第9話 異世界
胡坐をかいている状態で後ろを見ていると巨大な羽のある龍が空を舞っている。
距離は有るが大きさは分かる、勾玉を握る手に力が入る。
何故か嫌がる気配が勾玉に有る弱いがまた意識が繋がるようだ、うおっ、目が合った。
慌てて立ち上がり前にいる五歳前後の兄妹を両脇に抱えて石の壁に隠れる、何やら話しているが日本語じゃない、成程聞き覚えは有る、下ろして聞いてみた。
『大丈夫?』
『お兄ちゃんはなに?』
『にいちゃ、ご神体しゃま』
幼女が指さす方を見るとそこに巨大な目がある、思わず見返した自分に驚いた、あいつに寄生されてからの自分が凄い。
ーーー
既視感が有るなこの感じ。
ーーーせめて
何をだ、そう聞きながら周りの気配を探る、あっ、まて、どこに行く!。
ーーーおれを呼んで
消えていく長い巨躯を見ながら考える、無理、守れ、僕を呼んで縛られた?。
「うわーーー、くんなぁ、お兄さん危ないよっ」
「神しゃまーーー!」
目の隅に鎧が映った、条件反射で手袋を脱ぐ、高速で振られた剣を素手で受けることになってしまった。
がきいいいいぃ。
黒くすすけた明らかに死人が剣を振っていて僕はその刀身を鷲掴みにしている、記憶に引っ掛かったのは鉄を引き千切った邪氣憑きの力、物理的におかしい現象、力じゃ無いとしたら?。
左手で持っている勾玉で殴ってみるが普通によろけるゾンビ、対して右手はあっさりと剣を奪い取る、抵抗なく?。
右手で殴ると上半身が黒い煙になって消し飛んだぞ、勾玉って弱いのか?。
「あつっ、あっつうっ!!」
思わず落としてしまった、怒ったのか?、あー、手袋が焦げてる。うわぁ、横の地面が爆ぜたぞ、なんだ?。
まだいるのか、黒っぽく変色した様々な生物が周りにいるのがわかった。
よく見ると空中に蝙蝠の様な羽を持った巨大な猛獣がいる。
熊にカマキリの鎌を持たした様な獣もいる
しっぽの先がメイスになっている大蛇もいる。
サーベルタイガーもいるな、それと鎧を着た兵士たちが町の人たちを誘導しているのも見えた。
ぶううううう、ぶうううう。
スマホじゃないんだから分かってるよ。
焦げた手袋を脱いで勾玉を握った・・よな?、思わず二度見してしまう、重さが無いぞ?。
『うわあああぁっ』
「このっ」
男の子に向かって飛んできた牙のある猛禽類に足元の石に気を込めて投げた、昨日と違って山なりに飛んで行く石はしかしメキメキと音をさせて化鳥の体にめり込んでいく。
ぎゃああああぁぁぁっ。
気付いたときにはもう逃げられなくなって石と共に落ちていき地面に縫い付けられて黒い煙になった。
石の落ち方に覚えがある。
いろいろ分かった気がする、思わずにやける、こちらも時間は同じらしい、少し欠けた満月が僕の瞳孔を広げる。
それからは正に蹂躙だった、靴下を脱いではだしになった足の一蹴りで熊の様な妖魔?も、カマキリのような奴も一撃で黒い煙なる。
ただ勾玉の反応から消したわけではないようだ、なので勾玉で殴ってみる。
正解のようだ、煙は散らばることなく石になって地面に落ちる。
でも何だろうこの違和感、合ってるのに間違っている、初めて氣を散らした時に見た父さんを思い出した。
陰氣がひるんで距離を取ったので兄妹を呼んだ、守って間違うことは無いだろう。
手を前に出して取っ手を探して、有った。
ドアを開けて男の子の手を引く、力を入れない様に指の関節を手首に引っ掛けて中に引き入れると女の子もちゃんと付いてくる。
電気をつける、ちゃんと点いた、出来るだけ柔らかい顔をしてお願いする。
『中に有る物何でも食べていいからねしばらく待っていて』
『あの、お兄さんは・・』
『呼ばれてきただけだよ』
そう言ってユニットバスの扉を閉めると見えなくなった、後で見つかるよな?。
ぎゃあああぁぁぁぅっ!。
ごあああああぅぅぅ。
きしゃしゃしゃしゃ!。
集まってきた影たちを蹴散らしながら走り抜ける、あの時、間違っていたのは消さなくてもいい陰氣だった事、陽氣と正反対の陰氣は無害、そう知ったのはずいぶん後だった。
今ここで僕に蹂躙されるのは僕と正反対だから、試しに牙を前腕で受けても傷一つ付かない。痛っ、ズボンの上からは爪が通った、なんだよまったく。
兵士たちの姿が沢山見える、その中にいた、でっぷり肥えた顎ばかり動かしている奴。
他の色は黒と白と人に染まって呪になった灰色なのにそいつは濃い藍色だ。
勾玉が振動する、奴は滅するべきと。今度は憑依しないのか聞いてみた。
・・・意味がないそうだ?。
え?、目隠しを外せ?、ああ眼鏡か、偏光グラス程度では光量に違和感が無いから忘れてた。
「やばいぞっ」
偏光グラスを外して思わず声が漏れた。
あの男の体から九本の邪氣が出て周りの氣を食ってドンドン大きくなっている、兵士達は見えていないようだ。
いけない!、足に力を込めて走り出す、人のスピードが歯がゆい。
男の横に来た立場が上そうな女性、陽の氣を濃く持つ彼女を胡乱な目で見ている。
「マクレイ持ちこたえられるか?」
「カナ・・たい・長・」
「ジナ隊、散開して
「はいっ!」
陰の氣を持つ兵は剣を持って力技で、陽の氣を持つ兵はメイスを持って反発を利用して陰氣体を退けている、うまいな、こいつに気付けば最高だけど。
邪氣がカナと呼ばれた兵士に覆い被さろうとしている、間に合わない、すまん。
勾玉を右手に持ち替えて投げつけた、今まさに襲い掛かろうとしていた邪氣が恐ろしい速さで勾玉の方に向きを変える。
掛かった、勾玉に邪氣が群がっている。女性が僕を見る、オッサンが崩れ落ちたからな。
「なんだ貴様は!」
ー恐れ思い次ぐ人の人ー
「
近くの人達が止まって何かを見つめようとする、この間に紺色の靄に包まれた状態で空間に留まっている勾玉を両手でつかんだ。
え!、ダメだったの?、ごめん。
「隊長っ!、神氣です、化身ですよ彼!!」
「ぎやああああぁぁぁぁっ」
「御使いがなんでドナを襲うんだ」
「こおのぉっ!」
声はゆっくり蹴るためだ、はだしだから。
ごきんっ!。
ビックリした、静かになったし首を飛ばしたかと思った、兜が飛んで行って気を失ったドナおじさんと邪氣が外れた。
勾玉に摂り憑いた邪氣を抱えて・・どうしよう?。
僕の体が向こうの理に居るのは分かった。
だから此方の理に染まりやすい衣服なんかを着ていると怪我をするが皮膚が直だと無敵になる。
じゃあ術はどうなる?、母さん教えそこないが有るよ。
「有りましたっ!、
副隊長の近くに落ちている鱗の様なものをかざしている。
「副隊長に憑いてたのか」
「まさか聖氣持ちのマクレイさんに」
「聖氣入りの鎧のせいで分からなかったんだ!」
「
「やったーーーーっ!!」
歓声の方を見るとドナ爺に白い帯を左の二の腕に巻いたの兵が二人駆け寄っている、僕の方にカナと呼ばれた女性が来る。
勾玉は隠した方が良いかな、その為には剥がさないと、駄目だ、隠そう、ドアよ出てこい、当たり、すぐ見つかった。
ガチャ。
「君たち・・・」
「マル」
「サヤっ」
「僕は太一だ、まあいいけど」
お菓子の袋が散らばってチョコレートが壁のあちこちについている。ペットボトルの水も飲めたようだ。
「ちょっと待って」
蛇口をひねるとお湯が出てきた、タオルを濡らして二人に渡す、左手は勾玉を持っているので使えない。
「顔がねちょねちょだ、ちゃんと拭かないと蟻さんに齧られるよ」
そう言いながら勾玉の様子を探ってみると
「きもちいい~、ほらサヤ」
「にいちゃ、いい~~」
「顔ぐらいこちらを向いても良いんじゃないか?」
慌てて勾玉を棚の一番奥、毛布の上に置いた。
「はいっ、あの、お邪魔しました」
後ろに振り返って気を付けの姿勢を取る。無邪気作戦、子供の特権を行使してみる。
「何を言ってるんだ、まさかの事態だったんだ助かったよありがとう」
表情筋が硬くないのを確認してから聞いてみよう。
「あのぉ、この子たちを知ってます?」
「いや、ああそうか教会の孤児だね」
「両親は」
「神父様だね、良かった、あいつらが出ると良く教会関係の人がいなくなるんだ」
「そうですか」
「ところでその扉はどうなってるんだい?」
石造りのお陰も有って二十軒ほどを焼いて火はだいぶ収まってきている。町並みは所謂田舎のフランス散歩動画で見た感じだ。
そこの壊れた水場の横にステンレスの扉だけが有る光景。裏から見ると何もない。
「ん~~神氣の応用ですね?」
さっき聞こえた名詞?を使ってみた。
「そう言われると困るんだけど、こうぅんんん」
「はい、このお菓子全部持って行って良いよー、皆で食べてね」
母さんが揃えたお菓子はケーキ類以外無添加っぽい、見たことが無いパッケージが多い、しっかりしたゴミ袋が有ったのでお菓子を詰め込む。
マル君が目をガン決めして手元を見ている、割と残っているのを詰め込んで渡すと顔を崩してお礼をしてくれる。
「ありがとうございます」
「にいしゃ、なに?」
「隊長さんもどうですか?チョコレートとブランデー味のケーキです、紅茶と合いますよ」
子ども達に手を振りながらカナさんにケーキ菓子を差し出す、残りはインスタントばかりになるけど困ることは無いか。
「何だいこの入れ物は、これでは神氣と言うより商に・・・・」
ジーーーーーーー。
電柱から音がしている。
ユニットバスの全体が見える。
「お帰り早かったね」
後から母さんの声が聞こえる。
はーーーーー。
ごとごと。
上の棚で勾玉が動いている、しょうがないので掴んで後ろを向く。
「良いのを捕まえたね貸して」
黒い邪氣を纏ったままの勾玉を渡すと恭しく受け取って祈祷所に向かって歩いていく。
「まだなの?」
母さんが止まって陽気そうに言う。
「まさか。」
また歩き出して声を張る。
「晩御飯の後でよ」
「ほーい」
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