第6話 夜目
本当にやらかしてんな。
左右から飛びついてきた邪氣犬を右手で下顎を掴み、左手を口内に突っ込んで持ち上げながら建物を見る。
ガオウッ、ガアア、ゴウワ、ガッ!。
体から何かが抜けるのを感じながら確認すると。
二階に二頭、三階に六頭、そこに貴澄さんが横たわっている、意識がないのか動かないがそこに男の人がいる。
キャウン、がうがう、ウキャン、キャン!!。
犬たちを下ろして転がった球を拾うそして走り出す、靴が邪魔だ。
こっちを見た、待てば利を取られるかも知れない。
靴を脱いだ右足に力を込めて飛び上がる。
三階の窓は半分倒れてバリケードの様になっていた、邪魔だ、左手の一振りで掃き出しの大きな窓がふきとんだ。
近くにいた三頭が機敏に反応して向かってきた。
一番近くの邪氣犬が右手を振ってきたので屈んで躱す、同時に右手を上げて顔を掴んでやる、そして足元の空間を歪ませる。
-葉倒しー
何の抵抗もなく後ろに回った体は激しく後頭部を打ち付ける。
二頭目がきたので低い姿勢のまま突きを出すとガードしようと上半身を下げたので左フックを下顎に当てる。
-合い突きー
相手に会わして足元の位置をずらすから力が入れやすい。不満の感情が伝わった、分かったよ。
わおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっんん!!。
許可したらいきなり雄たけびが出た。
犬も人も硬直している、この隙に片付けろってか。
次の邪氣犬を力任せの葉倒しで昏倒させる。その横のを中断蹴りで吹き飛ばす、ぶち当たった壁が割れ鉄筋を引きずり出しながら剥がれていく。
男の手前の邪氣犬が反応を見せるが遅い、後ろ回しの首狩り足で床にたたきつける。
先に叩きつけた奴らがゾンビの様に起き上がってくる、首から上は明らかに意識を失っているな、でも残念です、ゾンビは口を開けてるもの、俺の体から銀の煙が舞い散る。
どうも見ていると生物としての結界を破れないらしく俺が破るか意識を飛ばしてやる必要があるみたいだ。
今のうちにこれを受け取って、気付いてるでしょう。
そう思って懐刀を投げるとまさに飛び起きて刀を掴んだ。
「山田君!??」
手のひらを掲げてそのままと合図する。
大体解った、こいつらの腕力は人間の胴を二つに出来る、志路さんを挟んで向こうに男と邪氣犬が一頭、いや三頭、下から来やがったな。
位置的にギリギリ間に合うがマージンが欲しい、少しづつ近寄っていく。同じだけ詰めてくる、なら。
姿勢を正して息を吸い込む、志路さんが気付いて耳をふさぐ、言葉を繋ぐ。
「ねがはくは神変を乞う、おのれは人の子加々島の末裔なり!!」
厨二なんて言ってられないから。
柏手を打つ。
どおおおおおーーーーーーーんん。バキバキバキ、がっしゃあああああん。
「!!????????????」
ごおおおおおおおぉぉぉっ。
「きゃあ!」
ゴロゴロゴロ、キシャッ、ガシャーン、カン、カン、ギィイイイイ・・バタァン。
「・・・なんだこれ?」
煙の中でも色々解る、壁が全て消し飛んで鉄骨と拉げた大量の鉄筋だけになった三階に風が吹き抜ける、志路さん
は無事だな刀の結界か?。
何がどうなっている?、祈祷自体で物理破壊なんて聞いたことが無い。
キュン。わんっ。きゃん、きゃん、はっ、はぁ、はっ。コトン、コン、コロコロ。
良かった犬達は大体逃げて行ったな、けどこいつは。
「ぐわああああぁぁぁ!!」
つかみかかってきた腕を空間をずらして避けると元壁だった鉄筋の囲いに突っ込んだ。その男がこちらを睨む。
右フックを有り得ない角度で打ち込む、常人ならまず立っていられないそれを笑って受けやがった。
不満が伝わる、わかるけど人間なんだよ、潰せないんだ、うわあ、鉄筋に絡まったまま振り向いた!。
ぶつんっ、バキバキバキ、づちゃ、ビキビキ。
鉄を引きちぎってやがる、何トンの力だよ。
鉄筋にうまく残ったコンクリートで殴りかかってきた。
裏拳で吹き飛ばす。悪いね、仲間なんだ。
何度か殴り合う、空間をゆがめて転がしても直ぐに逃げ出してちょうどいいダメージを入れられない。
人レベルならクリーンヒットの一撃じゃあ物ともしていない、対してこいつは一撃必殺で来やがる。
こういう時はあれしか無いよね。
中腰で突っ込む、出された蹴りを左に払う、体が右に開いた、体の構造を無視した動きで左手の鉤爪を奮って来た。
その腕を取って右足で首を狩る、のけ反って無防備な鳩尾に左足踵を叩き込んでから体を捻って転がす。
「ぎしゃあああぁぁぁ」
吐しゃ物を吐きながら暴れ回る体を腕十時で組み伏せる。吐しゃ物に肉片らしきものは無い、よかった。
「志路さん、お願いできる?」
「あ、ひ、あの、山田くん?」
「あいたっ噛まれた、そうだよ、御札、お願い」
残念だね、お前より此奴の方が強いみたいだぞ、お、なんか嬉しそうだな?。
「あ、あの、これ、ああもう!、ちょっと、もうっ!!」
こちらに向かいながらスマホを弄っているけど上手く行かないみたいだ。
「でたっ!、どうするの?顔で良い?」
「そう、お願い」
意識を飛ばせないのは多分寄生先が脳だからだ、俺は今手が離せないからお願いする。
「ぎゃあああ、ぎぎぎ、ぐおおおおっ」
顔に御札の光を当てられて噛んでいられなくなったのか首を振りまくって吠えているもう少し。
暴れ方に隙が出来てきた、ここで掴んだ腕を左の脇に回す、左手と脇で腕を固めて右手を男の顔に翳す。
-碑氣抜きー
「ぎゃあああああああああああああああああっ」
耳を劈く奇声を上げて顔から紫の靄を出して苦しみだした。
----ありがとうーーーー
「きしゅうううしゃああああああじゅううごうぎいいいい・・・・」
銀色と紫の煙が混ざり合って、鬩ぎ合ってやがて固まって男の額に当たってから床に落ちた。
大の字になって寝転んだ、足の下の男はちゃんと息をしている。
「・・ね・え・もう・いいかな・・・」
「うん大丈夫、もう終わったよ」
あいつがお礼を言った。
「私、わた、うえ、うわああああああああん」
近くに行ってあげると腕を引っ掴まれた。
「山田君、山田君、いやああだあああぁぁぁぁ」
元のサイズに戻った僕に安心したのか泣き声が更に大きくなった。
「ヒック、山田君、ヒック、うううう、山田君」
「はい、いますよ」
外に出て駐車場の端に向かって歩いている、左手の二の腕を放してくれない。僕は右手で目を隠して話しかける。
「ほら、此処から見ると夜景が綺麗ですよ」
「ヒック、べをかくじてる、」
「目が痛いんです、直ぐに治りますよ」
さっき一緒に階段を下りたときに割れた鏡を見たら目が光っていた、完全に元には戻らないのか?、聞いてみたけど他の意識は感じられなかった。
遠くでサイレンの音が聞こえる、当然だね、志路さんが夜景を見ている。
「きれい」
「うん」
僕の感覚は変わったままだ、視覚と聴覚、嗅覚が異常に鋭くなって全てが脳に映像として伝わる。
この町で暮れ方に拭く風は町から山への吹き上げ風。
綺麗な光の宝石は確かに見える、けれどその下の無残なあばただらけの大地も見えてしまう。
実は彼女の服も透けていたりするんだけど。
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