第8話 祈祷師と呪術師
何か視線を感じる、なんだ?、呪氣とかとは違うもっと冷たいもの、事故のトラックを見たときから時々感じる、消えた。
「山田ク~ん!」
ぼふんっ。
「おうっ」
志路さん!。分厚くてもタオルケットですから、薄いんですから、ジャージを着てても乗っかるのはやばいですって。
「大丈夫なんですか?」
「うん、もう何時もと同じ」
「太一君?」
オジサン違いますよ。
「あははは、志路さん、今何時ですか?」
照れ笑いながら聞いてみる。
「九時だよ、よく寝たねえ」
後ろから母さんの声が聞こえた。
「おはよう母さん、貴澄さん」
昨日帰ってから母さんと志路さんがお風呂に向かった迄は覚えているけどそこで記憶がない、こんな寝方は初めてだな。
「朝ごはん置いてるから、皆食べ終わったからね」
「ほーいっ!いつつつ」
「太一さん?」
あれ、志路さん?家で名前呼びは初めてだな、まあ変じゃないけど。
「え?、いえ、筋肉痛ですよ、ははは」
昨日の石が気になって上座の棚を見るとなんか変だ僕の目の高さだと背伸びしないと見えないはずなのに薄っすらとマーブル模様が見える。
「気になるの?」
「母さん有れ、大きくなった?」
「違うわよ、纏めて祝詞を当ててみたら一つに固まったの、見て」
そう言って神棚から下ろした盆には、ある意味見慣れた物が乗っていた。
「勾玉?」
「そう見えるわよねー、これどうしたの?」
濃い紫と白と透明のマーブル模様の最長部で三十センチほどの勾玉を見ながら話す。
朝食を取りながら話し終わると母さんがじっと見ている気配がする、少しマシにはなっているけどまだむり。
「あんたの目気持ち悪いわよ」
わかってるよ!!。自覚はある、昨日洗面所でまじまじ鏡で見ていると急に違和感を覚えて怖くなった。
黒目が大きいからだ、違和感で済んでるうちは良いけど気が付くととても気持ち悪い、ホラーレベルで。
「サングラスタイプにするよ」
「そうねあんたの氣が出て病気じゃ誰も納得しないわよ」
そう言って洋食皿を重ねてコーヒーカップを炊事場に運んで行った。
「先輩、なにか?」
二限目の授業に向かおうとして先輩と校舎まで来た。
三年生は三階なので別れるんだけど、じっと見てくるので動けない。
「山田君今日休んでるよ」
「なんで二年のこと知ってんですか?」
「通達があった時に居なかったろ」
通達って。
「律子と良治いつ帰ったんだ?」
「終電前に帰りますよ」
「お前はいたよ?」
「帰してくれなかったじゃ無いですか」
帰ろうとしたら外までTシャツ一枚で追いかけてきたのに覚えてないんだ。
福見真理子、長い髪とロングスカートが特徴の合気道部の顧問、女生徒が付けた通称が姉御、俺の立ち振る舞いが気になるらしく良く呼ばれる。
面倒見がいいし酒を飲むと色々見せてくれるので不満は無い。
「服部ってさあ、山田が嫌いなのにいないと探して無いか?」
「うちは呪術、あいつは祈祷、水と油ですよ」
「ああー」
「何納得した顔してんです?」
「いやー、なんとなく?」
「先生来てる、ちょっと急いで」
声がした上を見てそうだったと俺にいう。
「じゃあ後で」
「はいはい」
二人して気だるげに手を振る、以前夢見る生徒に魂の姉弟と言われたな。
呪術師は力を嫌うそれは人の心も含めて、人に認められるのも警戒するので自然儲からないから仕事もする。
我が家が代々守る紅色の勾玉が無ければ俺もとうにやめていたと思う。
また感じる、昨夜トラックの事故を見てから時々感じる無機質な光の反射、光は見え無いんだけど。
「先生!!何してるんですかっ早く入ってください!!」
丸井良子、祈祷師系、機嫌が悪いじゃないか、んっ。
少し曇ってはいても夕日は綺麗に見える、偏光グラスは程よく仕事をしてくれる。
志路さんがお父さんと車で帰った後、良子さんの家の眼鏡屋さんに行って合わないのを探したけれど意味が無いことが判明、視力に関係が無かったもよう。
三時間以上探して見つけたのがフナ釣り用の偏光グラス。
普通の偏光グラスは首を傾けないと効果が無かったけど少し高かった釣り用が良く効いた、偏光幕の何かに脳が刺激されている感じがする。
「おかえりー、自転車帰して来たのかい?」
「ただいま、そうだよ、領収書頂戴って言っといたから」
重太に電話連絡して家に持って行った。お母さんに増えたであろう傷や無理をしたことなどを説明して買い取る事も提案しておいた。
「へーー、色が薄いのにあんたの目がまともに見えるね」
「ん~。昼頃から少し見え方が戻って来てるみたいだけど」
「やっぱりそうなのかい」
「うんまちがいないね」
「げつれいってやつだね」
「おおかみなんていうから」
「解ったからやめてくれよぉ」
父さんが干していたシャツを顔に当てて俯いている。
「それで何か分かったの?」
「いや、全然、前に出土した勾玉を拝んだけど同じくらい安定しているよ、ずっとこうだった見たいに」
祈祷所の中心に置かれたマーブル勾玉を家族で座って見ている。
「やっぱり聞くしか無いんじゃない」
「でもなー先祖代々迷惑かけてるしなー」
「うちが持ってるだけで悪影響があるかもよ」
「そうだよなー、しかたない」
父さんがスマホを出して電話をかけているんだけど、気のせいか段々顎が上がっている気がする。
「おーー、俺だっ、堂田だよ、知らない?、舐めてんのか?ああっ」
「え?父さん・・」
「良い声で恫喝すんじゃねえよ、・・用が無きゃ手前に電話なんかするか、ぼけぇ」
「ナニコレ、母さん?」
「しー」
「変な玉が有んだよっ、なにぃ、息子になっただあ、なんだ?博蔵じゃないのか?、慎寿って長男か?学校の先生だよな?、分かったよ、小汚い声聞かせんな東二よう、美住は元気なんか、それじゃあな」
「東二さんって服部東二さんだよね毎年年賀状と暑中見舞いくれる」
「取り決めがあるのよ」
「ほっぺたいてーー」
頬と顎の下を揉んでいる父さんに聞いてみる。
「今の会話は暗号か何か?」
「ん~、もうじき十七か、知らないと困るかもな」
「そうね、太一は服部さんが呪術師なのは知ってる?」
「何となくは、葉書に必ず呪氣が付いてたし」
「呪術は呪氣に対して真っ向勝負の術式で、祈祷は利用できるものは何でも利用する、まあ戦術式だね」
イメージは出来るな。
「記述どうりなら桃山時代までは本当に仲が悪かったみたいなんだ」
何代前でしょうか?。
「当時の都の近くの山に現れた妖魔退治に両家が競って討伐に行って気付いたんだって」
気になってきたぞ。
「何もかもが自分たちと違いすぎると、同じ環境で過ごしたとは思えないほどに」
「それで苦戦していた両家が力を最小限にして力を補い合うことでやっと討伐できたそうなの」
「寓話?」
「術師の話に綺麗なものは無いよ、両家が考えたのは自分たちが力を得たせいで妖魔が力を付けたんじゃないか?、そんな事だそうだ」
「それで父さん達の祝詞は片言なんだ」
「良く解ったね、特に母さんは先祖返りと言ってもいいくらい術に長けているから」
「でもそれじゃあさっきの喧嘩にならないよ?」
「両家が仲良くなった時に輝く獣が出たんだって、それが城の石垣を腕の一振りで半壊させたらしいのよ」
「それで信長?、秀吉?、信長だよな」
「妖気に当てられて燃えたってなってたから信長じゃない?」
「すまんな、書物は服部さんが持ってるんだ」
「とにかく上意で競って獣討伐を命じられたらあっさりと家が討伐できたらしいんだ」
「力のバランスが訳が分からないよ」
「太一は宇宙の認識って信じるかい?」
「なにそれ?」
「心理学では有名な話なんだけど、なかなか出来なかった合金が一度できたら失敗作まで音を立てて成功作に変わったって言う話」
「そんなことあるの?」
「科学者が記録してるんだから有るのかもね」
「まあ当時の両家がそんなことを知るはずもないから獣を見た感想で話し合いが付いた」
「気を操る人たちが徒党を組むのはまずいんじゃないかと」
「もしあんな獣が大量に現れたらどうなるかと」
「力を二つに分けるのに獣討伐で出た勾玉を服部さんに渡して加々島は島に隠れて互いに連絡は取らない様にしてたんだ。」
「それは服部さんにエサを与えて都守りに送り出したんじゃァ」
「いやぁそれはどうかな?昔の話だし、家じゃあないぞ」
「あたしも知らないわよ、そんなのうちには何も証拠がないもの」
目が泳ぎまくってるぞ、大分前に気付いてたな。
「それでこれの専門家ってことだね」
勾玉を手に取ったら暴風と悲鳴と泣きじゃくる兄妹が目の前にいた。
目の前が炎に包まれている。
後ろを見ると。
ぎゃああああおおおおおおんんん。
良かったドラゴンじゃなくて。
龍だけど。
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