第3話 森にて②
「…ん」
パチパチと焚火のような音で私は目を覚ます。
「...っ!...いった…」
驚きのあまり私は飛び起きると、全身に痛みが走る。
熊に襲われた記憶がある腕を見ると包帯が巻かれており、何者かによって助られ、治療されたようだ。
「まだ動かない方がいいよ」
私の動きを見て、焚火に木の枝をくべている女性が私にそう言った。
この人が助けてくれたのだろうか?
女性の容姿は長い黒髪で、眼鏡をかけており少し目つき悪い。
だが、素で悪いとかいうわけではなく疲れでそうなってしまったという感じだ。
そして、隣に置かれているボロボロの年季の入ったリュックを見る感じ、この人も旅をしているのだろうか…と私は思う。
「あの…助けてくれてありがとうございます」
「...それはいいけど、あなた何でこんなところに一人でいたの?」
「えっと...道に迷ってしまって…」
「...そう」
私は女性に感謝の気持ちを伝えるが、適当に返答されてしまった。
初対面の人に対して...と思ってしまい、少し気分が悪い。
「…。」
「…。」
それ以降、女性と私がいるこの空間は焚火の火の粉が舞う音しか聞こえず、会話が一切ない。
無理して話しかける必要はないと分かっているが、森の中で二人きり、しかも相手は不愛想な女性だ。助けてもらったとはいえ、信用できないので彼女に色々と質問をして情報を得たい。
「ん…んく…」
女性はリュックから紫色の液体が入った小瓶を取り出すとコルクの蓋を開け、クイッと一気に飲み干す。
酒なんだろうか?と普段なら特に気にならない事を気にしてしまうぐらい静かで退屈な時間が流れるので、バックに入れていた依頼書を取り出し、眺める。
こんなことやっても時間が潰れるわけないと分かっていてもしてしまう。
「依頼書?」
「あっ…はい」
「見せて」
女性が私の依頼書を見て質問してくる。
彼女に見せてと言われたので、とりあえず渡してみる。
「...これ、私が出したやつじゃん」
「えっ…そうなんですか?」
「うん、この人探しの。誰かが引き受けたって聞いたけど、あなただったんだね」
女性は依頼書を見ながらそう言った。
「...ってなると、あなたただの迷子じゃないんだね?」
「はい…最近魔法使いになって…」
「ふーん」
私は女性の言葉に対して少し照れながらそう言うと、女性は冷たく返答した。
「じゃあ、この子を使えばいいんだ…」
女性は何か言った気がしたが、小声だったのでよく聞き取れなかった。
「ねぇ、あなた名前は?」
「エミリーです」
「そう。エミリー、私があなたに魔法教える代わりにこの依頼終わらせてくれない?」
女性は私にそう言った。
現在の状況で、私が女性が出した依頼の達成はおろか、生きることすらできないだろう。
いや、数時間前に熊に襲われて死にかけたのに生きられるなんて言えるわけがない。
それに、私の魔法能力は素人が見ても分かるぐらい未熟だ。
旅をしながら深く勉強すればいいと思っていたが、数時間前ので「それではだめだ」と嫌というほど知った。
なのでこれはチャンスだ!と思った
「え!?いいんですか!?」
「いいよ。その代わり、私の「邪魔」しないでね?」
「...?はい!よろしくお願いします!」
私は彼女の「邪魔」というワードに少し疑問を感じたが、おそらく気にすることではないだろう。
寝る前の話だが、彼女の名前は「サーニャ」と言い、魔法使いらしい。
彼女の目的は「師匠の捜索」らしく10年以上色々な場所を探し回っているがいまだに見つからないとのこと。
もう生きていないのでは?と思ったが、彼女が現在も探してるということは恐らく生きているのだろう。
私はサーニャの話を聞いた後、安心しきってしまったのか再び寝てしまった。
「…はぁ。どこに行ったの…ロゼッタ…」
サーニャは寂しげに呟いた。
そして、小さくなるように体育座りをしながら焚火を眺め、湿った感じの咳をした。
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