第2話 森にて①

依頼書を手にし、町を後にした私は途方に暮れていた。


二枚の依頼書には最低限の情報しか書かれておらず、もちろん最新情報なんてない。

なので、この世界のどこにいるか分からない上に自力で何年もかけて旅をしながら探していくしかないのだ。

それに、今の私には最低限の攻撃魔法と回復魔法ぐらいしかできないので、もしここでいないはずの魔物などにあったらどうなるか予想できない。

とにかく不安で仕方ない…。


「町に戻って他のも貰ってきた方がよかったかな…」


私はため息をつきながら呟く。

本音を言ってしまえば、依頼を断りたい。だが、今断ったところで結果は分かっている。私に合う依頼なんてない。どうせ失敗する…。


「…っ…!だめ…!ネガティブになっちゃダメ…!」


ネガティブになりかけていた自分を奮い立たせるように強く言い聞かせる。

私が魔法使いを目指した理由は、「ネガティブ思考な自分を変えるため」だ。

こんなんで変わるわけない…というのは自分でも分かっている。

だが、何か希望が欲しかったのだろう。


「…っと……中々な距離歩いちゃった…」


そんな事考えながら歩いていると、さっきいた町の景色は森の中へと消え、戻るにはかなりの距離になっていた。

一人で森の中は魔物が出ないとはいえ、すごく怖い。

うさぎで草が揺れる音だけで驚いてしまう。


「…さっさとこんなとこ抜け出そう」


私は足早に森を出ようと思った。

魔法を使って飛べば楽なのは分かっているが、今の私の魔力的に持つわけがない。

よくて一分浮くぐらいだ。



「…はぁ…はぁ…まだ…抜けないの…?」


それから何分歩いているんだろう…。

そんな事を考えていると近くの草むらから物音が聞こえ、私は警戒した。

この感覚は小動物とかではない。もっと大きく危険な生物な気がしたからだ。


グァアアアアア!


その予想は的中してしまった。

2メートル越えの熊が草むらから姿を現し、私を見て襲いかかってきた。

私は震える右腕を左手で押さえながら杖で魔法攻撃を放つが、上手くコントロール出来ず掠った程度でダメージを与えられてない。

それのせいで熊を興奮させてしまったのだろうか、私にさらに攻撃してくる。


「いっつ…!」


バリアを張るがすぐに破壊されてしまい、すぐに来た二度目の引っ掻き攻撃を左腕に受けてしまった。

腕に深く出来た傷口から血が流れ、苦痛で顔が歪む。

回復魔法を使おうと思うが、魔力量が足りず回復にかなり時間がかかってしまう。

そんな事お構いなしに熊は私にどんどん攻撃をしてくる。


両腕、顔など傷口はどんどん増えていき、全身の傷口から血が流れ、立つのがやっとになってしまった。


(痛い…。全身……もうダメなのかな…)


視界が少しずつぼやけていき、もうダメなのかと察する。

熊が私の頭めがけて鋭い爪を振り下ろそうとしていると、突然熊の腕が吹き飛び、熊は悶えながら地面に倒れる。


(何が…起きたの…?)


…グァアアアアア…!


熊は悲鳴のような声をあげると頭がバンッと弾け飛び、息を引き取る。

それと同時に私も体力が底をつき、地面に倒れてしまう。


(ああ…やっぱ…旅になんか出なきゃよかったな…)


なんとなく予想はしていたが、私みたいなのが旅をするという事はこうやって死ぬ運命だったのだろう。

魔法が使えるのに野生動物にさえ勝てず、誰にも見られないで死ぬんだ…。と私は心の中で思う。


「おーい、大丈夫…?」


体は動かせないが、誰かが私に声をかけてきている。

多分幻聴だろう…。



「…おーい…おーい」


血だらけで傷だらけのエイミーの体を揺すりながら髪が長く、背の高い女性は声をかけるが反応は無い。


「うーむ…やっぱりこれだけ怪我してたら返してくれるわけないか…ん?」


背の高い女性はエイミーの近くに落ちていた二枚の依頼書を手に取り、手に付いた血を舐めながら内容を確認する。


「…へー…これ、この子が受けてくれるんだ…。じゃあ、ここで終わらせるわけにはいかないね」


背の高い女性はそういうと、エイミーに魔法をかけ彼女の傷を治療していく。


「…誰か来るみたいだし、その人にこの子任せちゃえばいいか。多分良い人そうだし」


何か気配を察したのか背の高い女性は持っていた二枚の依頼書と一緒に何か小物をエイミーのバッグの中へ入れ。その場を離れた。


「まだ諦めてなかったんだ……。「サーニャ」…」

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