うと寄り添っている、まあしょうがないか。

 「あの世界はなに?」

 カップを置きながらこちらを見て質問を返された。

 「鈴木君に会った?」

 「だれそれ」


 指を鼻の下に置いてゆらゆらしてる。

 「龍の事?、名前あんの」

 「知らない、片言しか喋らないし、ただ嬉しそうにするのよね」

 「確かに伝えにくそうにしてたよ」

 「だから多分なんだけど昔の光る獣はあの世界から召喚したんじゃないかと思うのよ」

 「何かのバランスが同じように崩れてしまった世界が引き合った、磁石の様に」

 父さんが良い言葉を見つけた顔をしていう、悔しいが解りやすい。

 向こうの世界は増えた力を吐き出し、こちらは陰と陽、祈祷と呪術が混ざりそうになった為に新しい力を欲した。


 でもそれじゃあ力の交換は終わっていることになる。

 「じゃあ何で向こうに引かれるの?」

 「それは契約よ」

 「誰と?」

 「多分これと」

 綺麗になった勾玉を母さんが持ち上げて見せる。


 「この子とは話を良くするくらい頻繁に会ってたわね」

 「わかるの」

 「今朝銀色の獣って言ってたでしょ」


 「でもそいつ強いよ、何で呼ばれるの?」

 「あんたの身なりからして経験したんでしょ」

 「あっ、そうか陰と陽」

 「さっき邪氣を散らしていて気が付いたの」

 そう言ってライトの光越しに勾玉を見てる。

 「この子は聖獣、つまり陰、あいつ等は生きることしか考えないつまり陽、決着が着かない争いの最後の手段がこれ」

 「それじゃあ、前に来た獣も?」

 「文献どうりなら、陰の術師の僕らは陽の術が得意、それに呪力で抗おうとしたのか態と絡み取られたのか」

 父さんの話を聞きながら勾玉を優しくなでている。

 「人間が好きみたいだから」


 そう言えば龍も暴れると人が沢山犠牲になる大きさだったな。

 「あれっ、そいつ此処に居るのやばくない?」

 「そうなんだけど帰りたく無いみたいで、太一何か知らない?」

 「私達は前の勾玉の場所を知っちゃあダメなんけど分かってしまいそうなのよ」

 「ふ~ん、結界の呪符でも破けたの・・・・・」


 「太一?」

 「来ちゃだめだからね」

 「どうしたんだい?」

 「直ぐに戻ってくるっ」


 二階の自分の部屋に入る、ほかに人はいないから安心だ、スマホを取り出して電話をかける。

 「もしもし、おばさん、うん今日はありがとう、うん、言っとく、それで急ぎなんですけど良子さんいます?、はい、お願いします」

 丸井家は服部家の陽の呪術師の教えも受けていて家の中ではスマホの電源を切っている。

 そのせいで電話がしにくいんだ。


 「もしもし、うん太一、うん大丈夫だよ、うんあのね、昨日の肩掛け、そう志路さんに貸した奴、返してもらった?、そう良かった」

 「ちょっと確認なんだけど、それ何か包んで置いてなかった?、あった?桐の箱、うん、そうなんだ、うん戻しといて月曜に学校でうん、お願い、それじゃあ、あ、もう少し、ごめんそうなんだ、じゃあまた、うんじゃあ」

 僕を見ている何かが居たらごめんなさいこの目で良子さんを見たいと思いました、しょうがないよね、ねっ。

 偏光グラスを意味もなくいじってしまう。


 「おかえりー、勾玉の気配無くなったねー」

 「いいよ言わなくて、ややこしくなるから」

 父さんがコーヒーカップを置きながらそう言った。

 「そう?、これからどうするの?」

 「うーん、時々邪氣を上げれば大丈夫では有るんだけど、向こうが大変みたいだし」

 「え!食えるの?」

 「あんたが浄化した奴はね」

 「浄化?」


 「今まで説明しなかった理由がそれだよ」

 「?」

 「手袋の話覚えてるかい」

 「うん」

 「あれを魂で理解して力を使わないと事故にしかならないんだ」

 「解ってないよ?」

 「それでいいのさ」

 「これしばらくは太一が持っていて、契約で一定量の邪氣を持って来ないといけないんだけど、呼ぶのも大変みたいなのよ」

 「こいつと一緒なら可能性が上がるってこと?」

 「そう」


 あっさり言うなー、まあ裸になれば無敵みたいだけど、紐でもつけてぶら下げるか。

 「さて寝る前に新しい修行だね」

 「げっ、まじですか?」




 太一君のオッ願いだあ、と、重ーい、この僕に逆らうなー。


 ぎーーいっ。

 ホントに漆喰の扉は重い、いい加減建て替えてもいいのではないか?。

 「電気が点くだけましか」

 独り言が出ちゃった、誰もいないよね。


 蔵の右端の床板を一枚外して手を掛けると上に開く扉になる、最初地下室かと思ったけど床下収納。

 有った有った、この桐の箱、何にも感じないから良いと思ったんだけど、あのおっさんのせいで陽の氣が少し巡っているから其のせいかな。

 絶対に許さない、だまして修行させられたせいで気を緩めると太一君と距離が出来てしまう。

 小さい時の大ちゃんはホントに可愛かった、遊ぶみたいに修行もこなしてカッコよかったし。


 よしっと、お店の電気も消えた、部屋に入って写真を見よう、ちゃんと印刷したんだ。

 でもあの布何だろう、前の古いのは神社に奉納迄したらしいし。


 よいしょぅ、後はこの扉だけ。

 「あのう?」

 「&#)(*+KH?<?(%&#$!!!!」

 「ごっごめんなさい、そんなに驚くなんて思わなくて」


 いやぁ、もういやっ、飛び上がるなんて生まれて初めてだ、誰もいないよね、大丈夫みたい。

 「だれ?」

 ホントに誰、僕を驚かせるなんておっさんか太一君ぐらいだよ?。

 マスクをした肩までの髪をまっすぐに揃えた見るからに新品のスーツスカート姿の三十くらいの女性が会釈らしく少し頭を下げている。


 「はい、初めまして、私はアンジー タケモリ、北陸地方の連絡員をしています」

 加々島家の人なんだ、連絡は人が取り合う決まりだって聞いた。でも何だろう教科書みたいな挨拶ね。

 「少し御時間を頂けますでしょうか?」

 「ここで良いなら」


 よく観察したら結界じゃないもっと陰陽から外れた人為的な壁が周りにある、新しい術かも知れないけど。

 「では最初に一番大事なことを」

 区切ってから随分疲れた目をして言う。

 「私は加々島の人間じゃありません、ただ眺目製薬を潰したいだけだったんです」


 眺目製薬?、聞き覚えが、眺目、眺目商事!、太一君が言ってた悪徳商事だ。ってあれ、製薬?。

 「ごめんなさい、努力はしたんです、助けて」

 今、物凄くグーパンしたくなったのは何故だろう、それも術を使って。

 「太一さんを呼んだのも私達なんです」


 抱き着いてもいい?。

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